the 90-Two
午前3時57分、少年はヨドバシカメラの前に立っていた。近くの自動販売機で買ったPOKKA Aromaxを飲みながら、なにやらブツブツ呟いている。すると、黒のトヨタ・クラウンハイブリッドが彼の前に止まる。外ナンバーをつけている。少年はドアを開けて、後部座席に座り込む。「寒い中ご苦労様です、乙鬼。ところで、用件は何でしょうか?」運転席に座っている男は尋ねた。年はおそらく30代前半、グレーのスーツにバーバリーのネクタイを締めている。精悍な顔つきの上にはフレームレスの999.9の眼鏡をかけている。男はギアをDに入れ、車を発進させた。
「まさか銃の話じゃないでしょうね?」
「そのまさかだ。」
乙鬼と言われた少年CZ100を思い切り投げつけた。銃は左側のダッシュボードにぶち当たり、やたら大きな音を立てて、フロアに落ちた。男は「あーそうですか」みたいな表情をし、ため息を吐いた。
「何が気に入らなかったんですかぁ?」
「まず、何度も言った様に、僕は9mmは嫌いなんだ。初速が速すぎるから、サプレッサーの意味が無くなる。」
「・・それで?」
「そして、僕は左利きだ、いいかげんおぼえてよ。」
「それは失礼。」
「だから、ほら!」
乙鬼は一つのメモ用紙を渡す。「これに僕の欲しい銃が書いてあるから、今度はぜ・っ・た・いにもってきてください!!」
「ハイハイ分かりました、明日までには用意しておきますから、そんなに怒んないで下さい。」
男の態度に乙鬼は完全にふてくされた様子で、ブツブツ言いながら鬼のような目で睨み付けている。
クラウンは乙鬼のマンションの前で止まる。ドアを乱暴にあけながら乙鬼はヅカヅカと歩いていく。
「おやすみなさ~い!」男の能天気な言葉を完全に無視して中へ入っていった。カードキーをスライドさせ部屋に入る。
「・・・シャワーは明日浴びればいっか。」そのままベッドに倒れこんだ。
東京都 浜田山にある、やや大きめのマンションの1階に、乙鬼は住んでいる。部屋はそれなりに広いが、冷蔵庫、テレビ、テーブルが少しと、家具は必要最低限の物しか置いていない。
時刻は午前11時24分、乙鬼はキッチンで昼食を作っていた。新しい銃が来るのが楽しみなのか、鼻歌を歌っている。
・・・スウェーデンのかなり下品な替え歌だった。
乙鬼がマンションの外にでたのはそれから20分後。Ralph LaurenのYシャツにマフラー、ユニクロのパーカーをまとい、とても寒そうな顔をしながら階段を下りていく。
外には既に黒色のクラウンが待っていた。乙鬼は後部座席に飛び乗るように座った。
「よく寝れましたか?」
「おかげさまで」シートベルトをつけながらドライに返した。
「そりゃよかった」
「僕の銃は?」
「もちろん」男は助手席の物入れから。ケースを取り出し、乙鬼に渡す。
ケースの中に入っていたのは一丁の拳銃だった。
「ベレッタの最新モデル、90-Twoです。あなたの要望どうり、マガジンリリースは左利き用に右側についてます」
「口径は?」
「S&Wの.40口径に変えてあります。一応、サプレッサーも専用のを用意しときました」
男は消音機を投げた。乙鬼はそれをキャッチして、装填したり、外したりしてみた。
「満足ですか?」
「・・最高だ。」
乙鬼はベレッタをホルスターにしまった。
解説コーナー:
Pokka Aromax:Pokkaが発売している缶コーヒー。出来たての香りを逃さない、「脱酸素」という特許つきの構造を持っている。CMに出ているのは大泉洋。筆者はこのコーヒーを大変気に入っており、思い切って載せてみた。
ベレッタ90-Two:イタリアの銃器会社、ピエトロベレッタが2005年に発表した自動式拳銃。基本的にM92FSのマイナーチェンジモデルである。デザインを担当したのは工業デザインの巨匠、ジョルジェット・ジュジャーロ。ピカティニーレールがバレルの下にあり、そこにレーザーサイトなどが装着可能。バレルは可変可能で、9mmパラベラムから・40SWに交換が可能。本作に登場するのは・40SW弾使用、Type-Fのアンビモデル。なおアンビとはAMBIDEXTRIOUS(両利き)という意味である。
ちなみに著者の知っている限りでは、この銃が登場している小説を3冊知っているが、どれも9mmパラベラム使用で、・40SW使用が小説に登場するのは、おそらくこれが史上初である。(ラッキー☆)




