EX(118.6).『水神宮外典・名もなき御使いの手記』③ ◆★△◇
『水神宮所蔵品・書簡四』抄
あの日、私が着て見せた白い衣は、私のためだけに用意されたものではなかった。
水の色の縁取り。
胸元に縫い込まれた、貴女の印。
あれは、貴女の傍に立つ者だと、誰の目にも分かるように作られた衣だった。
私の古いローブには、煤と薬草と古い紙の匂いが染みついていた。
御師匠様に叱られながら、世界の理を教わり、霊子の読み方を習い、精霊との繋がりを求めて歩いた頃の服だった。
けれど、あの日から私は、古いローブに袖を通すことがなくなった。
貴女によく似た色と形を纏い、人々から聖女と呼ばれ、貴女の言葉を伝える者になった。
着替えて変わったのは、服だけではなかった。
呼び名。
立つ場所。
隠す名前。
残す肩書き。
あの服に着替えてから、私は改めて、肩書きというものが人を縛る鎖であり、同時に人を隠す薄い幕にもなるのだと知った。
だから、貴女が水面から顔を出して、私の名を呼んでくれるたびに。
私がどれだけ嬉しくて、どれだけ安心していたのかを知ってほしい。
行こう、と言って差し出してくれた手が、どんなに嬉しいか知ってほしい。
人々が私を何と呼んだとしても。
いつ、どこで、どんなときでも、貴女だけは、私を私の名で呼んでくれる。
貴女が私の名を呼んでくれれば、私はいつだって、ただの貴女の友達に戻ることができる。
湖畔にあった倉庫は、ズミュルナ湖という名前がついた後に急造されたものだったと聞いている。
水上神殿の建設を進める間、その建物は少しずつ改装され、今は仮の神殿として使われていた。
神殿と言っても、荘厳さや長い歴史を感じさせるものはほとんどない。
柱も壁も新しくて、まだ木の匂いが残っている。
それでも、ここにはミューズが来る。
時にはイズミール様さえ訪れる。
だから、どんな見た目であっても、ここは神殿なのだ。
私たちの祈りの家なのだと、そう思える。
入口に立った時、私は自分の服装を改めて見下ろした。
もう、身体に馴染んだ魔術師のローブではない。
身を包んでいるのは、真白な布で仕立てられた、まるでドレスのような衣装だった。
袖口と裾には、水色の波模様。
胸元には、ミューズの印として使われ始めた三枚葉の紋。
腰には青いサッシュと、大きなリボン。
見た目は大げさだけれど、足を運んでも裾が絡まないようになっている。
よく考えて作られているのは分かる。
でも、脚が少し見えるのは、やっぱり恥ずかしい。
この服を初めてミューズに見せた時、あの子は文字通り飛び上がって喜んだ。
『ここ、いっしょ』
『ここも似てる』
『いっしょでうれしいね』
そう言って、私の袖やリボンを何度も見比べていた。
だから、早く慣れなきゃと思う。
思うのだけれど、聖地でこの格好をしていると、まだ少し落ち着かない。
「聖女様」
入口の脇にいた若い神官が、私に気づいて姿勢を正した。
彼の白い衣も、まだ真新しい。
襟元を気にしながら、それでも両手を揃えて頭を下げる。
「サルディス神官長は中におります」
神官長。
中にいるのは、私の御師匠様だ。
魔術師サルディス。
なのに、今では当たり前のように神官長と呼ばれている。
私が、聖女や御使いと呼ばれているのと同じように。
「ありがとうございます」
私は聖女様なんかじゃありません。
そう言いかけた言葉を、今日も飲み込んだ。
だって私は、まだ見習い魔術師で、御師匠様の弟子だ。
御使いとか、聖女だなんて呼ばれるような人間じゃない。
それは今でも同じことだけれど。
でも、ミューズの傍に立って、その言葉を人へ渡すと決めた。
だったら、この服と同じで、この呼び名にも少しずつ慣れていかなければいけない。
「……失礼します」
私は小さく息を吸ってから、仮設神殿の奥へ入った。
礼拝所の奥にある小部屋の前で足を止めると、中から声がした。
「お入りください」
言葉は丁寧だけれど、声はいつもの御師匠様だった。
気難しそうで、こちらの緊張なんて知ったことではない声。
それに少しだけ安心して、私は扉を開けた。
白い髪も、長い髭も、眉間の皺も変わらない。
書類を片手に持ったまま、こちらを見る鋭い目つきも、昔からよく知っている御師匠様のものだった。
けれど、その身に纏っているのは、くたびれた魔術師のローブではなかった。
白い長衣。
深い水色の飾り帯。
袖と裾には、水面の波のような刺繍。
胸元には、女神ミューズの印。
さっきの若い神官と似ている。
けれど、御師匠様のそれは、ずっと重く、格式ばって見えた。
「よくぞお出でくださいました、聖女様」
御師匠様は、平然とそう言った。
「御師、……神官長」
「何でございましょうか」
「えっと……その格好でそんな話し方をするの、やっぱり、すごく……変です」
言った瞬間、しまったと思った。
けれど、御師匠様は怒らなかった。
むしろ、鼻で短く息を吐いた。
御師匠様は窓を開け、部屋の中に風を呼び込むと魔術を使った。
窓の外から聞こえていた鳥のさえずりや木々のざわめきが聞こえなくなって、しん、と辺りが静まり返った。
外に音が漏れ出さないようにしてくれたのだと分かった。
「変で結構。私もそう思う」
御師匠様の口調から丁寧さが抜けて、私は正直なところホッとした。
「昔の私が見れば、聖堂かぶれの老いぼれと罵っただろうな」
皮肉たっぷりな物言いは御師匠様自身に向いていて、私はどう返せばいいか分からなくなった。
「で、お前はどうなのだね。その服は」
「嫌……では、ないです。ミューズも喜んでくれましたし」
「では?」
「でも、前のローブの方が、自分の服だって思えました」
「当然だ。服は、誰に何をさせるかを決める道具でもある」
御師匠様は机の上の図面を引き寄せた。
「お前の古いローブは、森や水辺を歩く見習い魔術師の服だった。今の衣は、女神ミューズの傍らに立つ者の服だ」
胸の奥が、少し重くなった。
さっき水上神殿の黄金の柱を見上げた時と、似た感じだった。
「ギュゲスさんに、水上神殿の現場を見せてもらいました」
「まだ、神殿など形にもなっておらぬだろうに。
だが、あの大工は学はないが、場の力というものを分かっておる」
「場の力、ですか」
「黄金の柱、湖面に立つ神殿。女神の座する場にそれが建っている事実は、形以上に大きなものだ。
見た目で神威を示すだけではない。
そこに実際に女神を迎え入れられるなら、この神殿が女神自身に認められた場だとも示せるからな。」
紙の上には、神域を囲む輪と、黄金の柱の印が並んでいた。
ギュゲスさんの言っていたこととは、似ているようで少し違う。
見た目で圧倒するだけじゃなく、ミューズとの関係を表すものでもあると言っている。
「……それも、必要なんですよね」
「そうだ」
即答だった。
「でも、あの子が遠くなっていくみたいで……」
言葉にした途端、喉が詰まった。
逃げたいわけではない。
前みたいに、私には無理だと言いたいわけでもない。
ただ、さっきまで私の名前を書いて笑っていた子が、黄金の柱の奥、神話の中心に置かれていく。
そう思うと、少し怖かった。
「あの子は本当に真っ直ぐで、女神として立とうとしています。
でも、だからといって、子どもじゃなくなるわけじゃなくて……」
「知っている」
御師匠様は、私の言葉を遮らなかった。
けれど、慰めもしなかった。
「だが、神殿とは、そういうものだ」
短い言葉だった。
「人と神を結ぶ契約の場。人は神の名を掲げ、その力を借りる。同時に、神と人を隔てる」
御師匠様は、自分の白い袖を軽く持ち上げた。
「昔はよく、聖堂に神を祀る連中を皮肉っていたものだ。
その私が、今は神殿を建て、祭服を着ている。まったく、笑えん話だ」
「本当に、ここまでする必要があるんでしょうか……」
イズミール様を浄化と裁定の女神に、ミューズを救世の女神にする。
それが御師匠様が示した、新たな世界の神話で、あの神殿も、私の呼び名や服もその一部だ。
ミューズが女神として祀られるのではなく、幼い御子のまま、お母さんと穏やかに暮らす方法もあるのではと思ってしまう。
「世界を元に戻していくというのであれば、放っておけば、もっと悪い形になるからだ」
御師匠様の答えは早かった。
「人は分からぬものに勝手な名をつける。
女神、御子、御使い、聖者。どれも、人が出来事を掴むための器だ。
だが、器がなければ、人は各々で都合よく捉え、余計な尾ひれを生やす」
御師匠様は窓の外の湖と、ずっと遠くにある黄金のままの山々を見た。
「洪水と黄金の記憶は、おそらく世界中の人間たちの中に強く残っている。
まかり間違えばイズミールの名は災厄をもたらした悪神とされかねん。
そうなれば、ミューズは対立する善神とされるだろうな」
「そんなの、ありえません!」
私は泡の丘で再会した母娘の抱擁を覚えている。
あの温かで幸せな光景を見て、そんな風に思えるはずがない。
「だから、母から娘へ託されたものとして語らせる。
争いではなく、継承としてな」
母に抱かれて笑っていたミューズを思い出して、私は唇を噛んだ。
あの抱擁を知らない人たちが、二人を敵同士の神にしてしまう。
そんなことが、本当に起こり得るのかと思った。
「……」
私にはわかる。
御師匠様は、たぶん、世界が元通りにならなくても構わないとさえ思っている。
それでも、世界を戻すなら、出来るだけ望ましい形に収まるようにと、復世の神話を考えてくれた。
救世の水女神ミューズ。
それは、あの子を守る名前なのだと思う。
でも、その名前だけになってしまったら。
板に私の名前を書いて、得意げに笑った子はどこへ行くのだろう。
母に抱かれて無邪気に笑っていた三人の幼子はどこへ行くのだろう。
私が物思いに沈んでいると、御師匠様は鼻を鳴らして揶揄するような口調で言った。
落ち込んでいる暇はないぞと言われている気がした。
「お前を聖女様と呼ぶのも、その一環だ」
「……嫌がらせじゃなく、ですか?」
「無論、半分は嫌がらせだ」
「御師匠様」
「冗談だ。少しは本気だがな」
やっぱり入っているらしい。
私がじっと見ると、御師匠様は悪びれもせず続けた。
「もっとも、本気で取り組もうとしていることもある。私は、この復世の神話にリディアという名を残す気はない」
「え……?」
「御使い、聖女、聖者、いずれも神の側に立つ、人であって人でない者を示す記号だ。
人としての名を広めれば、その名や縁を使って、都合よく解釈し、利用しようとする者が現れる」
「……ペッシヌスさんのように、ですか」
「そうだ。アイオリスという名も神話の真ん中へ据えれば、永遠に聖者として扱われよう。
亡国オルセイスの忘れ形見、穢れた深淵殺し、女神の寵愛で不死身になっただの、枝葉をつけてな。
賭けても良いが、いずれ、『このリディア何某とは我らが血を引く者である』と騙る者どもが湧くぞ」
「そ、そんな、私なんて……」
笑えなかった。
人はどう信じるかで、神だけじゃなく、人の在り方まで変え得るのだと知ったから。
「そういうわけで、自由の利くうちにお前たちの名は記録から抹消しておく。
むしろ、既にそういう方向で資料を作らせている。私の名においてな」
「それじゃあ、御師匠様の名前は……」
「残るとしても、悪名であろうよ」
「そんなの、駄目ですよ」
「ハッ、老いぼれの名など、いくら汚れても知れている」
「そんなこと、ありません」
思ったより強い声が出た。
御師匠様が少しだけ目を細める。
「御師匠様だけ悪く言われるなんて、そんなの納得できません」
「お前は相変わらず、妙なところで頑固だな」
「御師匠様に似たんです」
「ははは、なんとも嫌なことを言うようになったものだ」
そう言いながら、御師匠様は少しだけ満足そうに見えた。
「覚えておけ。お前は公では聖女であり、御使いだ。私もそう呼ぶ。
だが、今、ここではリディアだ。私の弟子で、魔術師リディアだ。
見ず知らずの連中に何をどう言われようと、私もお前も消えて無くなるわけじゃない」
その言い方に、胸の奥が少し熱くなった。
「泣くなよ」
「泣きません」
「顔が泣きそうだ」
「泣いてません」
御師匠様は、ふん、と鼻を鳴らした。
そして、一枚の図面をくるりと私の方へ向ける。
「神話と神殿がミューズを高みに置くならば、御使いとしてのお前の役目は、その声を人の高さへ降ろすことだ。
神殿はミューズを守る。だが、同時に人から遠ざける。だからこそ、お前が必要になる」
広い礼拝堂らしい図面の一角、奥まった場所に小さな印がついていた。
「これは……?」
「女神ミューズと御使いの立つ場所だ」
服と同じだ。
私の立つ場所が、先に線で引かれている。
「嫌なら、今のうちに言え。逃げるなとは言ったが、嫌だと口にすることまで禁じてはおらん」
私は図面を見つめた。
黄金の柱で湖面に立つ壮麗な神殿。
そこに独りで立つミューズの姿を想像した。
「……嫌です」
御師匠様は黙っていた。
「あの子を、独りにしたくはありません。聖女様って呼ばれるのは、まだ慣れませんけれど……」
私はゆっくり息を吸った。
「遠くに置かれてしまうあの子の声を、私がちゃんと届けます」
足は少しすくむ。
でも、逃げたいとは思わなかった。
「名前のない何かになるのは怖いです。でも、その呼び名で守れるものがあるなら、逃げません」
御師匠様は、しばらく私を見ていた。
それから、いつものように短く言った。
「よろしい」
そう言うと、部屋の中を巡っていた風の霊子がふっと形を変え、どこかに流れていった。
木々のざわめき、遠い波音、窓の外の音が戻ってきた。
褒められたのか、合格なのかは分からない。
でも、それで十分だった。
御師匠様は、机の端に積んでいた板を私の前に置いた。
「では仕事を始めましょう、聖女様」
神官長としての丁寧な言葉遣い。
それで、ここからの私は、魔術師リディアではなく、聖女で御使いなのだと分かる。
「……はい」
「まず、まとめていただいた御子様の御言葉を拝見しましょう。
その間、聖女様に御神託として読んでいただく文書に目を通していただきます。
近隣の村々への視察については、後程、カストールから説明がありましょう。
ヘレノスからは、聖地の内情について定例報告がございます」
「分かりました」
机の上に置かれた羊皮紙の束と、聞かされた予定だけで今日も忙しいのだと分かる。
昼食や夕食は出されるだろうけれど、先の長さを思うと、口の中が少し苦くなる。
私はミューズの意見をまとめた文書を御師匠様に渡すと、御師匠様の目の前で、ギュゲスさんから貰った干したプルヌスの実を堂々と取り出した。
周りに他の人の姿はない、聖女様らしからぬ発言もしていない。
だったら、このくらいは許して貰おう、そう思った。
御師匠様は深々とため息をついた。
「失礼しました、先に茶を用意させましょう」
口振りは丁寧なまま、片方の眉だけを持ち上げて苦笑めいた顔をする御師匠様。
その顔は今まで変わっていなくて、私は少しだけ笑ってしまった。
干した実を口の中に放り込んで、唾で湿らせて甘酸っぱさを味わう。
これを口に入れておけば、おかしな言葉を口走らずに済むのではないだろうか。
戸口に立って、若い神官を呼ぶ御師匠様の背中を見た。
ずっと追い掛けてきた見慣れたローブ姿ではない。
ここは森の庵でもなくて、私は聖女と呼ばれるための服を着ている。
それでも、書かれた言葉を読み、分からないことを御師匠様に尋ねる手順はきっと変わらない。
聖女様と呼ばれても。
御使いと呼ばれても。
文書の中に、私の名前が残らなくても。
私をリディアと知っている人たちの隣にいる限り、私はリディアでいられる。
そのことを確かめるように、私は口の中の果実の端を齧り取って味わった。
<おまけ>
118.3+.ある夫婦の事情 ◇(118.3話「終末の後始末」のアフター)
※※※※※
「――聖者殿、おぬし、イズミールを抱いたか?」
サルディスに内密の話があると請われ、私は、かつて泡に守られていた丘の上にいた。
開口一番に言われたその内容に、私は絶句した。
だが、このサルディスという男は皮肉も冗談も口にするが、下世話な揶揄を口にする男ではない。
「……ああ」
私の答えにサルディスは重々しく頷いた。
「うむ。変わらず潔い男だ。
話というのは他でもない、おぬしらが夫婦として睦まじく在り続けることは、ミューズの世に必要なことなのだ」
「何……?」
私は眉を顰め、しかし、彼の言わんとするところに気が付いた。
神の在り方は信仰に左右されると言っていたのはサルディスだ。
そのサルディスが打ち出した救世の神話の中で、イズミールは人の畏れを引き受ける存在とされる。
それが今後及ぼす影響を、私も憂慮していた。
だからこそ、あの会議の中で口を挟まずにいられなかったのだ。
「イズミールの名と、神威を隠し通すことは不可能だ。
世界を沈めた荒ぶる女神、悪神と呼ぶ連中が現れることも避けられん」
彼女を貶めるような言葉に怒りが湧く。
だが、あの狭い泡の丘の中でさえ、当初、人々が彼女に向けていたのは畏れの目だった。
世界の全てが戻ったとき、与り知らぬところでどのように語られることか。
「そこで、だ。
アイオリス。おぬしにはイズミールを、妻として愛し、抱き続けてもらいたい」
私は再び言葉を失った。
何故、またそこに繋がるのか。
だが。
「言われるまでもない、私は彼女を愛し続ける」
「うむ、おぬしとイズミールの間に築かれた縁は、度を越しておる。まことに信じ難い」
呆れ混じりのその物言いは、私の身体の変化や結魂のことを指しているのだろう。
人でなくなったことに、後悔など欠片もない。彼女の隣に居続けられるのだから。
「ゆえに、おぬしがイズミールをひとりの女として求め、愛することは、数多の祈りに抗し得るものだと、私は思っている」
なるほど、と感じた。
私の恋焦がれる気持ちが、金色の彼女を生み出したのだという。
ならば、私は彼女を愛し続けることで、その在り方を歪められることを防げるということか。
「というわけで、抱け。
神である前に女であり、妻であり、おぬしに名を呼ばれる一人なのだと、日々の中で思い出させてやれ」
歯に衣着せぬ言い方だったが、彼の言うところは分かった。
それに、私もとやかく言える身ではない。
彼女を求めるあまり、獣だ畜生だと悪し様に言われているのだから。
「……わかった。鎮めるためだけに抱く気はない。
彼女にも伝える、その上で二人で決める」
「そこまで分かっておれば言うことはない。
慰み者のように扱っては、かえって歪みかねんからな」
私は確かに彼女を欲している。
だが、ただ一つの役目に押し込めたいわけではない。
彼女は、私だけのものではなく、愛する子どもたちを持つ母でもあるのだから。
私を罵るときも、名を呼ぶときも、子を抱くときも、彼女は彼女のままであってほしい。
そして、どんな場所に赴いたとしても、最後は共に笑い合える場所へ帰ってこられるようにしたい。




