一章【蹲る者と、そうでない者】その3
そうして迎えた翌日。
早朝という時間、仕事のために起きている人間を除けば、人はまばら。
太陽が昇り始め、徐々に照らされた光を受けながら、アパートを出て、移動していた。
目的地の正門前にたどり着くと、身につけた鞄を地面において、その鞄に腰をかけているスフィアを見つける。
「やぁ、おはよう大樹」
「……」
「やれやれ」
何とも言えない気持でスフィアを見つめていた俺を、仕方ない苦笑して「さっ行こう」と鞄から腰を浮かして立ち上がり、俺を促す。
俺は無言のまま、スフィアの後についていく。
国の出入り口である門の所へ行くと、出入りの必要な許可をもらい、外へ出る。
「今日は良い天気だ。旅をするにはもってこいと言った所だね」
「……」
「君は本当に変わらないなぁ」
話かけるスフィアと、それに返事をしない俺。
交わる事のない俺達。
そんな俺達とは裏腹に、空から照らす太陽の光は温かい。
「……」
あべこな状態に、なんとも言えない気分になりながらも俺たちのクエストは始まった。
門を抜ければ、国の外。
とはいえ、国を出たところで、その周辺は国の管理下だ。
国交のための道のりは基本整備されているので、国をでたから、すぐに魔獣に襲われる事なんて事はない。
だから危険区域に足を踏み入れるまでは、滅多な事が起きない限りは、トラブルなく進む事が出来るだろう。
それについて、特に思うことはない。
ただ――
「なあ、スフィア」
「おっ、ようやく話かけてくれたね。折角の道中、ずっとだんまりなのはどうかと思っていたところだよ」
歩き続けて、少し経った頃、俺は目の前の歩くスフィアに声をかけると、スフィアは首を動かしニコリと微笑んだ。
そうして、歩くペースを落とし、俺の隣にやってくると。
「何が聞きたいんだい? 言ってみてくれ」
「……お前、飛ばないのか?」
俺が疑問を投げかけると「・・・・・・あー」と少し困ったように笑う。
俺は強くなるため、剣の腕を磨くと共に、魔法についての教養と、実戦訓練も行っていた時期がある。
その中で、魔力が人並み以上ある割に、扱える魔法が極端に少なかったらしく、俺が扱えるのは「強化」のみ。
自身や、モノに魔力を通して強化する以外の事は空っきしだった。
だから、一般教養以上の事について詳しくないのだが……
「国の中だったらともかく、国を出てしまえば問題ないだろ。いくら魔法や魔導具を使っているとはいえ、歩くより飛んだ方が楽なんじゃないのか?」
移動手段として、徒歩を選んでいる事に何となく違和感を覚えての発言。
そんな俺の疑問に「確かに、そう思うのは当然か」と呟いた後。
「答えは単純。魔力の温存さ。移動だけなら君を乗せて運ぶ事も可能だけれど、私達が目指す場所は危険区域に指定されている場所。護衛として君についてきてもらっているとはいえ、それでも何か起こらないとは限らない、だから魔力の消費は極力抑えたいんだよ」
「……なるほど、わかった」
スフィアの言葉に「変な事聞いた」と言うと、「いやいや、君の疑問は最もさ」と返される。
「親睦を深めるために、お互いの事を知っておくのはとても良いことさ、さて他には何が聞きたい?」
「いや、特にない」
「そんな事を言わずに、折角の機会だ、時間はたっぷりとある。交流を深めようじゃないか大樹」
俺の質問で、スフィアの会話への欲求に火をつけたのか、以降事あるごとに話しかけれることになり、それが鬱陶しく感じながら思った。
余計な事を聞くんじゃなかったと。
騒がしい道中を経て、辿りついた桜華山。
道中で国の管理下から外れた道を進んでいく中で、幾多の魔獣と遭遇し、撃退。
「さすがウチのギルドで、ナンバーワンの剣士と呼ばれる程の実力、実に鮮やかな手並みだ」
「……」
そんなスフィアの賞賛に応える事なく、先へと進み。
山へ入り、獣道や崖を越え、目的である薬草が生えているという場所まで到着。
俺は害敵に意識をさきつつ、スフィアの近くで待機。
「あったあった、いやぁ、貴重な薬草だから、一般のルートで手に入れようと思うととても高価な品だからね、こうして自分で手に入れた方が早いとはいえ、場所場所なだけに、毎回苦労させられるよ」
スフィアは背負っている鞄を降ろし、ぽいぽいと突っ込んでいく。
その慣れた手つきで眉を寄せて話しかけた。
「……お前、この薬草を、手に入れるのは“初めて”じゃないのか?」
「そうだよ? それがどうしたんだい?」
問いかければ、不思議そうに首を傾げるスフィア。
構わず俺を訪ねた。
「今回の道中で遭遇した魔獣、中には手強いと称されるモノもいた。道も険しく、一般の兵士や魔導士は厳しいものだろう。けど、どの魔獣も道のりも、お前にしたら、無理難題というほどじゃない。それに保険として連れてくるなら、お前や俺のようなヤツじゃなくても、構わないはずだ」
主力としてスフィアがいれば、一定数の場数をこえたギルドメンバーなら、このクエストに参加できる。
そう判断した俺は、スフィアが俺を選んだ理由がわからなかった。
「初めてここに来たのなら、いざという時の……と言う理由はわかる。けど、何度も来ているなら、別に俺じゃなくてもよかった」
想定外の一つとして、【魔物】の存在が挙げられるが、それにしたって、スフィアが主力になれば、逃げる事は可能だろう。
「だからわからない。今回どうして俺にこのクエストを依頼した?」
俺の疑問に、目を伏せる。少しの沈黙のあと「そうだね」と零してから――――
「そこまで考えていて、疑問に思っているのなら、なぁなぁで済ましても納得しないだろうし、それに個人的な事情に巻き込んでいるんだ。君には聞く権利もある。だから話をするのは構わないんだが、ここではちょっと難しい。山を下りて、危険地域から外れた時、そこで話そうと思うけど、いいかな?」
「わかった」
疑問に思っているとはいえ、ここでは魔獣に備えなければいけない。
立地も単なる平地ではなく、森林が生い茂り、崖も多数存在する場所。
そんな中で話をしろと強要する事は流石にはできないので、スフィアの言葉に頷いた。
「ありがとう……では薬草の採取も終わった事だし、ぱぱっと降りてしまおうか……っと」
鞄につめこみ終えたところで、立ち上がる。その際にふらついたので、身体を支えてやると「すまない」と苦笑して、俺から離れた。
「……調子でも悪いのか?」
「――そんなところさ」
それではいこうか、と鞄を背中に背負り、下山をはじめるスフィア。
その姿に、何となく不安を感じながらも、俺はスフィアに従って、一緒に山を下りることにした。




