二章【顔を上げて、声を聞いて】その1
「大樹大樹っ。今日は何のクエストを受けるのっ?」
「……知らない、スフィアが用事あるって言ってたから、それまで時間潰しているだけだ」
「そっか~、あっ、じゃあ私も一緒にご飯食べてもいい? 今日は朝からクエストを受けてたから、お腹すいちゃってさ」
「好きにしてくれ……」
数週間後、ギルド内に設置された食堂の一角で、腹ごなしにパスタを食べていると、利香がニコニコとした様子で話しかけて来た。
騒がしいヤツが来たな、と思いつつも、何を言ったところで聞かないだろうと了承する。
利香は俺の言葉に「うんっ」と頷いて、カウンターに向かって注文し、メニューが届くまでの間、矢継ぎ早にそのトーク術を披露してくる。
「でね、その時――――」
クエストだけでなく、自分の身近に起こった出来事を語っていき、その一つ一つに相づちを打っていく。
……そうだ、利香はこういうヤツだったと再認識する。
底抜けに明るくて、いつでも後ろをくっついて、何だかんだと周囲を明るくするムードメーカーだった。
俺が周囲と関わる事をやめて、ソロで活動していた時ですら、何だかんだと声をかけてきたぐらいだ。
「というわけで、あっ、ご飯来たっ。いっただきまーすっ♪」
それが、“ある日”を境に、昔のように声をかけてくるようになってしまった。
あの日、クエストを終えた後。
俺はなんだかんだと一緒にいる事が多くなった。
スフィアは、とんでもない天才で、見透かした態度を取るいけ好かないヤツだ。
そう思っていたが、そんなあいつは病気を煩っていて、それでも病気に負けない強さをしった。
そんなあいつの言葉に救われた。
スフィアの言葉に、過去の思いが消えてなくなったわけじゃない。
でも、あの日吐き出した事で、心が軽くなったのは事実。
だから、俺は救ってくれたスフィアの傍にいて、何か手助けできないかと、一緒にいるようになった。
気にすることはない、とスフィアは言っていたが、傍にいて手助けする事に関しては「助かる」と言ってくれている。
だから一緒に居ることに問題はない、はずだ。
そう思っていたのだが、どうやら周りは色々思っていたようで。
――最初は、俺達の姿に驚きはしても誰も声をかけてこなかった。
けれど、一日、二日と時間が経っていくと、その光景に耐えられなくなった人間が一人。
『ねぇ、大樹。どうしてスフィアさんと一緒に行動しているの?』
とあるクエストを終えた後、ギルドで食事を摂っている時に、利香がそう話かけてきたのだ。
当初は、いつものようにやり過ごすつもりだったのだが。
『大樹、君を気にかけてくれている人間に対して、その反応はよろしくないな』
一緒に食事を摂っていたスフィアが俺をたしなめた。
『利香、彼はね、一緒にクエストを行った際、私が不調である事を知って、こうして手助けしてくれるようになったんだよ』
『え、スフィアさん、どっか身体が悪いのっ? 大丈夫っ?』
『大丈夫、とは少し言いづらい状況だが、通常のクエストをこなす事はできるし、今はこうして色々世話して貰えているから、助かっている』
そんなやりとりの後じっと俺を見るスフィアと利香。
何故だか、居心地の悪さを感じて目をそらす。
更に。
ギルドは当然の事ながら多くの人間が集う場所。
そんな中で、話をしていたせい……ではないな。
スフィアと利香、はギルドのメンバーで紅一点であること、俺がソロで活動し続けた事も相まって、ギルドのほとんどの聞き耳をたてていたようで。
至る所で、ぼそぼそと話し声が聞こえてくる。
……なんだこれ?
どうして、こうなった?
そんな思いを駆け巡る中、利香とスフィアは会話を続け――――
『色んな事情があるのはわかった。大樹はいじけて一人でいることが多かったけど、なんだかんだで優しい所もあるから。うん、スフィアさんといる事は大樹にとっても良いことだと思う』
『そうだね、大樹は本当にとても優しくて良い子だ』
おいやめろ。
まるで俺が長年、どうしようもない我が儘を貫き通して来たみたいな言い方をするな
困った我が子を、仕方ないと思いながらも見守る母親の面しないでくれ。
そう思っていると、隣にいたスフィアは立ち上がって俺の頭に手を伸ばし、頭をなでる。
『なっ』
『大丈夫大丈夫、私にはわかっているさ』
その行動に、絶句していると。
『あの大樹が……おとなしく、なすがままされているっ』
利香を筆頭に、今まで黙っていた周囲が口々に「あのやる気のなかったあいつが」だの「あいつ幼女、いや年齢からしたら年上? に弱かったのか?」「いやいや、見た目と雰囲気のギャップにやられたんだろきっと」だの「このギルドに新たなカップルが誕生した」だの「よかったよかった」だの、騒ぎ出す。
『お前らなぁ……』
一言言ってやろうと声を出せば。
『大樹』
スフィアが一言俺の名を呼ばれて。
『……』
色んな感情が駆け巡るも、大人しくする事に。
「「「「おおう、完璧に手懐けているっ」」」」
そして、そのやりとりを見て更に言いたい放題のギルドメンバー達。
このような経緯があって、俺は様々なメンバーから話しかけられるようになったのだった。
……くそったれ。
そんなわけで、一人でいようといまいと、ギルドにいれば誰かに話しかけられ、無視しようすると、スフィアがたしなめるので、仕方なく返事をするようになり、そうすると昔馴染みである利香はもうお構いなしに話しかけてきた。
別に、孤独でいようとソロで活動していたわけじゃないが、かといってここまで自分の領域に足を踏み込まれるのは、妙に疲れる。
そう思っていると。
「大樹」
「んっ?」
「よかったね」
「はっ?」
「大樹が夢をあきらめて、自暴自棄になっていた頃より、今の大樹は「前を向いている」と思うから。だから良かったって思うんだ」
ニコニコと笑う利香に、言葉の意味がわからず問いかけようとするより前に。
「ごちそうさまでしたっ。じゃあ私これからレオの所に顔をだしてくるから、もういくねっ」
「……ああ」
「じゃあ、またね大樹っ」
そういうと、利香は去って行った。




