一章【蹲る者と、そうでない者】その2
「……」
「君、食卓についているのだから、その仏頂面はやめた方が良い、食事は必要な栄養を補うためのものだが、それと同じくらいにね、食卓についた人間と楽しみを共有する、という役割を担っている。だから我関せずという態度をとるのはやめて、一緒に食事を楽しもうじゃないか」
「……っち」
「やれやれ」
帰ろうとした矢先、スフィアに対面、幾分気分が滅入ったものの、帰ることに変わりはない。
そう思って横を素通りしようとした時。
『大樹、君今クエストを受けていないのかい?』
『だったらなんだ? お前には関係ないだろ』
『いやいや、大ありさ。私は君に頼みたい事がある』
少しだけ目を細めて、スフィアは言った。
『君にあるクエストを受けて欲しい』
そう言って「その前にまずは一緒に食事を摂ろう。君の事だから碌でもないモノしか口にしていないだろうし、私の都合に付き合ってもらうんだ、ここは私が奢るよ」とギルド内に設置されたテーブルの一つに座り、メニューを注文する。
『俺は――』
『受けるとはいっていない、かい? とはいえ私も誰でも良いから受け手欲しいと言っているわけじゃなく「君の実力が必要」だと思うからお願いしている。君の性格的に「自分の実力」が必要で、尚且つ相手が困っていたら、クエストを受けてくれると踏んでいるんだが――――駄目かな?』
『……っ』
『お、その様子だといいみたいだね? ならやはりまずは食事にしよう。そこに座って好きなモノを頼むと良い』
俺の反応をみて、近くの椅子に腰かけるように促す。
スフィアの態度に一言いってやろう、そう思い口を開き、けれど何を言ったところで丸め込まれるであろう結果が脳裏に浮かんだ所で、ガシガシと頭をかいて席に座った。
俺がコイツを気にくわない理由の一つは、こいつのその見透かしたような態度。
なんでもわかってるという態度が気にくわないんだ。
けれど。
じっとこちらを見つめたときのこいつが、“本気”で助けを求めるように見えた。
だから、気にくわなくても、その助けに応えようとする自分が。
『……っ』
とても――気にくわないと思っている。
「――っで、受けて欲しいクエストってなんだ?」
「それは食事を食べながらゆっくりと――」
「内容次第では、帰る」
さっきからスフィアのペースに呑まれている。
そのため、そのペースを断ち切ろうとしたところで。
「それは困るなー……仕方ない。君には薬草採取に同行してほしいんだ」
「薬草の採集?」
「そ、とはいえ、君に薬学の知識はないだろうし、頼みたいのはあくまで『同行』つまり」
「……護衛役としてつい来て欲しい、ってことか?」
「その通り。道中には【魔獣】がわんさかしているし、外は国の中と違って【魔物】が出没する可能性が飛躍的に上がる。魔獣の討伐と、魔物から逃げるためには、並の実力者では不安が残る、だから君だ」
ピッと指さしてニヤリと笑う。
「このギルド“最強の剣士”の肩書きを持つ君に、私のクエストを受けて欲しい、というわけさ」
最強という言葉に嫌みかと顔をしかめるが、同時になるほどなとも思う。
こんな態度であるが、スフィアは実力者であり、その判断は的確なものだ。
だから、こいつが俺の実力が必要だというのなら、その通りなのだろう。
「……わかった、っでそのクエストはいつ始める?」
「まずは食事をして、その後2.3日移動する事になるから、野営の準備が必要。基本的なモノはこちらで用意するとして、他に自分が必要であると判断したもの、それに関しても私が支払いをする。開始は……明日の早朝。待ち合わせは正門前、こんな感じでどうだい?」
「2.3日の移動となると、近場じゃないな。……場所は?」
「桜華山だよ」
桜華山は国から離れている場所で……危険区域に指定されている所、か。
「聞きたい事は以上ということでいいかな?」
「……ああ」
「なら、食事にしよう。料理も出来たみたいだし」
注文されたメニューが運ばれ、テーブルに置かれる。
それを見て、料理と一緒に運ばれてきた食器を使い食べ始めた。
「……」
見た目に反して、優雅に、と言ったら良いのだろうか、その動きに無駄がない。
ガサツな乱暴者や、必要以上のマナーを知らない平民の食べ方とは違う。
……どこかの貴族のお嬢様だったのか、こいつ。
「別に、私は貴族でも何でもないよ」
「……っ」
「ああ、一応言っておくと、魔法で心を読んだとかそういうわけじゃない、ただ私の食べ方に関して思う所がある人間は一定数いるものだから、君もそうじゃないかと感じただけさ」
そう言って、食事を続けていく。
「……」
又、何とも言えない気分になったが、かといって言ったところで軽くあしらわれるだけ。
そう思い、出された食事に手をつけた。
久しぶりにギルドで摂った食事は悔しい事に、美味いと感じ。
「……」
「ふふっ」
そんな感情すら、見透かされた気がして。
「……」
これ以上何も言うことなく、苛立ったまま食べ続けるのだった。
食事を終えて、身支度を済ませる買い物にスフィアがついてきて、辟易しながらもその時間を終える。
「……ちっ」
スフィアと別れた俺は、寝泊まりしているアパートの一室まで帰ってくると、やるべき事を短時間で終わらせベッドに横になった。
「……」
何だかんだと時間が過ごしたせいか、眠気はすぐにやってきて、眠りにつく。
「……」
夢は、何もみなかった――。




