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手作りダークマターと全米が泣いた50m走

皆様、こんにちは。かるみあです。

ぜひゆるーく見ていってください。



「はぁ……はぁ……つ、疲れた……」


 あれから私は、何とか購買のおばちゃんから焼きそばパンをゲットして、教室へと帰ってきた。

 教室の扉を開け、自分の席へ直行する。

 ……教室のど真ん中で机ごと天井に刺さりながら弁当食べてるやつは、知らないフリをした。


 ありがたいことに、机の上の焼きそばパンはバグってない。

 私は普通の美味しそうなパンを見つめながら、ため息をつく。


「朝の会で先生がフリーズして、授業中に隣の男子が消失(リスポーン済)して、購買のおばちゃんはHP1%……まだ転校して初日の昼休みだよ?  卒業まであと3年……私の精神がもつわけない……」


 独り言を呟いていると、ふと横からガンッ! という衝撃と声が。


「おわぁぁ?! き、霧香さん?!」

「めんごみさちー! パン買えたみたいじゃん?  一緒にランチしよー! っていうか霧香でいいって!」

「お、おっけー!? きりか!?」


 朝出会ったギャル、霧香さんだ。

 朝はあんなマイ○ラでしか見た事ないバグを披露しておきながら、今はちゃんと人の見た目をしている。

 驚いたことで乱れた呼吸を整えて、ふと気になったことを聞いてみる。


「霧香さんは、購買行かないの?」

「だから霧香だっての! ウチ、今日はお母さんの手作り弁当なんだよね〜」

「ご、ごめん! 霧香ね?」

「そうそうそのチョーシ!」


 霧香がそう相槌をうちながら、カバンから可愛いお弁当箱を取り出す。


 お、お母さんの手作り弁当……! よかった、この世界にもそんな普通の温かい日常があるんだ……!


 霧香がパカッと上の段のフタを開ける。そこに入っていたのは――見渡す限りの人参の輪切りだった。


「……人参?」


 卵焼きも、唐揚げも、ウインナーも無い。ただひたすらに、オレンジ色の一面の人参。

 ただし、お母さんの愛(?)により、すべて綺麗に花型や星型に可愛く飾り切りされているものとする。


「ね? うちの親凄いっしょ?」


 ……いやちげーよ?! オレンジしかねぇよ?! おかず全部人参ってなに!? カレーの具の初期配置かよ!? 飾り切りする熱量があるなら別の具材も入れてやれよ?!


「う、うん……ソウダネ……」

「しょ?! あ、こっちはね――」


 続けて霧香が下の段のフタを開ける。

 そこに白米はなく、あるのはダークマター。

 焦げたご飯とかじゃなくて、光を一切反射しない漆黒のモヤモヤ。


 ……うん、あれの時点で下も終わってると思った。

 米ってどう炊いたらあんな明らかやばい色になるんだろう。宇宙爆誕させたいの???


「あー、やっぱり今日もお米のグラフィック失敗してるわー! まぁ味は普通に白米なんだけど! じゃ、いただきまーす!」


 そういや、霧香さ……霧香ってこれ食べるの? え?

 そして当然のようににんじん畑から人参をつかんです食べ出す霧香。


「……美紗お腹すいてない? 食べないの?」

「あ、あぁ! いただきます!」


 衝撃が強すぎて固まってた……危ない危ない。


 そのまま焼きそばパンを半分ほど食べ進めた時――


「みさち、焼きそばパンだけ? 炭水化物ばっかじゃん! ウチのお米も分けてあげるよー、はい、あーん!」

「いや、大丈夫大丈夫!? 私少食だし?!」


 そういった霧香が差し出してきたのは、あのダークマターもとい白米。

 ……なんか、周囲の光吸い込んでません? というか箸でつまめるタイプのダークマターなの? いや箸でつまめるダークマターって何?


 ……やるしか、ないのか。


「じゃ、じゃあ、いただくね……」


 結局断りきれず、覚悟を決めてダークマターを一口食べる。

 ……?! これは――


「……どう? 美味しいっしょ?」

「……めちゃくちゃふっくら炊けてて美味しい」

「でしょ! うちの親最高なんだから!」


 見た目完全に世紀末なのに美味しいって何???

 脳の処理が追いつかないんだけど??? 味覚と視覚が喧嘩してるしさぁ!!!  バグるなら味もバグらせてといてよなんでそこだけ無駄にクオリティ高いの!!!


「っしょー? 見た目のレンダリングがちょっとノイズ入ってるだけだから!」

「そう、なんだ……」


 なんだろう、負けた気がする……


「あ、そういえばみさち、5時間目って体育だよね? 移動しよー!」

「んぐ……おっけー!」


 残りの焼きそばパンを詰め込んで、慌てて席を立つ。

 お弁当でこれだけど、体育ってどんなバグが待ってるんだろうか……?



 ◇◆◇



 さて、女子更衣室に来たわけだけど……今のところ、バクはない。

 まぁ、流石にここでは無いよね。(フラグが立ちました)


「――でさぁ。それで……あ」


 隣で着替えている同じクラスの女子が、体操服に頭を通した瞬間――


 その子の髪の毛がバグって重力を無視して逆立ち、天井に突き刺さっていた。


 ……どこのH○NTER×HUNT○R? ゴ○さんじゃん……? 命の恩人の死に直面した……?


 おまけに服の上下のテクスチャが入れ替わっている。

 ……どういうことかって言うと、上にズボン、下にシャツを着てる。


 えーっと、どうしたらいいんですか自分。

 というかあのテクスチャで体育出るの? 明らか体育出来なくない?


「あー、今日ちょっと髪の毛の判定重いわー!」

「あははっ! 」

「笑ったね? その心笑ってるね?」


 ……ツッコミどころが多すぎる。

 なにここ?! ネットミームしか出てこないとこなのこの女子更衣室?!



 ◇◆◇



 私は何とか着替えを終えて、逃げるように女子更衣室を後にした。


 そして、体育教師――皆さんお馴染み、ゴリゴリのマッチョ――が集合のホイッスルを吹く。

 次の瞬間、ホイッスルの音に大音量のエコーが掛かった。グラウンド中の生徒が耳を塞ぐ。もちろん私も。

 だれだよエコーかけてスピーカーかけたやつ……あれ?


 ――せ、先生?! それどうなってるんですか?!


 私の視線の先には、直立不動の姿勢のまま、地面を滑るようにスライド移動――そう、等速直線運動で先生が現れた。


 ……今度はリ○ロっすか。レグ○スですか。どんだけネットミームが出てくるんですか??? もうそろそろ飽きが出てくるのでは?! 実際私はもう飽き飽きだよ!!!

 というか足の筋肉飾りかよ!!!


 そんなこんなでツッコミを続けていると、筋肉先生が話し出す。


「今日の授業は50m走だ! 適当に並べ!」


「はーい」と気の抜けた返事をして、みんながゾロゾロとスタートラインに並び始める。


 地味にめんどいのが来たな……でもシャトルランよりマシか……

 ……ちなみに、上にズボン履いてたゴ○さん女子は、そのままのテクスチャで並んでる。走りにくそうとかそういうレベルじゃない。


 私の脳内ツッコミなど露知らず、最初のグループがスタートラインにつく。

 ……あ、霧香いる。


「位置について、よーい――」


 先生がスターターピストルを構える。

 パンッ! と音が鳴った瞬間、生徒が走り出す。


 それがまた、個性的なバグだらけで。


 ある生徒は何人も分身しながら爆走していって、また別の生徒はテクスチャがバグって後ろ向きで走っているように見えるし、そして霧香にいたっては、明らかな加速バグが発生していた。

 時速100キロ近いスピードに突入し、ゴールラインを光の速さで通過したかと思えば、勢い余ってグラウンド奥のネットに食い込んで静止。

 ネットに挟まったまま、足だけがバタバタと虚空を走り続けている。


 ……この学校ってなにかする事にバグ起こさないとダメなの?


「おお、羽場は今日もバグってて素晴らしい! タイム、一秒二!」


 あれが素晴らしいんだ……人類最高タイムは五秒四七ですけど……?


 周りの生徒たちも「レンダリング追いついてないね〜」と拍手している。

 私、どうしたらいいんです……? 次私の列の番だけど……?


「次の列、前へ!」


 いや無理無理無理!!! あんな時速100キロとか分身とかできないからね!?  私の足は1ミリもバグってないの!!!

 でもどうせやらないといけないことだし……あーもう! やってやりますよ!


 そう腹を括って合図を待つ。

 そして――パンッ!と音が鳴った。


 勢いよく駆け出し、自分の足の筋肉と肺にすべての意識を集中させて、全力で地面を蹴って走る!

 隣をやばいのが通過して行ったけど、気にしてられない!


 分身?! しないよ! できないし!

 後ろ向き?! なるわけない!

 ネットに食い込むほどの加速?! 人間辞める気ないからね?!


 走ってる時でもツッコミを入れながら、ゴールラインを駆け抜ける。

 先生がストップウォッチをカチッと止める音がした。


「タイムは……八秒二」


 筋肉先生が、信じられないものを見たというようにガタガタと震えだし、ストップウォッチを地面に落とす。

 クラスのみんなも全員こっちを見ている。

 え? 私そんなに遅かった……?


「よ、夜霧さん……君、一切の加速バグも、位置情報の同期ズレも使わずに、自分の純粋な脚力だけで走ったのか!?」

「は、はい?! そうです?!」

「君……感動したよ! 評価は五だ!」

「ありがとう、ございます……?」


 何故か先生が感動している。

 そして、ネットからようやく帰ってきた霧香も、感動で目をウルウルさせている。


「みさち、マジか……どんだけハードな縛りプレイ(難病)してんだよ……悲しすぎてウチ泣きそう……」


 そして、クラスメイト一同から割れんばかりの拍手喝采が送られる。


 拝啓、どこかの誰かへ。

 五十メートル走を真面目に走っただけなのに、全米が泣いたみたいになってます。映画じゃないんだわ。



 昼休みはダークマターを食べさせられ、体育では普通に走っただけで伝説のランナー扱い。

 ……この学校ってもしかして、普通に卒業するの無理ゲーじゃない?




ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。

面白いと思っていただけたら、星やレビューやリアクションで応援してくださると嬉しいです。

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