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IF―輝ける明光  作者: 輝ける星光
序章 反逆の徒
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第4話:闘争の白

執筆者ういいち

 前後から歩み寄ってくる帝国の尖兵。黒い外装で覆われたそれは、ヴィシャリスと同程度の大きさを持つ人型の無人兵器だ。白い機体よりも一回りは装甲が厚く、俊敏さはあまり感じられない。その代わりに堅牢そうであり、攻防能力の高さが窺えた。

 全体を夜の闇にも負けぬ黒一色で統一した敵機の胸郭には、黄金の鬣を持つ獅子が一本の剣を咥えた意匠、軍事国家グロバリナ帝国の紋章が刻まれている。肩口から下ろされ、背面と腕部を隠すよう設けられたマント型の外部装甲によって、携行しているだろう武器は判然としなかった。それでも敵が確かな攻撃能力を有し、しかも無人機であるが故に躊躇のない攻勢を取る事は知れている。油断も安心も出来よう筈がない。

 じりじりと距離を詰めるのではなく、大胆に直線距離を突き進んでくる帝国魔導兵器達。行動は粗雑で単純だが、小細工を弄さぬからこそ純然たる火力は大きい。とかく都市制圧を目的として投入されるタイプは、基本行動が破壊活動による都市機能の消滅にあり、それが為パワー重視の戦闘モデルであるのが常だ。

 まともに組み合うわけにはいかない。数の上でも圧倒的に不利。それでもヴィシャリスは単機で乗り込んできた。即ち、勝算があるということだ。

 黒い敵機が一定距離を越えた時、ヴィシャリスの指が機関砲のトリガーを引いた。右手に握られていた長大な銃身が震え、三連装の砲門から大量の弾丸が吐き出される。その一発一発が正面に陣取る魔導兵器へと向かい飛び、胸部や腹部一帯へと次々に着弾した。高速で射出された弾丸群は黒い装甲へ激突するや、眩い火花と強い衝撃を生み食い込んでいく。回転する弾頭に合わせて厚い護りが螺旋に抉れ、何十という侵入物が一瞬にして防御を突破する。

 在るべき壁を容易く穿った弾丸は、進路上の配線及び機器の繋がりを破壊した。一切合切余さず突き抜け、引き千切り、熱と力で焼いて砕いて食い破る。命中した弾という弾が等しく直線軌道を愚直に進み、躯体深奥に組み込まれた魔導機関へ到達するのに要した時間は僅か数秒。

 強固な装甲と頑健な防護壁とに囲まれ、機体の中心部に位置付く銅鐸型の装置。それが旧文明が生んだ魔導兵器の心臓である魔導機関だ。撃ち込まれた弾丸群は悉くが外壁を突破して、この銅鐸へと飛び込んでいく。最後の防壁を突破された中枢機関は逃げることも叶わず、前方位から差し迫る連弾に造作なく貫かれた。

 初撃によって齎される弾雨が最重要部を破壊した時、帝国魔導兵器の一体は頭部スリットの光点を消して停止する。それまで続けていた動きが完全に止まり、その場で微動だにせず立ち尽くす。

 魔素、或いは魔力と呼ばれるもの。それは特別な術式を以って操ることで爆発的なエネルギーを生み出し、超自然的な現象を任意に発現させられる魔法の源。神秘の力。大気へ溶け込み多量に漂うこれを自動的に収集し、動力へと変換する装置が魔導機関だ。魔導兵器との戦いとは、この魔導機関を如何に破壊するかである。

 幾層もの防衛装甲に護られた心臓部を、二度と活動しないよう機能停止へ追い込むのは難しい。圧倒的な力で防備ごと打ち貫き損壊させるというのは、非常に乱暴で短絡的な手段だが、しかし最も確実且つ効率的な方法であった。

 最初の一体を撃破するのと並行して、ヴィシャリスは左手に装備する銃器の引き金も絞る。長さとしては右手の機関砲と同等だが、全体に太く重量感がある。発射機構が働き、洞穴めいた暗い銃口から放たれたのは榴弾だ。

 空中を滑り、左方から距離を縮める魔導兵器へ突撃する。比較的薄い弾殻は対象の胸郭へ触れた直後に破裂し、収められていた炸薬を解放した。伝わった衝撃が内蔵火薬を刺激して、連鎖反応的に爆発を引き起こす。夜闇に咲いた紅蓮の華は、爆風と灼熱で漆黒の装甲を炙り、積層する鋼の護りを吹き飛ばした。

 たった一度の爆発で何重もの防護域を喪失し、魔導兵器の胸郭には黒々とした大穴が開かれる。盛大に砕け散った装甲片が火の粉共々街路へ落ちる最中、ヴィシャリスの左手は狙いを違えず第二射を撃ち放った。反動で銃身が俄かに跳ね上がるも、その時には既に榴弾は目標へと直進している。

 塞ぎようのない欠落へ吸い込まれていく爆裂弾。遮蔽物の存在しない空洞を邁進し、辿り着くのは深奥の銅鐸であった。逃げ場のない魔導機関へ弾頭が接触すると、弾殻が爆散して大量の熱波が荒れ狂う。機体内部を猛火と衝撃が駆け抜け、各機関を高熱量で融解させる。機体の心臓部は粉々に粉砕され、原型留めぬまま爆炎へ飲まれ消滅した。

 左右に陣取った帝国機を撃破した時、後続の敵機体が反撃行動を起こし始める。行進中だった黒い隊列の歩みが止まり、マントを打ち振るって片腕が持ち上げられた。正面へ向く黒い腕部機構には指がない。丸みを帯びた楕円型の掌には四つの穴が開けられており、その奥深い闇がヴィシャリスを捉える。

 前触れもなく穴が唸り、そうかと思えば鋭い刃が四つの空白から躍り出てきた。それは細く長く鍛えられた特殊鋼の鋭爪。鈍く輝く破壊の爪は夜闇を掻き分け、鞭の如く長々と伸びる。一瞬の間に多大な距離を踏破して、一切の感情を差し挟まず、獲物目掛けて襲い掛かった。

 だがその攻爪が標的を貫くことはない。撃ち出された爪の接近に応じ、白い機体が上体を逸らす。僅かな動きで襲撃勢の進路が違えられ、四つの刃は目的を遂げずに虚空を抜ける。素早く走った爪はヴィシャリスの装甲を削らぬまま、紙一重の差で側方を越えた。

 鋭爪を寸でで躱し、その出所へ白い左腕が巨銃の狙点を定め直す。再度照準を合わせると同時にトリガーが引かれ、高い破壊力を秘めた榴弾が黒兵装の頭部を吹き飛ばした。続け様に絞られる指へと応じ、連続して放たれる炸裂弾頭に帝国機の胸部、魔導機関が相次いで撃砕されていく。

 その間にも別方向から同様の襲爪が迫り来る。これへ対しヴィシャリスは背部バーニアを点火し、急性的な移動措置にて回避を実行。舞い飛ぶ爪の間隙を縫い、路面を高速で滑り走った。四方から襲う攻撃を巧みに避け、一撃さえも装甲へ触れさせずに土煙を引く。

 後退から横滑り、前進、即時の方向転換、あらゆる機動を華麗にこなし、踊るように全ての攻撃をやりすごす。これへ加えて右腕に装備する機関砲を斉射し、正確に攻撃主を叩き壊した。眼前を掠めた爪があればその基点へ銃口を向け、連弾で装甲を貫き潰す傍ら、左腕では別の機体へ榴弾を撃ち込む。帝国機の攻勢を悉く掻い潜り、それと同時に敵勢体の躯体を容赦なく破壊する。

 前後からの挟撃に際してもヴィシャリスの動きは流麗であり、苦もなく横方へすり抜けると銃撃を返す。軽快に反転して敵機を体面に据え置き、前方の黒には機関砲、後方の装甲には爆裂弾と、異なる大火力を同じタイミングで命中させた。

 走り続けながら更に方向を変える白機の、巨大な右肩部装甲が展開される。強健なショルダーアーマーが上下へ分かれて開かれると、内部に納められていた大量の小型ミサイルが露となった。半瞬後、総数56発というミサイル群が同時発射され、それぞれが多方向へと進撃していく。誘導弾倉から解放されたマイクロミサイル達は、個々に設けられたホーミング機能に従い帝国魔導兵器を猛追する。

 恐るべき速度で飛翔するミサイル群からはどの機体も逃れられず、20へ及ぶ魔導兵器が瞬く間に接近され、次々とこれへ激突。双方の接触が誘導弾を起爆させ、凄まじい衝撃と業火からなる爆発に敵機を沈めた。方々で巨大な余波が脈打ち、水面へ生まれた波紋さながらに熱火は震え広がる。暴力的な破壊の顎が着弾対象を噛み砕き、硬い覆いを飴細工もかくやに溶かしてしまう。爆心地では多大な損壊を遂げた黒い装甲が瓦礫へくずおれ、激しい火柱がこれを包み聳えていた。

 半壊した都市は荒々しい朱に染め上げられ、燃え滾る焔に地平までが舐められる。濛々と噴き上がる黒煙と、天を突かんと立ち昇る大火に彩られた街並みに、白い巨人は堂々たる威容で佇んでいた。周囲を焦がす破滅の色に照らされて、全てを砕く破壊者は高らかに得物を掲げる。

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