バグだらけの世界(正常です)
皆様、こんにちは。かるみあです。
ぜひゆるーく見ていってください。
突然だけど、私、夜霧美紗の一日をご紹介しよう。
朝起きて、顔を洗って、朝ごはんを食べて、制服に着替えて、登校する。
これといった特徴もない、平凡な一日。
――の、はず。いや、そういうことにしておかないと、私の精神がもたない。
◇◆◇
外に出ると、春の暖かい風が吹く。
時期は四月後半。入学式が終わって、人々が段々とクラスに馴染み始めている頃……なんだろう。
だけど、私は未だクラスに馴染めずにいる。転校生なのもあるだろうけど、問題は別にある。
……何故なのかは、今目の前で起こってることを解説するとわかるはず。
私の目の前には「私立桃花学園」と書かれた正門がある。
……そして、正門横の壁に向かって数人の生徒が歩き続けている。
いわゆる壁スタック――そう、バグというものだ。
そう、この世界は「全員ちょっとだけバグっている世界」なのだ。
――しかも、私だけバグがない。
……あの壁スタックしてるやつら、なんか嫌だな。ずーっと壁に向かって歩き続けてて疲れないの?
「あれは、誰も助けないの……?」
「……あ、みさちじゃーん!」
「あ、おはよう霧香さん……」
このギャルは同じクラスの羽場霧香さん。
霧香さんは颯爽と私の横を通り抜けていこうとする……のだが。
――霧香さんが横を通り過ぎた瞬間、可愛い制服や金髪のグラフィックが全部吹き飛び、全身がどぎついピンク(紫)と黒の市松模様に一瞬だけ切り替わる。
それも次の瞬間には、何事もなかったかのように戻り「今日もウチらサイコ〜!」と言いながら、正門をくぐっていった。
「あれマイ○ラでしか見たことないんだけど……人間やめないでぇ……?」
いつの間にか壁スタックの民も居なくなり、一人立ち尽くし呆然としていると、時刻は八時十分。
「あ、やばい。朝の会が!」
そうして私は急いで教室へと上がった。
……これまた教室もカオスを極めているのだが。
◇◆◇
教室に着き、自分の席に座る。
周りはこれまたカオスなのだが、気にしないことにした。
そうして待つこと数分、ようやく先生が教室へ入ってくる。
「おはよう、みんな。今日の朝の会は――」
「……へ? 先生?」
先生が(おそらく)バグってフリーズした。そして、それを誰も気にせず各々が雑談を続ける。
……この世界では、日常茶飯事だからだ。バクによるフリーズも、壁スタックも。
ようやく日直が話し出したかと思うと――
「あ、先生またタイムアウトっすね。起動まで待機!」
……と慣れきった様子。
「あ、先生プリント持ってますね。自分が配っておきます!」
と、もう一人の日直がプリントを配ろうとする。
そして、プリントを机に置こうとした瞬間。
――物理演算がバグった。
プリントが紙飛行機以上の速度でカッ飛んでいき、後ろの壁にバフッ!と食い込む。
「え? え? 紙が、食い込んで……」
「ナイスシュート!」
「いいね〜!」
周りの生徒も「今日はこれか〜」などと当然のような反応で、何事もなかったかのように自分のプリントを壁から引っこ抜いていく。
これって私がおかしい……?
いや、この世界がおかしい。私はおかしくない。……多分。うん、多分。
というか壁にめり込む程の速度で紙が飛ぶってなんだ? どうなってんだこの世界?!
そうやって脳内でツッコミを入れていると、ようやく先生がフリーズから帰還してきた。
「――昨日の宿題の続きを出すよー!」
あ、言葉も途中から……そうですか……
「みんな準備はいいか〜〜〜〜~あ? 今日も一日頑張るピョ~ン!」
「はいはーい!」
「はーい!」
……ちょっと待て、ツッコミどころが多すぎる。
今確実にピョーンって言ったよね?! 確実に言った! 神……いや、バクに誓って言った!
というか誰も突っ込まないの? 誰も『今ピョンて言いましたよね!?』ってならないの!?
そしてそのままチャイムが鳴り、朝の会が終了した。
各生徒は一時間目の授業に向けて準備を始める……のだか、これまたカオスが広がっている。
壁に刺さったままのプリントを、後ろの席のやつがマイナスドライバーか何かで壁から引き抜いている。
……マイナスドライバー?それシャーペンでも鉛筆でもペンでもないけど???
そして廊下には、時々ジャンプ(時々ガクガクッと不自然な挙動になる)で移動している生徒が見える。
あー、どこもかしこもツッコミどころが多い……
他にも色々な生徒が居るが、これ以上は自分がヤバそうなので、見なかったことにする。
さっさと一時間目準備をして、私は目を閉じ、この地獄の十分をやり過ごすのだった。
◇◆◇
――キーンコーンカーンコーン、と、一時間目開始の合図がなる。
……チャイムは無駄に正確なの、なんなんだろう。
そうして一時間目――数学の授業が始まる。
ちなみに、教科書はバグってない。
そして、数学の教科担当の先生が入ってくる。
見た目からわかる通り、忘れ物を許さないお堅い先生。
授業が始まればみんな静かになるし、先生も真面目に教えるはず。
さすがに勉強中ならこんな変なバグも起きないはず……!(フラグが立ちました)
◇◆◇
「えー、かくして、c²=a²+b²というわけで――」
先生の解説をノートに書き取る。
一通り書き終わり、ふと横を見てみると……
隣の席の男子が、シャーペンを持ったまま何の前触れもなく消えた。
「……へ?」
机には、数式が途中まで書かれているノートと、転がったままのシャーペンだけが残されている。
透明化などではなく、存在そのものが消滅したような、そんな感じだ。
だけど、先生は普通に黒板に向かって喋り続けているし、他の生徒も誰も見向きもしない。
「……せ、先生! 今、隣の人消えたんですけど!」
そう叫んだ瞬間、教室内が一瞬で静まり返り、全員の視線が私に集まる。
先生がメガネをクイッと上げて、不思議そうな顔をする。
「夜霧さん、授業中に大声を出してどうされたんですか? 彼はただの描画エラーですよ。出席簿のデータはオンラインのままだから問題ないです。早く座ってください」
「は、はい……すみません」
そして追い討ちをかけるように、近くの席の生徒――ギャルの霧香さんが、ヒソヒソ声で教えてくれる。
「みさち、声デカいってぇ。アイツ、たまにオブジェクトの読み込み漏れで消える仕様だから。数分でリスポーンするよ」
言われた通り隣の席を見ると、何事もなかったかのように男子生徒が再出現して、何食わぬ顔でノートを書き始めている。
周りの視線が痛い。
だってあっちの子は――
「あの子、何にそんなに驚いてるの……?」
「バグが出ないタイプの難病持ちだから、情緒が不安定なのかな……」
――と、哀れみのこもった視線を向けてくる。
しかも私難病扱いされてる……あんたらの方が難病だっての。
もしかして、おかしいのは世界じゃなくて、これにいちいち驚いてる私の方……?
◇◆◇
……やっと、やっとだ!
午前中の授業が終わり、昼休みのチャイムが鳴る。
一回教室から離れて頭を冷やそう。お腹も空いたし、購買でパンでも買って元気を出そ……
そうして着いた購買部は大混雑していて、生徒たちが群生していた。
「えーっと、あのおばちゃんの列は……」
うちの学校の名物、購買のおばちゃん。生徒限定で食事を値引きしてくれる優しい普通のおばちゃん。
……おばちゃんの頭上に、ゲームでしか見ないHPバーが浮いていること以外はね?
しかもHPはあと1%。 RPGなら毒ダメージ1回、現実だったらタンスの角に小指を掠めても即お陀仏の超瀕死状態。
そんなゲージ状態にも関わらず、おばちゃんは驚異的なスピードで千切りのキャベツを挟み、大声で接客している。
「はい! 焼きそばパンね! 毎度ありーーー!!」
こんな感じに、クラスの誰よりも元気でパワフル。
周りの生徒たちも、ゲージを目の前にしながら「おばちゃん、焼きそばパンまだあるー?」と普通に買い物をしている。
……おばちゃん!!! 早く休んで!!! 多分誰かとぶつかったら昇天していくよおばちゃん!!!
こんな日常が当たり前の、全員がちょっとだけバグってる世界。
これは、この頭がおかしい世界で私が無事に卒業を目指す話だ。
ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。
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