101.しゅうまつのすごしかた(前編) 〇★
黄金の物資をいくつも水流に包んで、俺とちびどもは泡の中へ戻った。
帰ってきてまず思ったのは、なんかもう、俺がいない間に避難所っぽくなってるな……ということだった。
丘の端の方では、土を掘り起こしている連中がいた。
最初は何してんだと思ったが、すぐに分かった。便所だ。
女神の奇跡だの御子だの恩寵だの言っていた連中が、今や真顔で便所の場所を決めている。
もちろん、あちこちで好き勝手にやられるよりはずっといい。
で、別の場所では、乾いた木片やら布くずやらを寄せ集めて、木片に棒を擦りつけたり、鉄片をひたすら打ち合わせたりしていた。
泡に戻る途中に鉄の音が聞こえてきた時は、暴動でも始まったのかと思ってビビったが、どうやら火を起こそうとしていたらしい。
泡の中は水に浸かっていないが、丘の上はただの原っぱで、元々あった物は少ない。
人間たちが持ち込めた物も限られている。まさに着の身着のままって有り様だ。
最初は煙ばかりで全然駄目そうだったのに、今は小さな種火ができていて、何人かがまるで御神体みたいに大事そうに囲んでいる。
水になった影響なのか、俺はどうも火ってものが本能的に気に入らないらしい。
煙も爆ぜる音も、妙にかんに障る。
けど、人間が生きるのに火が要ることくらいは分かる。だから我慢する。
ちびどもが、火を見て『ンヴェーッ』とか聞いたことのない鳴き声をあげて、水をぶっかけようとしたので慌てて止めた。
ほら、好きなところを吸ってていいから、大人しくしてなさい。
火の近くには布が敷かれて、子どもと老人が寄せられていた。
掘り起こした石を積んで、かまどみたいなもんを造ってる奴もいる。
で、その中には、うちの怪我人もいた。
アイオリスは布を敷いた場所に座らされていた――そう、監視付きだ。
まるで逃がすまいとでもいうみたいに、リディアが横に張り付いている。
あいつがかまど造りや火起こしを見て、立ち上がりかけるたびに何か言って止めていた。
信者どもの様子を見ていれば分かるが、あいつは教祖とか女神の使いみたいに敬われている。
だから、ほとんどの連中が「聖者サマには声をかけるのも畏れ多い」みたいな態度で接する。
そんな中で、リディアだけがあいつに遠慮なく物申せるらしい。
あいつを通して俺にも意見を言ってきてくれたりもする。
俺を変に拝み過ぎないところ、マジで偉い。非常に偉い。
俺は水流に包んで運んできた黄金の樽だの袋だのを、どさどさと空いてる場所へ降ろした。
人々がどよめきながら下がる。濡れるのが怖いのもあるんだろう。
金ぴかの荷物が山と積まれると、見た目だけはすごい。成金の倉庫かよ。
カストールとギュゲスが寄ってきたので、勝手に触るなよという意味でカストールを指差しておく。
俺はとりあえず、木こり野郎のところに向かった。
俺が戻ったのに気づいたアイオリスが、すぐに顔を上げた。
「無事で何よりです、イズミール様」
何だよその、外向けのちゃんとした喋り方は。やっぱりムカつくな。
「うるせぇ。自分の水の中で無事も何もあるか」
実際にデカい鮫とかに遭遇したら、噛まれても何ともないとしてもチビるかもしれないが。
今は水の中で動くものなんて、俺とちびたちと泡だけだ。
「……御子様方とも打ち解けられたようで何よりです」
アイオリスは俺の方を向いて、視線を上から下に落としてそう言った。
「イヤミか貴様ッッ!」
頭の上でミュルナが『マァー!』と嬉しそうに胸を張る。とにかく得意げだ。
ミュリナは俺の腕にぶら下がったまま、何故かミュルナを睨んでいる。
ミュシアは胸に顔を突っ込んでスヤスヤタイムだ。
出かけてる最中もそうだったんだろう、みたいな目で見やがって。
やめろ、微笑ましいものを見る目で俺を見るな。
真実は一番人を傷つけるんだぞ!
「で、お前の方はどうだった。ちゃんと動かずにいたんだろうな?」
イライラ感を出してる風味でそう訊くと、アイオリスはほんの少しだけ目を逸らした。
「……ここに座っていました」
「間があったな?」
「多少の手伝いを申し出ただけです」
「多少の、な」
「リディアに止められましたが」
「□□□□!」
リディアが食い気味に何かを言った。名前か。抗議か。言葉は分からない。
けど、今のはどう考えてもこいつが悪い。木こり野郎にマイナス百点だ。
俺はリディアを見る。こっちの視線に気づいた彼女が、びくりとして姿勢を正した。
けど目は逸らさない。おお、いいぞ。根性あるな。それでいて礼儀正しい。
「よくやった、えらい! いいぞ、もっと言ってやれ」
リディアには勿論通じない。「え?」みたいな顔をしている。
だから、アイオリスに指を突きつけて言ってやる。
「お前が大人しくしてないから、この子に余計な仕事が増えてるんだぞ、反省しろ。
で、その子に謝罪と礼を言っておけよ。そんくらい社会人の常識だろうが」
アイオリスは面食らったような顔をしてから、リディアに詫びと感謝の言葉を告げた。
リディアはぽかんとしてから、照れた顔で手と首をぶんぶん振っていた。
けどなぁ……おい、木こり野郎。
「イズミール様は君をいたく信頼しておられる」じゃねえ。
お前が信用ならねえって話をしてんだよ!
……まあ良い。こいつを理解らせるのは後回しだ。
※※※※※
さて、野暮用も済ませたことだし、そろそろ仕事に戻ろう。
「大きな収穫があったようですね」
アイオリスが俺の運んできた黄金の樽や袋や箱へ視線を向けた。
「戻して開けるまでは分かんねぇっての。黄金ガチャだ」
「がちゃ……?」
「開けてみるまでのお楽しみってことだよ。
とにかく、お前はそこで大人しくしてろ。良いな? 返事は“はい”以外認めねぇ」
「はい」
返事だけは早い。
けど、その妙に幸せそうな表情が腹立つので五十点。
『百点でしょ。千点でもいいわ』
問題社員二号の余計な口出し。
はい、今ので零点になった。気分的に!
荷物のところに戻る。
適当に降ろした荷物は、カストールとギュゲスが整理していた。
樽。袋。布の束。木箱。誰かが着ていたらしい外套。小さな道具箱。
紐の塊。よく分からない棒。丸い実のようなもの……例のアレじゃないよな?
外見では全部金ぴかで、入れ物系の中身なんかはさっぱりだ。
完全にガチャだな、これ。
無料黄金ガチャ。回してみるまで中身が分からない。
大当たりは食料、布、道具。
宝石とかコインとか装飾品なんかは外れ枠だ。
紙幣があるかは知らんが、焚きつけにしかならない。
手の空いた人々が続々と集まってくる。
これから俺が何をするのかを聞かされているんだろう。
黄金化した荷物の山は、見た目だけは財宝の塊だ。
だが、人々の視線は黄金そのものには向いていない。
ごくりと唾を呑み込み、祈るみたいに手を組んでいる。
避難所らしくなっていくにつれて、生きていくのに足りてないものを自覚させられた顔だ。
縋るみたいな目が俺に集まって、祈りとして俺を増やす。
馬鹿みたいに水量が増えた今でも、俺が増えたってことは分かる。
ああ、本当に、期待が重たいったらありゃしない。
俺は近くの袋へ手をかざした。
大物から戻してハズレだと、がっかり度が大きいから、小さいとこからだ。
水を這わせ、固定をほどこうとする。
戻れ、働け――お前は袋だ。袋として営業を再開しろ。
ぱちん、と切り替わる。
金色が褪せ、鈍い色の布と紐へ戻る。
ギュゲスに頷いてやると、あいつが中身を検めた。
中から零れたのは――金貨だった。
泡の中に、なんとも言えない沈黙が落ちた。
完全に外れを引いた空気が漂っていた。
よりにもよって金貨。
誰も黄金とか見たくもないだろう。俺もだ。
中身の金貨よりも、袋の方がはるかに有難がられている。
笑うしかない価値の逆転だ。
世も末だな、と思ったが、今まさに世界の終末って感じだった。
「……はい、外れ。次」
気を取り直して別の袋を戻す。これは干し肉だった。
わっと空気が動いた。
身を乗り出そうとする者をカストールが視線で制した。
そうだよな。今欲しいのはこれなんだろう。
次に布束を戻すことにした。
これは見た目通りでガチャ要素もない。
粗い織りの外套や布が、布の質感を取り戻す。
滅茶苦茶喜ばれた。
地面に直に寝転がると体温って奪われるんだったわ。そうだった。
ひとまず、箱なんかのガチャ系は後回しだ。
見た目で有用そうなものから、どんどん元に戻していく。
焦りや不安に効くのは、小さい成功体験の積み重ねだ。
今、ここにいる連中に必要なのは物自体だけじゃなくて、そういうのだ。
そうやって、衣服や布、道具類を戻していると――
『マァマ! マァマ!』
胸元でミュルナがうるさい。
何だよと思ったら、自分が持ってきたでかい樽を指さしている。
ああ、あれか。お前が下敷きになってたやつな。
「あれを早く戻せって?」
『マァマ、ミュルナ、えらぁい! よくやったー!』
「まだ中身見てねぇよ」
とはいえ、こいつがこれほど自信満々な顔をしていると、だんだんイケる気がしてくる。
ただ褒められたいだけなんだろうが、こいつのビギナーズラックに賭けてみるか。
水を這わせる。黄金が剥がれる。板の継ぎ目が現れ、木目が戻る。
ギュゲスが蓋をこじ開け、樽の中身が見えた。
白っぽい粉だった。
ギュゲスが一つまみ取り、匂いを嗅ぎ、ぺろりと舐めた。
そして、「へへっ、こりゃあ上物のブツですぜ、姐さん!」みたいな顔を向けてきたと思ったら、大きな声を張り上げた。
「□□□□! □□□□□□□□□!」
うわあ、いきなり叫ぶな。
一瞬、泡の中の誰もが呼吸を止めたみたいになって、それから空気が一気にざわめいた。
小麦か何かかは知らんが、とにかく食える粉らしい。
水を加えて煮るなり焼くなりすれば行けるだろう、たぶん。
つまり、当たりだ。
それも大当たり。
子どもを抱えた女が口元を押さえるのが見えた。
カストールがざわつく連中に注意か何かを呼びかけてる。
でも、その顔もどこか明るい。
空腹って感覚を忘れた俺も、それで実感が湧いてきた。
『マァー! マァマ! ミュルナ!』
ミュルナが俺の胸に飛びついてくる。
はいはい、お前が見つけたやつだったな。偉い偉い。
「よくやった。大当たりだ。お前が今日の一等賞」
『まぁぁぁっ!』
俺が頭を撫でてやると、ミュルナはきゃっきゃと騒ぎながら胸元に潜り込んだ。
本当に分かりやすい奴だな。
当然、うちのちびどもが、それで済むわけがなかった。
『みゅりな!』
腕にぶら下がってたミュリナが、ものすごい勢いで自己主張し始めた。
自分の持ってきた袋もある、そっちも見ろ、と言わんばかりだ。
ヒレだけが忙しく震えている。
ああ、面白くないんだな。
自分もちゃんと探してきたのに、ミュルナばっかり褒められて。
「はいはい、お前のも見るよ」
俺はすぐにミュリナの持ってきた小袋も戻してやった。
中身は干した豆みたいなものだった。同じ袋から、いくつもだ。
これも十分当たりだ。
「ミュリナも偉いぞ。メシっていうのは、色々種類が無きゃなんだ。
こういうのもめちゃくちゃ大事だぞ、よくやったな」
『みゅりな……! だぁーじ? やった!』
表情薄いくせに、でも明らかに嬉しそうに、ミュリナが俺の腕へ頬を押しつけてくる。
高速でパタつくヒレが、俺の腕の中をちゃぷちゃぷ掻き混ぜてくる。
ミュシアはというと、どう見ても石ころにしか見えない塊を抱えてきた。
そんなの荷物に入れてたっけ? それとも身体の中に隠してたのか?
流石にこれはどうよと思いつつ戻してみると、なんか生肉みたいな色合いの石になった。
ん? ひょっとして、これ……岩塩か?
周りの連中の反応もハズレを見る目じゃない。ミュシアに感心している様子だ。
「ミュシアも凄いぞ。なんか、お前、変なもん見つけるの上手いな。
勘の良いガキは嫌いじゃないぞ、よしよし」
『よし、しあー!』
褒められた瞬間、ミュシアが得意げにくるくる回る。単純だな、お前も。
そんなふうに黄金ガチャを続けていくうちに、泡の中の空気が少しずつ変わっていった。
今日死ぬかもしれないって顔から、明日どうするかって顔になってきた。
本当にキツい時って、これから何食うかとか、どうでもよくなるんだったよな……。
ガチャの成果が広まったのか、泡の中のほとんどの連中が集まってきた。
兵士っぽい奴の肩を借りてアイオリスまでやってきた。
おい、大人しくしてろって言ったろうが、と思ったが、一緒に来たリディアと兵士が申し訳無さそうな顔をした。
「物資の分配のことで話があると聞き、参りました。
御裁可を仰ぐ前になってしまい申し訳ありません」
俺の判断を仰ぐにはこいつが必要だから、しょうがないが。
動いちゃいけない奴が、動いてきてから言ってくるのはどうなんだお前……。
まあ、そろそろ通訳が必要だって思ってた頃合いではあったし、自力で歩いてきたわけじゃないから、アウト寄りのセーフってことにしておいてやる。
「どう分けるかは揉めないようにやっとけ。
あと、他に要るもんも決めとけよ。夜のうちにもう一回行ってくるから」
「分かりました。皆、イズミール様の御意思を伝える――」
あいつが来ると人間たちの空気がピリッと締まる。
おい、お前らの女神様はさっきからここに居たんだが?
ちびどもにまとわりつかれている状態で威厳もクソもないのは百も承知だけどな!
アイオリスとリディア、カストールとギュゲス、あと何人かであれこれ話し合いを始めた。
食い物の入った樽に腰掛けるのも何なんで、俺は浮いたまま寝そべる。立ってるより、ちびどもが大人しめになるからだ。
――俺の前で始まる避難所自治会(仮)の会合。
俺はあいつの言葉しか分からんから、話半分。
いや、五分の一以下だが、アイオリスがときどき俺へ訳してくる。
「ギュゲスは、細い草や木を削って黄金化すれば、針や小刀の代わりになるのではないかと言っています」
「おお」
「留め具や杭、桶の縁の補強なども作れるのではないかと。
それに、土を固めることで煉瓦の代わりに出来るのではとも申しています」
俺は素直に感心した。
そうだよ、そういうことだ。
せっかくある力だ、どんどん使え。
こういう工夫に活かされるのは悪くない。
ギュゲスはやっぱり面白い。脳筋そうに見えて発想が柔軟だ。
木こり野郎、お前も少しは見習え……いや、やっぱ無し。
柔軟な発想でロクでもないことを言ってきそうだ。
「しかしまぁ、よく考えるな、よしよし、偉いぞ」
そう呟くと、アイオリスが妙な顔をした。
やべえ、ちびに言うみたいな言い方してた。
「女神は創意を賞賛しておられる」みたいに訳される。
ギュゲスが照れくさそうな顔になり、でも胸を張る。
俺の威厳は守られた……たぶん。
会議はあまり揉めなかった。
俺が変に口を出すと話が変な方向へ飛びそうだったから、頷きマシンに徹しておいた。
――で、結局は、まずメシってことになったらしい。
そりゃそうだ。粉が見つかった以上、今のうちに火を使って食える形にするのが一番早い。
今日を越えられるかどうかって空気だった連中が、明日の朝まで持つかもしれないって段階へ進めるんだからな。
俺は頼まれるまま水を用意してやる。
器が足りなければ、見つけてきた袋を黄金化して鉢代わりにしてやる。
広げた布を固めて鉄板というか金板……いや、板金? も作ってみたが、どうも、俺の黄金、熱を通さないっぽい。
出たな、謎仕様め。
状態の固定みたいなもんだから、温度も変わらないってことか?
じゃあ、鍋や鉄板代わりは鎧とか兜の方が向いてるな。
その辺の道具も拾ってきてやった方が良さそうだ。
ちびどもは、人間たちが粉に水を加えて練っているのを面白がって寄ってきた。
誰も逆らえないのを良いことに、生地になる前の粉をベタベタ触り出した。
そうしたら、粉に身体の水気を吸われたのが気に食わなかったみたいで「ヤ゛ーッ」とか騒いで逃げ出した。
お前たちが始めた物語だろうが。
ちびどもが触った生地は、びちゃびちゃになったので、粥になった。
マジですまん。
そうやって準備をしている間は、俺にも仕事があった。
でも、いざ人々が火のそばに集まって、焼けたものを分け合い始めると、急に手持ち無沙汰になる。
――だって、俺は腹が減らない。
食わなくても平気っていうか、食えない。
味も匂いも分からない。
火のそばで暖を取る必要も無いし、むしろ火には近づきたくない。
俺は人間じゃない。
生き物とも言えないような何かだ。
こうして人間たちと同じ場所にいると、それが嫌でも分かる。
準備までは手伝えても、最後の輪には混ざれない。
俺が生き物らしいことをしたって、おままごとにしかならない。
別に混ざりたいわけじゃない。
わいわい飯を食うとか元々苦手だし、むしろ遠慮したいタイプだ。
なのに、いざ本当に外側だって分かると、胸の奥が変に渦を巻く。
……面倒臭い身体と心だな、我ながら。
ふわふわと浮きながらそんなことを考えていたら、アイオリスがこちらを見上げていた。
いつから居た、どこ見てんだてめぇ。
「君もこちらへ」
「腹減らねぇし」
「そういう問題ではない」
「じゃあ何だよ」
「君が居るから、皆が生きていける。君が持ち帰ったもので、皆が火を囲み、糧を得ている」
「……」
「君の仕事の成果だ。誇ってくれ」
うるせえよ。
そう返せば済むのに、少しだけ喉の奥が詰まったような感じがした。
だから、わざとぶっきらぼうに言う。
「わざわざ言わなくても分かってるっつの」
「そうか」
「良いからお前もメシを食ってこい。
ちゃんと食え、食って寝ろ、ほら、行け」
行けと言いながら、俺の方から遠ざかる。
たぶん、今ので少しだけ救われたんだ。
認めるのが癪すぎるだけで。
――まぁ、後でちょっとだけ顔を出してやるか。
※※※※※
泡の外側に向かって漂っていると、『マァマァ!』と妙にはしゃいだ声がした。
振り向くと、ミュルナとミュシアが何か黄金色の小さなものを手に持って振り回していた。
手にしたものを動かしながら、うーうー鳴いたり、ガッチンガッチンぶつけ合ったりしている。
どう見てもブンドドだ。
俺が水フィギュアで遊んでいた時の真似だなこれ。
前にやってたのを見て覚えていたのか? いつから意識があったんだ、お前ら。
どれ、俺が本場のブンドドってもんを教えてやるか――
そう思って近づいて見て、そこで俺は止まった。
ミュルナの小さな手の中にあるもの。
翼を広げたまま固まっている。金色の嘴。金色の羽。
小鳥だった。
『マァマ! たべもぉー!』
『たべもぉー!』
ミュルナとミュシアが、ほれ見ろと言わんばかりに小鳥を見せてくる。
ミュリナは少し離れたところから、それをじっと見ていた。
食べ物って言うなら、それで遊ぶな。
いや、食えはするだろうから食べ物なのは合ってる?
褒めるべきか、注意すべきか。
そんなことを考えていたが、俺はふと思い立った。
……待てよ。
人間の前に、これで試すのが、ちょうどいいんじゃないか?
無生物じゃない。けど、人間よりはずっと軽い。
もし失敗したとしても……いや、失敗を考えるな。
兜は戻った。物資も戻ってる。たぶん、いける。
「ミュルナ、ミュシア、ちょっとそれ貸してみな」
『やー!』
『めー!』
返せだの自分のだのと騒ぐちびたちをなだめすかしながら、黄金の小鳥を二つ、手に入れた。
俺は黄金の小鳥を両手に包み、水を這わせる。
「さあ、お前らも休暇は終わりだ。働け――」
水が染みる。命令がほどける。
ぱちん、と切り替わった。
黄金が褪せる。
羽が白とも灰ともつかない色に戻り、細い脚が震えた。
次の瞬間、二羽の小鳥はばさっと羽ばたいた。
小鳥は最初、少しだけ飛び方を忘れたみたいに頼りなかった。
だがすぐに感覚を取り戻して、火の上をかすめ、布の上を横切り、人々の頭上をくるりと回った。
火を囲み、食事をしていた人々が羽ばたきと囀りに気づいて泡の天井を見上げ、指をさし、息を呑む。
ざわめきが広がり、視線がこっちを向いて、言葉と祈りが飛んでくる。
言葉の意味は分からない。
けど、それが驚きと希望の混ざったものであることだけは分かる。
生き物を戻せた。
いけるかもしれない――俺の中でもおぼろげだった期待が、初めて輪郭を持ち始めた。




