二章【顔を上げて、声を聞いて】その3
スフィアとクエストをこなし、ギルド内で様々なメンバーに話しかけられ、時に馬鹿騒ぎに巻き込まれる日々が”日常”となりつつなる中で、俺は一人とある場所を訪れていていた。
「収穫なし、か……」
それはギルドの一角に設置されている資料部屋、様々な本が所狭しと並び、ギルドメンバーなら誰でも閲覧可能となっている場所。
最近暇を見つけたら、この場所を訪れ目当てのものを探すが、目的はおろか、手がかりになるようなものすら見つけられていない。
「ギルドの中のものは、駄目かもな……」
もし、ここに”それ”があるなら、同じギルドメンバーであるスフィアも見つけているに違いない。
そう思うモノの、それでももしかしたら、という思いが捨てきれず、ギルド内にある全ての本を一通りみてみたが、らしいものはなかった。
「と言っても、本の内容全てに目を通したわけじゃないから、もしかしたら何か残っている可能性もあるけど……」
さすがにこの量を全て読む、というのは難しい。
更に言うなら、本の中には専門書と呼ばれるモノも多数存在し、一冊読破するだけでもどれだけの日数が必要になるのか、検討もつかない。
「……」
引っ張り出した本の数々を棚に戻しながら思案する。
「一人で探すには限界……か」
本を読むことすら碌にしていない俺が、必死に探しても、結果を出せるかは怪しい所だ。
分かっていた事だが、実際にやってみるとそれが痛感できた。
「……」
俺だけでは駄目だ。
協力者がいる。
「……はぁ」
それがわかっていても、それでも一歩踏み出せずにいる。
俺の目的。
――スフィアの”不治の病”というやつの治療法。
この目的を誰かに話す、というのは、つまりスフィアの事を打ち明けると言うこと。
普段のスフィアを見れば、あいつは自身の病気について、触れ回ってはいないことは明白だった。
俺にだって、あのクエストの同行していなければ、話していたかどうかすら怪しい所だ。
そんな風に、本人が打ち明けていない事を、俺が勝手に話して良いのかわからない。
一応、スフィアもこの不治の病に対して、対策を打っているようだが、未だに治療する方法は見つかっていないという。
以前、高額でも国の医療機関に頼ってたらどうだ? と提案しても――。
『無理だよ……私の”これ”はそう単純なものではないし、仮に治療法が見つかったとしても、その方法をとるのは不可能だろう』
苦笑しながら、却下されてしまった。
俺より魔法や、それ以外の知識に精通している人間に言われてしまっては、それ以上言えることはない。
そのため、俺にできるのは、本人が打開策をみつけ、手伝う事があれば……なんて事を考えていたのだが。
先日。
俺は、みてしまった。
薬の効果が切れて、痛みに耐えるスフィアの姿を。
『――――――っ、はぁ……あっ、――――――っ!』
全身の至る箇所をどす黒く変色させ、悲鳴とも、叫びともつかない声を、かみ殺していた。
『スフィア、おい、大丈夫か!?』
『ぁ、あぁ……済まないが……そこの……棚にある、青い、液体……とって――――――』
『いい! わかったっ! 薬なんだな!? 直ぐにとってくる! だから、それ以上喋るな!』
顔を上げ、苦痛に顔を歪めながら、それでも笑顔を取り繕うとする姿が見ていられなくて、俺は大急ぎで棚から薬をひったくり、再度痛みで身体を丸め耐えているスフィアの元を駆けつけると、「おいスフィアっ、持ってきたっ! 飲めるか!? いや、返事しなくていいからっ! 飲めるならゆっくり――――!」慌てながらも、身体を起こし、口元に薬を持っていく。
スフィアはその薬をゆっくりと飲んだ。
『――――』
そうして、徐々に痛みを軽減していたのか、表情が緩み、目線をこちらによこす。
『……』
『いい、今その身体の変色した部分覆い隠すための魔法使おうとしただろ? そんなもの、今気にするやつなんてここにはいない』
『……』
『あと、今日はこのまま寝ろ。ベッドまでは俺が運ぶ。それと、今日俺、ここに泊まるから。何かあったら直ぐに言え』
抱き起こして、「ベッドのある部屋はあっちか」とスフィアに訪ねて、寝室まで運ぶ。スフィアは何か言いたげな目でこちらを見るが「お前は病気の事は人に伝えていない、この家の住人は他にいない。だから残る。あと、俺は別に弱っている人間を襲う趣味はないし、このままの状態の人間を放置できない」有無を言わせないため、そうまくし立てる。
『……』
そうすると、やれやれと言いたげにため息をつくが、そんなものは無視した。
ベッドに運び、布団をかける。
そうやって、ベッドで横になるスフィアを見て、思った。
俺はこのまま悠長にしている場合ではないんじゃないか? って。
今回たまたま夕食に招かれた席で露見しただけで、きっとこいつは今まで何度も発作に耐え忍んでいるはずだ。
薬で緩和しているとはいえ、弱り続ける身体、繰り返される発作。
そういった素振りを見せなかっただけで、確実にスフィアの身体は蝕まれている。
時間がどれだけ残されているか、わからない。
最初は不老の人間なのだから、俺の寿命の何倍もの時間が残されていると考えていたが、俺の予想より早くタイムリミットが訪れる可能性だって十分にある。
「――――っ」
スフィアが死ぬ、そう考えただけで、恐ろしくなった。
力がぬけ、平行感覚を失って、ぐらりと体が揺れた所で、足に力を込めて踏ん張る。
「……」
死なないで欲しい、と切に願う。
「……」
穏やかに寝息を立てているスフィア。
その姿をじっとみつめ、拳を固く握り決意した。
俺はスフィアに助けられた。
ならば。
――――今度は、俺がスフィアを助けようと。




