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Code;π  作者: 藤文章
虚構の楼閣
13/18

13 Cross point 01

(トーリくーん、朝だよー、トーリくーん、朝だよー)

(トーリ様、朝です。起きて下さい)

(トーリくーん、朝だよー、トーリくーん、朝だよー)

(トーリ様、朝です。起きて下さい)

(トーリくーん、朝だよー、トーリくーん、朝だよー)

(トーリ様、朝です。起きて下さい)


 だあぁ、うるさいっ。

 大音量の8.1chサラウンドで聴かされる目覚まし時計。

 頭に響いた甲高い声で飛び起きる。


 今までカワイイ女の子に起こされるのが夢だったが、これはちょっと意味が違う気がする。


(ねぇ、ねぇ、トーリくん。学園に行くんだよね? 私すっごく楽しみ)


「……そうか。トーコだって、一緒に通っててもおかしくないもんな」


(うんうん。トーリくんの友達が見てみたいな)


 俺は支度しながら、頭の中に住む妖精さん達……ではなく、不思議なアプリケーション達と会話している。

 これって傍から見たら、ブツブツと独り言を呟いてるだけの怪しい人ではなかろうか。


(あの、トーリ様。差し出がましいようですが、口に出さずとも会話はできます)


「え? そうなの? ……どれどれ」


(なるほど。これでいいのかな?)


(はい、お上手です。トーリ様) (おー、やったね。トーリくん)


 さすがは俺。

 ……褒められてもあまり嬉しくないのはなぜだろう。

 それはコンソールから簡単に設定ができるからです。


 さて、行くか。





「おはようトトくん。ちょっと話を聞いてくれるかい?」


 席に着くと、ひょこひょこと小動物が寄ってくる。


「おはよう。どうした千佳ちゃん?」


 俺も挨拶しながら机に鞄を掛ける。


「文章をひらがなで書くと、子供っぽくなるよね?」


「確かにそうだな」


「文章を今度はカタカナで書くと、機械っぽくなるじゃない?」


「確かにそうだ」


「そして文章を全部漢字で書くと、中華風だよね?」


「確かに確かに」


「でさ、あたし言葉の後ろにアルヨを付けて話す中華風の人って、今まで見たことないんだけど、どーしてだろうねぇ?」


「千佳ちゃん、その前振り長過ぎアルヨ」


(なんか変な子だったね……ヒソヒソ) (ヒソヒソ……私もそう思うわ)


 頭の中でヒソヒソ話はやめてくれ。



「よう親友!! 元気か?」


 いつもの人が、後ろから肩を揉んでくる。


「おはよ、西川。なんか久しぶりだな」


「まあ、昨日はバックれたからな。寂しかったか?」


 流し目でこっち見るなよ。気色悪いな。


「言ってろ。だいたいさ、人にモーニングコール入れておいて、自分は休むってどういうことだ?」


「いろいろあるのダヨ。俺が持つ裏の顔ってやつさ。カッコイイだろ?」


「はいはい。先生来たぞ」


「おっと、また後でな」


(西川くんだっけ? あの人どこかで見た気がするなー)


(女好みの顔なだけだろ?)


(私はトーリくんのほうが好きだよ) (私もトーリ様が一番です)


 嬉しいこと言ってくれるじゃないか、涙が出るぜ。

 できれば、もうちょい成長した姿で言ってもらいたい。



 午前の授業が終わり、今は食後の歓談中だ。

 窓際で校庭を眺めながら、俺は西川と今後の傾向と対策について、活発な議論を交わしている。


「ナビゲーター講習? なんだっけそれ?」


「来週から始まるそうだ。トーリ、朝の話聞いてなかったのか?」


「いや、知ってるけど」


「……」


 悪いな。いつもの冗談だよ。


「西川はどうするんだ? 前に持ってるって言ってたよな?」


「まあな。でも、理由(わけ)あって人前に出せるようなものじゃない」


「そうなのか。うちのクラスでは、みんな持ってるんだっけ?」


「俺が聞いた限りではそうだな。まあ、持ってなくても、この土日で用意するだろう。用意する予定すらないのはトーリくらいだろうよ」


 実は昨日から持ってるんだけどな。

 ナビゲーターがこれだけ世の中に普及しているのなら当たり前か。

 全国に先駆けて 即座に新しいカリキュラムが取り入れられるのも、実験校ならではだと思う。


「「うーん、困った」」


 ハモりながら、二人して腕組みをする。

 しかし、これは本当に困った。

 みんなの前で二人を出したら、良くないことが起こる気がする。


(どうかなさいましたか?) (何かあったの?)


(来週からナビゲーター講習が始まるんだよ)


(ほんとに? 私たち大活躍だよ?) (お任せ下さい。トーリ様)


 だから、それ()怖いんだよ。一番頭が痛いのは外見だ。

 あることないこと、いろいろ言われそうで怖い。


「なあ、西川? ナビゲーターって外見変えられるのか? 例えば子供を大人にするとか」


「そこまでの変更は無理だな。せいぜい服装やアクセサリー程度だろう」


「そうか、そうだよなぁ」


(なあ、二人とも? 青いキャンディー持ってるか?)


(古いネタだねー。そんなのあるわけないよ) (トーリ様、さすがにそのネタは厳しいかと)


 言われちまった。

 さすがに“まじかる”にも限度があるか。

 そんな都合のいいものはないよな。

 大きいアスタが居ればなぁ。


「おそらく持ってない奴は欠席扱いになる。うちは変なところで厳しいからな。そう言えばトーリ、講習はプログラム科目だったな? 大丈夫か?」


「だから、困ってるんだよ、俺は崖っぷちなんだよ、このままじゃ単位が取れないんだよ、なんとしてでも講習は受けないとならないんだよっ!!」


 なぜか早口言葉になってしまった。


「「うーん」」


 結局結論は出ず、問題は先送りとなった。

 土日の二日間あれば、名案が浮かぶだろうとの甘い考え。


 うちの二人以外に実物のナビゲーターって見たことないんだよな。

 頭の痛い問題さえなければ、楽しみだったのに。

 俺はともかく、西川がなんでそんなに悩んでるのかさっぱり分からん。





 午後の授業も滞りなく終了した。

 ついに放課後だ。今日この時を俺は心から待ちわびていた。


 俺は帰宅する西川と別れ、勝ち誇った笑みを浮かべながら、アクセスルームへと向かう。

 なんてったって、今日は秘密兵器があるからな。

 鼻歌を歌いながらスキップしてしまう俺だった。


 バイトのエントリーを済ませた俺は、いつもの公園へとシフトする。


「闇の底より、我は汝を欲す――――さあ、出でよ!! 我が娘たち!!」


 俺は自作のポーズを決めながら、ご機嫌で叫んだ。

 すると、目の前には西洋人形のような格好をした双子の姉妹が現れる。

 まあ、二人とも呆れ顔だったりするが……。


「ねぇ、トーリくん? それ気持ち悪いよ。それだけはやめてね? 私からのお願い」


「私もトーコと同意見です。お願いですから、おやめ下さい。トーリ様」


 まあ、良いではないか、良いではないか。

 これでバイトの効率が一気に上がる。

 言わば稼ぎ放題。

 これぞチート。最高だろ。


「さあ、始めようか。二人ともその辺に漂ってるクラスターを消去してくれ」


「はーい」 「かしこまりました」


 片手を上げて大きく返事をしたトーコと、甲斐甲斐しくお辞儀をしたアスタ。

 二人は目標に向かってトテトテと走っていく。


 ちなみに俺はバラ君を持ちながら現場監督だ。

 小さい子は大人がしっかりと見張っていなければ。


 そして二人は騒ぎながら、クラスターを見付けては次々と消していく。

 どう見ても、公園で楽しく遊んでいる子供だった。



 しばらくして、二人を呼び戻した俺はコンソールを覗いてみる。

 そろそろ、いい感じにカウンターが増えているはずだ。


 ――――うは。ぜんぜんカウントされてないよ。


「どうやら、ここ(バベル領域)での私たちは存在しないモノとして扱われているようですね。チップの偽装機能が問題なく働いている証拠ともいえますが」


 コンソールを横から覗き込んだアスタが言う。

 背伸びしながら、一生懸命覗いてる姿が何とも。


「考えが甘かったか」


 一気に落ち込む俺。


「そんなに落ち込まないでよー。人生いろいろあるさ」


「その通りです。トーリ様」


 そう言って二人はジャンプしながら、俺の肩に抱き付いてくる。

 何気に仲がいいよな、まるで本当の姉妹みたいだ。



「お疲れ。トーリ」


 声を聞いて振り向くと、やっぱりいつもの人。


「あれ? 西川もバイトか?」


「ちょっと近くに寄……っ! な、なあ、お前に……ぶら下がってる……それ何だ?」


 震えた手でこちらを指差しながら聞いてくる。


「うぅ……。俺の……トーリにそんな趣味があったとは」


 誰がお前のものだっての。それに趣味ってなんだよ。

 またウソ泣きかこいつ。


「……まあ、俺のナビゲーター? いろいろ事情があってだな」


 昔のことは伏せ、俺は爺ちゃんのメールの件だけを、かいつまんで説明した。



「そうか、時遠博士が……。大事にしてやれよ? 俺からのお願いだ」


 なんかさっきも聞いたようなセリフだな。

 わざわざ頭まで下げなくてもいいだろうに。

 どうしたんだろうな。


「分かってるよ。この先やらなくちゃいけないこともあるしな」


「しっかし、何というか……ずいぶんと萌える外見だな。今からお前のことは“ローリ”と呼ぶ。それでいいな?」


 本人は冗談で笑わせるつもりのようだが、言葉と表情が合ってない。何かチグハグだ。

 でも、その名前だけはマジで勘弁して下さい。


「あなた西川くんだっけ? トーリくんに変なこと言うのはやめて」


 冷たく言い放つトーコ。

 さすがだぜ。素晴らしい援護射撃だ。


「あぁ……。悪かった……すまない」


 ポツリと謝る西川。


 いつもの西川らしくない。

 寂しさと優しさが入り混じったような、不思議な目でトーコを見ている。


「…………悪いが、君の名を聞かせてくれるか?」


 西川がトーコに向かって問いかける。


「私? 私はトーコだけど?」


「……っ!」


 名を聞いた途端、西川が手で目頭を覆ってしまった。


「どうした? 大丈夫か? お前変だぞ?」


「いや、何でもない。何でもないよ。悪いなトーリ、用事を思い出したんで帰るわ。またな」


「おい! ちょっと西川!!」


 近寄ろうとした俺を手で制した西川は、すぐにログアウトしてしまった。

 あんなに取り乱したあいつは見たことがない。


 いや、犬養に絡まれた時に見せた顔もそうだが、俺は西川のことをどれだけ知っているというのか。プライベートはもちろん、自宅や家族構成についても、知らないことの方が多い。


「なあ、アスタ? 今のあいつのこと、どう思う?」


「それについて、トーコには内緒でお耳に入れたい話がございます。――――失礼します」


 そう小声で答えたアスタは、俺の頭の中に転移する。


「あれ? アスタちゃん戻っちゃったの?」


「疲れたってさ」


 我ながら苦しい言い訳に苦笑する。

 アプリケーションが疲れるはずないよ。

 ウソは苦手なんだよな。


「ふーん。じゃあ、私はどうしよっかな」


 ウソでも素直に聞いてくれる、そんな純粋なトーコがとても眩しい。


(トーリ様、トーコに悟られないようにして下さい)


「俺はトーコが頑張る姿が見てみたいな。ちょっとその辺りを掃除してみてくれ」


「うん! 私、頑張っちゃうよ!!」


 トーコは猛ダッシュで駆けていく。

 ほんと子供っぽいな……いや、何を考えてるんだ俺は。

 知識はあっても、子供の頃の記憶しかないのだから、当たり前だ。


(……それで話とは?)


(単刀直入に申し上げますと、先ほどの西川という者はトーコの兄です)


(まさか、うそだろ!?)


(いいえ、間違いございません。あの者はトーコと双子ですから、魂と申しますか根源的な物の考え方はトーコと似たものを持っております。今までトーリ様も何かお感じになりませんでしたか?)


(……あぁ、言われてみれば確かに。でも、トーコとは結びつかなかった)


(つい昨日まで、トーコの記憶失っておられたのですから、気付かなくて当然です。それと、トーリ様は再会してからのトーコが、今も家族のことを一切口にしていないことにお気づきでしょうか?)


(俺に気を使ってるだけかと思ってたけど……)


 走り回ってるトーコを見ながらアスタに問う。


(当時の年齢からして、通常であれば家族のことが気になって仕方がないはずです。ところが、トーコにはその気配がありません。それがなぜだかお分かりになられますか?)


(……記憶が?)


(いいえ、今朝あの者に対して何かを感じ取ったようですから、残っているはずです。しかしながら、トーリ様以外に対しての感心が極端に薄い――――あの時、私が助け出したトーコの核は、言わばトーリ様への想いで作られた結晶のようなもの。私と融合しても、自我を保ち続けていられたのは、そのせいかと思われます)


(……)


(記憶はあれど、想いはあらず。今のトーコには家族への想いや、友人への想いといったものは、存在していないでしょう。トーリ様以外の人間は全て他人に見えているはずです)


 目の前で何も知らずにはしゃいでいるトーコ。


(どうしてそうなるッ!!)


 俺は溢れてくる涙を必死で堪えながら、地面を思い切り踏みつける。

 あんなことがなければ、今頃トーコは家族や友人達に囲まれて、楽しく暮らしていたはずだ。


 あの日トーコが仮想世界にログインしたのは、暴走した俺のチップを止めるため。そして、この十年間、俺のためにずっと記憶を封じていてくれたのだ。


 こんなことになったのは全て俺のせいじゃないか。今まで何も知らずにのうのうと生きてきた自分に無性に腹が立つ。


(ご自分を責めるのはおやめ下さい。憎きはあの事件を引き起こした者にございます)


(……西川もあの日のことは知ってるんだな?)


(はい。あの日、数々の想いと共に消える、真のトーコを看取ったのはあの者です)


(……何だって!?)


 あいつは今まですべてを知った上で、俺に付き合ってきたのか。

 さっきの様子からして、ただ事ではなかった。


 大事にしてやれよと頭を下げたその姿。

 トーコの名を聞いた時の取り乱し様。

 すべて合点がいく。




 バイトを早々に切り上げた俺は一旦帰宅した。


(ねぇねぇ、トーリくん。どうしたの?)


(トーコ、しばらくの間だけ、そっとしてあげて)


 俺はあいつと話をしなければならない。

 それも今すぐにだ。

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