Leathal Fragrance 1
1月2日、午前11時23分。東京、渋谷区、青山。気温は14度と極めて寒かった。皆、厚着をして、正月行事に勤しんでいる一方、霧島乙鬼は違った。もともと正月を祝おうとも、祝う義理も無いので、当ても無く、ただ国道246線をぶらついていた。Tom Ford のストライプのYシャツの上にいつもの黒いラルフローレンのジャケット、首周りにはクリスマスプレゼントに円城からもらった青いコムデ・ギャルソンのマフラーを巻いて、寒そうな顔をして歩いている。肩にはアディダスのバッグを下げていた。今日は仕事も無いので、朝の8時から家を出た。そこから徒歩で西永福駅まで歩いて各駅停車渋谷行きに乗り、あちらこちらを食いまわり、現在に到るわけである。
乙鬼はフィアットディーラーを見つけた。ガラス越しからピカピカの500(チンクエチェント)やプントエボが見える。「かわいいな」そう思ったとき、
ピピピピピピ、ピピピピピピ、乙鬼の携帯電話が鳴った。円城からだった。
乙鬼はインターカムを繋げて電話に出た。
『もしもし、乙鬼ですか?』聞き慣れた、と言うより聞き飽きた声が聞こえる。
「円城?何の用だ」露骨にがっかりした顔をした。
『今ですね、貴方の後ろにいるんですよ。』
乙鬼の後ろの車線に黒いトヨタ・クラウンハイブリッドが低速で巡航していた。
乙鬼は不意にクラウンの方へ振り向こうとした。だが素早く円城にそれを阻止された。
『乙鬼、振り向かないで下さい。』少し様子がおかしかった。
「どうして?」乙鬼は円城の異変に気づいた。一瞬で乙鬼をまとう空気が変わった。
『何者かに狙われてます』即答で答えた。
数秒ほどの沈黙が流れた。「何人いるんだ?何時から僕は?」
『人数は分かりませんが、おそらく渋谷に着いてしばらく経ってからだと思います。』
「で、僕はどうしたらいい、そもそも何をするつもりなんだ?」
『僕が隠密に護衛をします、もし何かあったら、すぐに車に逃げ込めるようにします。』
「それで、どうするの、最悪の場合、発砲してもいいのか?」
円城は数秒間回答に迷ったが、すぐに了解した。
国道246線から300メートル離れたビルの非常階段に香織はいた。対赤外線スーツを身にまとい、手にはオートマチック式小銃、アーマライト・XM110SASSが握られている。無線から香織は相方に連絡を取った。
「サンドロ、準備はいいかしら?」
紅色のメルセデスベンツ・CLS350の運転席からアレッサンドロは応答した。
『ああ、こちらも準備完了だ。これより作戦に入る。』アレッサンドロはメルセデスのキーを捻った。
3・5リッターV6エンジンに火が入る。そしてゆっくり、獲物を狙う獣の用に臨戦態勢に入った。




