EX(119.13).世界樹の森・大缶蹴り大会(前編) ◆★
『Cānkeris Ruhit Cōno Iubito Māre』
『Cānkeris Ruhit Cōno Iubito Māre』
『Cānkeris Ruhit Cōno Iubito Māre』
みゅ、みゅ、みゅ。
今日は、ミューズをお休みする日。湖の上の新しいおうちにはいなくてもいい日。
だから、今日はミューズはいない。
いなくなったわけではなくて、ミュルナと、ミュリナと、ミュシア。
三人に戻って、それぞれ好きなように過ごしているだけ。
お外には黄金から戻していない人も、町も、畑も、まだまだたくさんあるみたい。
ミューズに助けてほしいと願っている人たちだって、探せばきっといる。
けれど、ママが言っていた。
やることなんて、探せば探しただけ、いくらでも出てくる。
全部なくなるまで休まないなんて言っていたら、一生休めない――らしい。
だから、ミューズにお休みの日ができた。
ミューズになろうと思えば、いつでもなれる。
三人合わせればミューズで、三人はいつもいっしょだから、水を重ねて一つになればいい。
とっても簡単。
でも、今日はやーらない。
『きょうのミュルナ、ミュルナ!』
ズミュルナ湖の深い水底で、ミュルナが胸を張った。
誰かに向けて言ったわけじゃない。自分のえらさを確認しただけ。
『……ミュリナも、きょうはミューズしない』
すぐ隣で、ミュリナも小さく頷く。
ママが決めたお休みの日を、ミュリナはちゃんとやり遂げる。
『しぁーもー! おさしみー!』
ミュシアは二人の周りをくるくると回りながら、水底の砂へ頭から突っ込み、エビのように跳ねた。
特に意味はない。ミュシアはその時の気分で生きてる。
湖上には、救世の女神ミューズのために造られた御座所――水神宮がある。
大勢の人が毎日お祈りに来る。お花を供えたりもしてくれる。
リディアと一緒に文字を勉強したり、人間から届いたお願いを聞いたりする場所でもある。
でも、三人にとって、そこはミューズとしてのおうち。
ミュルナと、ミュリナと、ミュシア。
三人にとって一番落ち着くおうちは、湖のもっとずっと深いところにある。
ママが湧き出してくる一番深いところより、ちょっと手前。
きんきらのホンシャビルのある辺り。
右を向いても、ママ。
左を向いても、ママ。
上も下も、ずっと向こうまでママの水。
三人が身体の形を少しほどけば、そのままママの水へ溶け込んでしまえる。
だから、三人はズミュルナ湖の底が大好きだった。
ママが遠くへお仕事に出かけている時だって、ここへ帰ってくれば寂しさは少し小さくなる。
ミューズがお休みの日はリディアもお休み。
お休みの日には一緒に遊ぶこともあるし、それぞれ別のことをして過ごすこともある。
喧嘩してるわけじゃないけれど、今日は別々の日。
あとで何をしてたのかお話したり、手紙を書いたりするのも楽しい。
『なにしよー?』
ミュルナが尋ねると、ミュリナはしばらく水底を見回した。
『おさしみー!』
『……ちがう、おやすみ』
『じゃあ、あそぶ!』
『あそぶぉー!』
『なにして……?』
『ぶぉー! ぶぉん!』
ミュシアは、何も考えていないらしい。いつもどおり。
ミュルナはお姉さんだから、妹たちのことまでちゃんと考えられる。
今日はミューズにならない。
お仕事しない。お勉強もお仕事みたいなものだからメー。
リディアはおでかけ。
三人だけで何をしよう?
――その時だった。
『……みゅ?』
ミュリナが、ふいに顔を上げた。
湖の深いところには、ちょっと違う水の流れがある。
昔からあったものではない。
地面のずっと下を通り、遠い世界樹の森まで続いている、のじゃーたちが造った水の道。
その流れに乗って、何か緑色のものがゆっくりと近づいてきていた。
『はっぱ!』
ミュルナが真っ先に飛びついた。
ちびの三人の身体よりも大きな葉だった。
湖の周りの木に生えている葉とは違う。ぶ厚くて、葉脈も太くて、何よりものすごーく、でっかぁ。
だから、三人はすぐに分かった。
『ミツバ!』
『ミツバ、おてがみ……』
『でっかぁ!』
世界樹の葉っぱだった。
ミュルナが両手で抱え、うんしょとひっくり返す。
表側には、少し歪んだ、三文字のヒラガナ。
ママがミツバに教えてる、ママのことば。
三人は、まだちょっとしか知らない。
『……あ』
ミュリナが指で最初の字をなぞった。
『そ』
次。
『ぼ』
三つ目。
少し考えてから、顔を上げる。
『……あそぼ』
『ミツバ! よんでる!』
ミュルナのヒレがぴんと立った。
こんな大きな葉っぱに「あそぼ」と書いて流してくる相手なんて、ミツバしかいない。
『あそぶぉー!』
ミュシアはもう水路の方へ向かっていた。
『……もり、おでかけ』
三人は葉っぱを抱えて、水底を蹴った。
『はやく!』
『ミュルナ、まって』
『しぁー、はやーい!』
『ミュシア、そっちちがう!』
『みょー?』
三人の小さな身体が、地下水路へ飛び込んだ。
のじゃーたちが、地面の下へ造った狭くてながーい水の道。
どうやって作ったとか難しいことは、三人にはよく分からない。
三人が知っているのは、もっと簡単なことだけだ。
この道をずっと行けば、ミツバのおうちへ着く。
それで十分だった。
※※※※※
世界樹の森。
地下遺跡にある古い井戸が、ぼこぼこと音を立てた。
静かだった水面が膨らみ、次の瞬間には水が大きく跳ね上がる。
『ミューッ!』
最初に飛び出したのはミュルナだった。
井戸の縁を越え、そのまま宙で一回転して石床へ着地する。
『みっ! ついたぁ!』
続いてミュリナが静かに浮かび上がり、最後にミュシアが勢いよく飛び出して、周りへ盛大に水を撒き散らした。
『おじゃま、します……』
『しぁー! キターー!』
三人の声が遺跡の大広間へ響く。
すぐに、向こうから重たい足音が返ってきた。
どっ。
どんっ。
どっどっん。
人間なら思わず身構えてしまいそうな音だったが、三人は揃って顔を輝かせた。
巨大な柱の向こうから、大きな木の幼女が姿を現した。
若草色の髪。
枝のように伸びる角。
そして頭の上で揺れる、萌黄色の三枚の葉っぱ。
『ミュルナ! ミュリナ! ミュシア!』
『ミツバ!』
ミュシアが真っ先に飛んでいった。
ミツバが両手を差し出すと、小さな水の身体がその掌へすっぽり収まる。
『ともだちー!』
『ともだち! いいね!』
ミツバの三枚葉が嬉しそうに揺れた。
そこへミュルナも飛んでいき、ミツバの頭へ飛び乗り、三枚葉のそばへ着地した。
『ミュルナ、きた! もうだーじょー!』
『だーじょ?』
『ん!』
ミュルナはとにかく自信満々に腕組みして頷いた。特に意味はない。
ママはミツバのことを「オトナリサン」と呼んでいた。
困った時や寂しい時に呼べば来る、近くにいる人なのだという。
ミツバもママのだいじ。
ミツバより先にママのだいじだった自分たちの方がお姉さんだ。
なら、いもうとを助けるのが、えらいお姉さんなのだ。
『……ミツバ、いもうと』
ミュリナも頷く。
ただし、その後に少しだけ首を傾けた。
『たぶん』
『ミツバ、おっきいよ?』
ミツバは自分を指差した。
三人もそれぞれの場所からミツバを見る。
確かに大きい。
ミュルナたちなど、ミツバが両手で抱えれば三人まとめて持ててしまう。
ミュルナのヒレが、ぴくりと動いた。
『……ミュルナも、おっきい』
『ミュルナ、ちっちゃい』
『ヤーッ! ちび、ちがう!』
ミュルナはミツバの頭から飛び降りた。
『おっきくなるもん!』
『……ミュリナも』
『しぁーもー!』
『おっきく?』
『みてて!』
三人は揃って井戸へ向き直った。
ミュルナが真っ先に水面へ両手を突っ込む。
『んみゅぅぅぅ……!』
井戸から水が吸い上げられていく。
透明な流れがミュルナの腕から、小さな身体へ流れ込んでいく。
水の身体がみるみる膨らんでいく。
胴体が真ん丸に膨れあがり、そこから、頭、腕、脚へと行き渡る。
水色の髪が広がり、枝角も身体に合わせて大きくなっていった。
『ミュルナ、おっきい!』
あっという間に、人間よりずっと大きな身体になる。
けれど。
『ミツバ、もっとおっきい』
『んみゅぅーっ!』
ミュルナは頭の高さを見比べ、さらに水を吸った。
ごくごく、ぐぐぐ。もう少しだけ水を足して、がぶがぶ、ぐんぐん。
とうとう、ミツバとほとんど同じ高さになった。
体型も顔つきもそのまま、ただ大きくなったミュルナは嬉しそうに両腕を広げる。
『ミュルナ、ミツバといっしょ!』
『いっしょ! いいね!』
今度はミュリナだった。
ミュリナは、ミュルナみたいに急がない。
何度も高さを見比べながら、少しずつ水を足していく。
『……ん』
ミツバと高さが揃ったところで、ぴたりと止まった。
『いっしょ』
『ミュリナ、いっしょ!』
『しぁーもー!』
最後のミュシアは、加減をしなかった。
井戸の水が大きく揺れ、一気に身体へ吸い込まれていく。
頭も手足もほどけて、ただの水の塊になる。
まぁるい水球がみるみる膨らんで、パッと弾けるように人型になった。
『んみみゃぁぁぁぁ――!』
ミツバ、ミュルナ、ミュリナより大きい。
飲み過ぎたのだ。
『しぁー、おっきー!』
『おっきすぎ!』
『ミュシア、メー』
『ンメェー?』
ミュシアは足元を見た。
いつの間にか、ミツバを少し見下ろしている。
『しぁー、もっとおっきい!』
『いっしょじゃない! メーッ!』
『……いっしょ、する』
『みぅー』
姉二人に止められ、ミュシアは余分な水を井戸へ戻して縮む。
並んだ四人がほとんど同じ高さになった。
『いっしょ!』
『おんなじ』
『イカドウブンー!』
同文というのが何なのかは、ミュシアも知らない。
『おんなじ。いいね!』
四人とも笑った。
ミツバは、自分と同じ高さになった三人を珍しそうに見回した。
『おっきい、どうやって?』
『マァマ!』
三人がほとんど同時に答えた。
『イズミ?』
『ママ、おっきいミューズしたの!』
ミュルナが両手を大きく広げる。
『ひのおやま、にんげん、たすけたって』
ミュリナが付け足した。
『クソデカミューズ!』
ミュシアはさらに腕を広げた。
少し前。
火の山から帰ってきたママは、三人へ神妙な顔をして話をした。
人間たちを逃がすために、ミューズの姿を使ったこと。
しかも、とーっても大きなミューズになったこと。
勝手にやったから、とママはごめんなさいした。
三人には、何を謝られているのか、あまりよく分からなかった。
ママがミューズになって、大きくなった。それだけなら、怒るようなことは何もない。
それより、もっと大事なことがあった。
『おっきい! たのしそー!』
『そう! ミュルナ、いちばんにならった!』
『ミュリナのほうが、さきにちゃんとできた』
『しぁーも! しぁーも!』
『イズミ、おしえた?』
『うん!』
だから三人は、身体へもっと水を集めること、増えた水をばらばらにせず、いつもの自分と同じ形にまとめておくことを教わった。
ママは「お前ら、そんなもん覚えて何に使う気だ」と呆れていたけれど、やり方を教えてくれた。
『ミツバも、おっきくなれる?』
ミュルナは即座に頷く。なんとでもなるはずだ、たぶん。
『なれる!』
根拠はない。でも、ミュルナがやれると言ったらやれるのだ。きっとそう。
ミュリナは少し考えた。
『……やりかた、ちがうかも?』
『ミツバ、もっとでっかぁ?!』
ミュシアは両腕を上げた。
自分たちも、ミツバも。
どんな風に、どこまで大きくなれるのかは、三人も知らない。
でも、今のところはこれでいい。
ミツバが大きくなったら、もっと大きくなろう。
今は同じになれたのが楽しかった。
『じゃあ、あそぶ!』
『あそぶ!』
『なにする?』
ミツバは少し考えると、三枚葉をぱっと起こした。
『カンケリ!』
『カンケリ?!』
『……ん』
『けるー!』
ミュシアだけは、何も分かっていないのに片脚を振り上げた。
『カン、ある!』
ミツバはそう言うと、遺跡の奥へ向かって走り出した。
『ミュルナも!』
ミュルナがすぐ後を追う。
大きくなったせいで、いつもより一歩が大きい。
『ミ、ミュ――』
三歩目で、右脚をどこまで出したのか分からなくなり、身体が前へ傾く。
『――ルナァッ!?』
ばっしゃあああん!
巨大な水の身体が石床へ倒れ込み、弾けて大量の水が周囲へ飛び散った。
『……』
ミュルナは両手を前へ伸ばしたまま、床へ伏せた。
少し遅れて歩いてきたミュリナが、じっと見る。
『ミュルナ、ころんだ。へたっぴ』
『ころんでない!』
『ころんだ』
『メェーっ!』
『しぁー、デカはやーい!』
その横を、ミュシアが大股で走り抜けた。
どっぷん、どっぷん。
一度動き出すと、思ったよりずっと前へ進む。
『みゃ! みゃ! んみ――』
止まろうとおもったけれど、脚が止まっても身体だけ前へ流れた。
『みゅあああああ!?』
ミュシアは両腕を振り回しながら突進し、そのまま壁へ激突した。
ばしゃんっ!
ミュシアは弾けて水たまりになった。
『……』
『……』
『んびゃああ! ばっちぃの!』
床に広がった水の中から、ミュシアが身体を造り直してワァワァと騒いだ。
『メー!』
結局、転ばなかったのはミュリナだけだった。
ただし、一歩ずつ慎重に足を運んでいるため、とても遅い。
先に黄金の缶を取りに行ったミツバが戻ってきても、まだ広間の半分にも届いていなかった。
『ミュリナ、あるく、おそい?』
『……うん』
ミュリナは自分の脚を見る。
普段なら、もっとすぐに動ける。曲がるのも、止まるのも、簡単だ。
『……おっきい、めんどい』
ミュルナが起き上がった。
『やーめた! ミュルナ、ちっちゃくなる!』
『ミュリナも……』
『しぁーもー!』
三人の身体から、ざあっ、と水が足元へ落ち、井戸へ、床の水路へ、地面の下へ戻っていく。
大きかった身体がみるみる縮んで、あっという間に、いつもの三人。
『ミュルナ、こっちのほうが、はやーい!』
ミュルナが走る。ちびだけど、さっきの大きな身体よりずっと速い。
今度は転ばないし、途中でいきなり曲がっても、ぴたりと止まるのも余裕。
『まだ、こっちのほうがいい』
ミュリナも頷いた。
『しぁー、くるくるー!』
ミュシアはその場で何度も回転した。
泥混じりでばっちくなっていたので、姉二人に浄化される。
ミツバは、小さく戻った三人を見下ろしてから、自分の身体を見た。
一緒になれた時は嬉しかったけれど、三人には不便らしい。
『ミツバも、ちっちゃくなる?』
『ミツバは、それでいい!』
『……ミツバ、おっきくていい』
『ミツバ、でかつよー!』
『でかつよ!』
意味はよく分からないまま、ミツバの三枚葉が得意げに開いた。
ミツバの抱えている金色の円錐に、三人の視線が集まる。
『ママのきんきら!』
大きな世界樹の葉を丸めて、重なったところへ茎を刺して黄金にしたもの。
昔、イズミとキコリと遊んだ時に作ったもの。
明らかに缶ではない。でも、缶蹴りに使うのだから缶なのだ。
『イズミ、カンつくった!』
『ママのカン!』
『きんきら、けっとばすのぉー!』
『……どうやるの?』
ミツバは黄金の缶を抱え、遺跡の外へ歩き出した。
『ミツバ、カンケリ、おしえる!』
※※※※※
世界樹の森へ出ると、ミツバは開けた場所の真ん中へ黄金の缶を置いた。
三人がその周りへ集まる。
『ひとり、オニ』
『オニ!』
『オニ、め、かくす。かぞえる。みる、だめ』
ミツバは両手で自分の目を覆った。
『みんな、かくれる』
『……かくれんぼ?』
水の中だとお互いの場所はすぐわかっちゃうので、三人はあまりやらない。
でも、お外ならけっこう楽しい。リディアとも遊べるから好き。
『オニ、かくれてるの、みつける。みつけたら、カン、もどる』
ミツバは黄金の缶を指差す。
『なまえ、よぶ』
『ミュルナ!』
『ミュルナ!』
呼ばれたミュルナも、胸を張って元気よく答えた。
返事をする必要はないけれど、呼ばれたら答えるのがえらいのだ。
『ミュリナ!』
『ん』
ミュリナは無闇に声を張り上げない。缶蹴りのルールを把握するのが先。
『ミュシア!』
『みゃみゃみゃー!』
何故かミュシアは大喜び。
『よぶ、こたえる、いいね!
でも、オニ、みつかって、よばれる。つーかまった! ザァコザコ』
『それで?』
ミュリナに続きを促され、ミツバは少し考えた。
『かくれて、みつかるまえ、カン、ける』
黄金の缶を軽く足で蹴る。
『けったら、たすかる! オニ、しょんぼり』
『カン、ける!』
ミュシアが飛びつこうとした。
『ヤー! まぁだ!』
ミュルナが止める。
『あと』
ミツバは根でできた足を持ち上げた。
『ねっこで、みつける、ハンソク』
昔、自分が教わった言葉を、そのまま使う。
『めで、さがす』
それから、今度は三人を指差した。
『とぶ、なし』
『みゃ?』
ミュシアの身体が、既に少し浮いていた。
『しぁー、たかいたかぁい』
『ハンソク!』
『ンヴェェェ……』
ミュシアは地面へ降りた。
ミュリナが少し考えて、自分の足元を流れる水へ視線を落とす。
『……おみずで、みるのも?』
『メー! ハンソク!』
『じゃあ、おめめと、おみみ』
ミュリナはヒレをピコピコした。動くのは嬉しい時だけじゃない。
『そう!』
自分の身体から見えるもの、聞こえるものだけで探す。
出来ることを何でもやったら、すぐ見つかるし、すぐ隠れられる。
でも、それじゃあ、つまらない。
『ミツバ、オニする! カンケリ、はじめ!』
『はじめ!』
三人が巨木の森に散った。
ミツバは黄金の缶へ背を向け、両手で目を隠した。三枚葉もぱたんと寝かせる。
『いーち。にーい。さーん……』
ミュルナは真っ直ぐ、近くの巨大な根の裏へ走った。
身体を小さく丸めて隠れる。
たぶん完璧。
ただし、耳元のヒレが根の横から少し出ていた。
ミュリナは一度周りを見渡し、倒木と倒木の間にある狭い隙間へ潜り込んだ。
自分の身体が全部隠れていることを確かめ、じっと動かない。
ミュシアは――。
『……みゅ』
隠れる途中で、赤い虫を見つけた。
葉っぱの上を歩いている。
かさかさ。ぴたり。ぶぶぶ。ぷぅーん。
面白い。
『みゃぁ!』
しばらく追いかけた。
『じゅーう! いく!』
『うみゃっ!?』
ミュシアは慌てて近くの草むらへ飛び込んだ。
ミツバが振り返ると、起き上がった三枚葉が揺れる。
この森はミツバの身体でもある。
根を伸ばせば、誰がどこにいるのかすぐ分かる。
水の気配だって、三人はとても分かりやすい。だって、すごく美味しい水だから。
けれど。
『ねっこ、なし。ハンソク、メー』
ミツバは自分へ言い聞かせるように呟き、目で探し始めた。
大きな根の向こう。
倒木の陰。
草の間。
『……』
ミュルナは息を潜めた。
ミツバが近づき、通り過ぎる。
『……みゅ、みゅ』
嬉しくなって、ヒレが動いた。
『ミュルナ!』
『みゅあっ!?』
『みーつけた!』
ミツバが黄金の缶へ向かって走る。
どすんどすん、どすん。大きいからはやい。
『メー!』
ミュルナも根の裏から飛び出して追いかける。
けれど、ちびだから追いつけない。
『ミュルナ! つーかまえ――』
ミツバが缶へ触れようとした、その瞬間。
からからからん。倒木の方からいくつも音がして、ミツバはそちらを向いた。
その反対側の草むらから、小さな水の身体が飛び出した。
『しぁーーーー!』
やせいのミュシアだった。
『ミュシア!?』
『けーるー!』
小さな脚が黄金の葉っぱへ当たる。
からぁんっ!
金色の円錐が倒れ、地面をポテポテと転がった。
『みゃあああ!』
『けった!』
ミュルナも両腕を上げる。
倒木の隙間からミュリナも出てきた。
ミュリナが枯れ枝を蹴り、わざと音を立ててオニの気を引いた。
水も使っていないし、飛んでもいない。だからハンソクじゃない。
『ミュシア、えらい』
『しぁー、えらぁい!』
妹たちに助けられたミュルナはちょっと悔しい。
『もういっかい!』
『やる!』
今度はミュルナが黄金の缶を拾い上げた。
『つぎ、ミュルナ、オニ!』
『……ミュリナも、オニやりたい』
『しぁーもー!』
『みんな、オニ?』
『ミュルナ、さき!』
『……ミュルナ、いつもさき』
『しぁー、いま! いーまぁ!』
三人が缶の周りで言い合い始め、ミツバも混ざろうと口を開いた。
その時だった。
背後、遺跡へと繋がる深い穴の奥から、水を震わせる声が幾重にも重なって響いた。
『――待てぃ!』




