12 Plugin app 02
「で、これはどういうことかな?」
俺はプチサイズアスタに問いながら、ソファーに腰掛ける。
隣に座らせたはずのトーコは、いつの間にか膝の上にちょこんと乗っていた。
「おそらくは先ほど力を使い過ぎてしまったのが原因かと。存在自体が不安定になってしまったようです」
「身体の調子は大丈夫なの?」
「はい、問題ありません。それと、今の状態であればトーリ様の中に戻れるかも知れません。……少々失礼致します」
そう言ってアスタは、すぐに光の粒となって消え去る。
(トーリ様、聞こえますか?)
「うん、聞こえてる。へぇ、すごいな。これが常駐状態なの?」
(はい。これならログアウト後も共に行動ができます)
「そうすると、トーコはどうなるんだろう?」
(それは直接本人にお聞きになったほうがよろしいかと)
アスタが頭の中から戻ってきた。
自分の頭の中から出て来るなんて、ちょっと信じられない。
「なあ? トーコ? お前も同じことできるか?」
「いま、アスタちゃんがしたことなら、できるとおもう」
「……ちょっとトーコ! あなたいい加減に子供のフリはおやめなさい!!」
アスタが両手を腰に当て、むくれ顔で言う。
ぜんぜん怖くない。むしろ愛らしい姿。
父親ってこんな気分なんだろうか。
「えへへ。バレちゃった?」
まるでイタズラが見つかった子供のように舌を出している。
どういうことだろう。
俺は疑問の表情でアスタを見た。
「トーコ自身は年齢相応のはずです。エピソード記憶こそ幼少時までしかありませんが、この十年間でトーリ様の脳から学問や日常生活といった、一般常識的な知識は学習しています。それに先ほどトーリ様が意識を失っていた間、私は現在のあらゆる情報にアクセスしました。身体を共有していた以上、それらの情報も全てトーコに流れ込んでいると考えて良いでしょう」
理路整然とした口調で語るアスタ。
外見とのミスマッチ感に、つい笑みが漏れてしまう。
「そうなのかトーコ?」
なんか目を逸らしてるぞ。
「うん、自分でも良く分からないんだけどね。小さな頃の記憶しかないのに、いろいろな知識だけはあって、なんだか不思議な気分かな」
トーコはそっぽを向きながら、同世代風の口調で話す。
「トーコー! 騙したなー? くそぅ、こうしてやるー」
頬っぺたつまんでフニフニの刑だ。
「キャッ! キャッ!」 「まてコラーッ!!」 「キャッ! キャッ!」
「待てルゥパァン!!逮捕だーっ」 「勘弁してくれよ、銭形のとっつぁーあん!!」
“あらゆる情報”にアクセスしたってのは伊達じゃなかった。
そして10分後。
「おほんっ!!」
わざとらしく咳をするアスタ。
頬を膨らませ、もの凄い剣幕で睨んでいる……はず。
本人は絶対にそう思っている。
決して笑ってはいけない。
もうね、目に入れても痛くないとは、きっとこのことを言うんだよ。
俺はその愛くるしい姿を、心のカメラにしっかりと焼き付けた。
「で、しばらくの間は元に戻れないってこと?」
俺は改めてソファーに座り、アスタから事情を聴いている。
今度は二人とも膝の上だ。ちょっと辛い。
「はい。そもそも、二人が同時に存在できること自体がおかしいのです――――」
俺はアスタから、あの日に仮想世界で起きたことを聞かされた。
要約すると……。
1.何者かに襲われて半身が吸収されてしまった。
2.吸収から免れたトーコの核をアスタが助け出して融合した。
3.暴走している俺のチップを止めてくれた。
4.記憶を封じるために、あの日から俺の脳神経を一部封鎖していた。
5.本来の力を取り戻すためには、襲った奴を見つけ出して倒すしかない。
6.あの日からリアルでのトーコはずっと病院で眠っている
こんなところだろうか。
「すると、爺ちゃんが送ってきたファイルは、俺の中から融合した二人を引っ張り出すためか?」
「はい。他にも仕掛けが施された形跡がありますが、基本は一人の人間として再構築するためのプログラムでした。しかしながら、半身を失っていることまでは計算外だったようです。不測の事象が重なって、今の状態に落ち着いたのではないかと」
「リアルの方にトーコの身体があるんだよな?」
「はい。機械に繋がれた動かぬ身体で良いのであれば、私が病院のシステムをハッキングしてお引き合わせすることは可能です」
「いや、二人ともここにいるわけだから、そんなリスクを背負ってまでリアルで逢う気はないよ」
俺はそう言って二人の頭を撫でる。
しかし、怖いことをさらっと言うよな。
コキュートス行きだけは勘弁だ。
「ごめんね。トーリくん」
少しだけ俯いて呟くトーコ。
謝る必要なんてない。責められるべきは俺なんだよ。
俺はさらに頭を撫でる。
「そうすると、まずはトーコを襲った犯人捜しか。何か手掛かりはあるのか?」
「はい。あの時は一瞬の出来事でしたので、それほど詳しくは覚えていないのですが、少しだけ私たちと似た雰囲気を感じました」
「似た雰囲気とは?」
「推測ですが、人間と合成されたプログラムではないかと」
そんなものが存在するのか。
まあ、目の前にも居る以上、信じざるを得ないか。
「戦うにしても、力の方はどうなんだ? さっき程ではないにしろ、ある程度の力は出せるのか?」
「はい。試してはおりませんが、現存する平均的なエクスプローラー程度の力であれば、私一人でも出せると思います。足りない場合はトーコも手伝うでしょう。そうよね? トーコ?」
「うん。私に任せなさい!!」
ドンと胸を張って答えるトーコ。
いちいち仕草が可愛らしい奴だ。
ああ、そっか。
大きいアスタは、クールなところがプチアスタ、愛想がいいところはトーコなのか。
ほんの少しの間だったけど、ほんとに美人だったな。
トーコが成長すると、ああなるのだろうか。
「そう言えばトーコ? さっきアスタと同じことができるって言ったな? 俺の頭に入れるか?」
すっかり忘れていた。試してみる価値はある。
「うん、やってみるね。それっ!」
トーコが消え去る。
(おーい、トーリくーん、聞こえるかなー?)
「ああ、ばっちりだぞトーコ。この状態でアスタも入れるか?」
「はい。試してみます」
そしてアスタも消え去った。
(トーリ様? どうやら入れたようです)
(えーっ!? アスタちゃん邪魔だよーっ!!)
(なんですってー!? トーコ、あなたこそどきなさい!!)
「……お願いだから、頭の中で喧嘩しないでくれよ」
この先が少しだけ心配になってきた。
溜め息を吐いて時計を見ると、ずいぶん遅い時間だ。
明日も学園がある。そろそろログアウトしないとな。
「それじゃ、帰るぞー」
(はーい) (はい)
(……)
「あれ? ログアウトが遅い。直ってないのかこれ」
(それはトーリ様のチップに搭載された偽装機能によるものです)
「偽装機能?」
(はい。今まで私たちの存在が露呈しなかったのも、この機能のおかげかと。ログイン・アウトのたびにバベル内にあるトーリ様の情報を書き換えているのです。また、情報収集プログラムからも隠蔽されるように設計されています)
「へぇ……そうだったのか。でもなぜ?」
(トーリ様のチップは登録上、数世代前の古いものとされていますが、実のところはお爺様がお作りになられた唯一無二のカスタムチップ。元は素性を隠すために搭載された機能です)
じゃあ、俺がダイブ遊びができないのはチップのせいってことか。
勘弁してくれ。余計なものを頭に仕込まないでくれよ爺ちゃん。
「それにしてもナビゲーターって便利だな。聞きたいことがあれば、アスタに聞けばいいのか?」
(はい、なんなりとおっしゃって下さい)
(私だって分かるもん!!)
「へいへい。トーコにも聞くよ」
結局いつもと変わらないログアウト時間で部屋に戻ってきた。
久しぶりに自分の部屋を見たような気がする。
「二人とも元気かー?」
(はーい) (はい)
うん、ちゃんと付いてきてるな。
とりあえず、今日はいろいろあって疲れた。
考えるのは明日にして、ゆっくり休もう。




