エピローグ【光に向かって歩み続ける者たち】
「さて、ギルドのクエストは残す所、報告のみ。だからたまには、空を使わず、のんびりと帰ろうと思うんだが、いいかな?」
「別にいいけど、飛んだ方が速いんじゃないか?」
「それはまあそうだが……今日は良い天気で、周りの景色も綺麗だ。そんな場所をね、速いからという理由だけで、短縮するのはもったいない。ああ、でも要所要所で、高い所からみる、っていうのもいいものだね、その時は是非飛ぼう」
「わかったわかった」
スフィアの言葉に頷くと、彼女は笑う。
そんな彼女を見て、悪くないと思えた。
――あれから、一ヶ月。
スフィアの呪いは完璧に解けた、らしい。
見た目や専門的な事はわからないが、魔法のスペシャリストであるスフィアや、医者であるレオが、全く問題無いというのでその通りなのだろう。
正直、実感は薄い。
何せ、魔力を送り続けた後、俺は一週間ほどぶっ倒れていた、という事なので、その間に治療は終わり、呪いが解けた後だと、今度は一番の重傷者であるのは俺、という事らしく、倒れた俺はレオの診断と治療受けたあと、医療の心へがあるスフィア宅へと運ばれ、かいがいしく介抱されていたのだという。
正直最初の方の記憶は無い。
目覚めて、「何で俺ここにいるんだっけ?」と思いながらも再び寝た記憶しかない。
それで意識がはっきりした時にパニクる俺にスフィアが笑みを浮かべながらも説明して、ようやく事態が飲み込めた、という感じである。
「大樹」
「何だ?」
「そこの木陰で休憩していかないかい?」
「疲れたのか?」
「そうじゃない、ただ君とゆっくり過ごしたいと思っただけさ」
「……じゃあ、そうするか」
スフィアの言葉に頷けば、「ああ」と嬉しそうに頷いて、小走りに木の根元まで走り、背負っていた鞄を下ろす。
そしてパチンと指を鳴らせば鞄が空いて、そこからシート、ティーカップ、ポット、ランチボックスが踊るように宙を舞い、意思があるのではないか? と疑ってしまうぐらいに、それぞれの配置へと向かい、止った。
「さぁ、私の隣に腰掛けて、ゆっくりしよう」
「わかったわかった」
幼い容姿と相まって、キレイというよりは愛らしく感じるスフィアの隣に腰掛けると、スフィアが俺に体重を預ける形で座る。
「……近くないか?」
「恋人だからね、これぐらいは普通だよ」
「ああ、これが普通なのか、なるほど」
「ふふっ」
俺が頷くと、スフィアは笑う。
恋人。
俺とスフィアの関係が変化したのは、スフィアの家に世話になっている時。
『ところで、大樹?』
『うん?』
『君は私が好いているという事実に対して、色々聞きたいようだったけれど』
『あ、ああ』
『私は当初、自分が死ぬしかなかったと思っていたから、正直深く掘り下げる気はなかったし、それに君の気持ちも、分かっていなかったから、どうしたものかと考えていたんだ』
『お、おう』
『でもね――』
『でも、っておいなんだ。ちょっとまて、じりじりと近寄るな、服を脱ぐな、めくるな、押し倒そうとするな、俺はまだ全快じゃない――』
『こうして生き残って、そして君の゛あの言葉゛を聞いて思ったんだ――堕とそうって』
『お、おおおおおととととおとととす?』
『大丈夫大丈夫、こんな身なりでも私は゛年上゛だからね、優しくする、よ?』
『!!!!!!!』
と言うことが、あり、その後の激しいアプローチにより――――付き合う事になった。
身体が回復した後、会う人間会う人間おめでとうと言われたのは余談。
そして付き合う事になったあと、速効でアパートを引き払い、スフィア宅に住むようになったのも余談。
「何か色々思っているのと違って驚きだよ」
「うん?ああ――君初心だから、年齢の割にピュアだし、恋愛に対して受け身というか、考えが及んで無いところはあるよね」
「それって、けなしてるわけじゃない、んだよな?」
「勿論、自分の恋人をけなす事はしない。ただちょっと心配になるかな? 君知らない事や考えが及ばなくて、知らず知らずに巻き込まれそうだなって」
「付き合っているのに、何に巻き込まれるんだ? 別に浮気しないし、付き合っている奴にどうこうしようとなんてしないだろ?」
「……大樹」
「何だ?」
「君は是非、そのままでいてほしい。そして万が一何かあったときは必ず私に報告してくれ」
「よくわからないけど、わかった」
曖昧に頷くと「必ず、だよ」と念を押されたので再度頷く。
それをみて、納得したのかよろしいといった後で、ポットから注がれたモノを手渡されたので、ゆっくりと口に含んだ。
「うまい」
「だろう」
下に感じたさっぱりとした甘みと、ミルク風味を堪能すると、スフィアはまた笑う。
「……どうしたんだい?」
俺がじっと見た事を気にして首を傾げる。
「あのさ、今更なんだけど」
「ああ」
「話し方、無理してないか?」
自然に笑う姿をみて、ふと思った。
俺がスフィアを変えたなどといっても、口調まで変える必要性はあったのか?って
それを口にすると。
「そうだね」
一口にカップを口に含んだあとで、カップを地面に置いて。
「この話し方は当初、「そうなりたい」という願望に近かったから真似たものであって、元々口調にはほど遠いから、喋っているというより「喋っている姿を真似ている」という作った感じはあると思うけど、使い続ければそれが当り前になるからね、今はそんなに苦でもないかな」
「そうか」
「ああ、君のせいではないけど、君がきっかけではあったわけだから、気にするなといっても気にしてしまうか……でも、今はこの姿もしゃべり方もそれが私だとはっきり言えるから、だからいいんだよ」
「……わかった」
本人の納得した上でなら、これ以上は言う必要もないかと考えを切り替えようとしたところで。
「それに――」
その時笑みの種類が変わる。
穏やかで柔らかい雰囲気は消え、瞳が濡れて、色が混じる。
その笑みをみて、ぞくりと背筋が凍る
そんな笑みを浮かべて、俺に近寄り耳元で囁く。
「ギャップがある、というのも、悪くないでしょう?」
口調を昔に戻し、声音甘い声に変化させ耳にぶつけられて、文字通りの俺の顔が真っ赤になった。
「!!!!!!!」
のけぞり、後ろざりそうなのを必死に繋ぎとめる。
逃げる必要はどこにもない。と心の中で念じてその場に留まる。
「夜が楽しみだね、大樹」
「……」
軽く手を握られてそう微笑むスフィアに何を応えればわからなかったので、とりあえず、手を握り返すことにした。
現状、これで背一杯だ。
そんな態度に満足したようで。
「さ、軽食として、色々持ってきたんだ、一緒に食べよう」
スフィアは俺に食べるように促し、一緒に食べた。
穏やかな陽だまり、吹き抜ける風は何処までも優しく。
出されたものは、どれもやはり美味しかった。
「さて、と。ゆっくり歩きすぎたかな。もう夕刻だ。さすがにこれ以上時間をかけると日が暮れてしまうね。ここからは飛んで帰ろう」
国までもう少し、となった所で杖を取り出し、宙に浮いた杖に腰掛けると、後ろに座るよう促す。
「じゃあ、失礼して、と」
ゆっくりと腰かける、ふわりと浮かびあがって、高度が上がった。
「しっかりつかまらなくて大丈夫かい大樹?」
「うん、ああ」
怖くはないものの、自身の力で浮かんでいないので、奇妙な感覚はある。
だけど、こうして空を飛んでいるのは悪くない気分だ。
「――言い方が悪かった、しっかりくっついて、もっと近寄って、私の手を握ってくれるかな?」
「え、あ、おう」
俺が初心なら、スフィアはストレートすぎる、と思うのは可笑しいことなのか?
そうは言っても断る理由はないので、言われたとおりにすると満足げに微笑んだ。
そうして、飛ぶことになってわずかなじかんで、俺達の国が見える。
夕日が沈みかけているところで、明りがともり始めている
そこは俺達の国。
これからも俺達が生きていく場所。
それを見ていて俺は呟いた
「あのさ」
「なんだい?」
「なし崩してきになっているきがするから、はっきりと言うけど」
ちょっと照れくさいと思っても、それでも意思を示したい。
そう思って、口を開く。
「強さだけじゃなく、その弱さも俺にくれ」
「えっ?」
「――いや、ちょっとわけがわからなかった。悪い」
思いを口にしようとすると、全てを伝えようとして、上手くいかない。
幼い頃に治した癖がでてしまった。
ここで慌ててしまえば、更にわけのわからない事を口走る可能性があるので、一旦落ち着こう。
「……」
幸い、スフィアは舞ってくれているようだ。
大きく深呼吸をして、もう一度。
「スフィア」
「――なんだい?」
「俺と――」
――これからも共に。
その強さだけでなく。
弱さを、共に預けて。
この世界で、生きていこう――。
「――私で、いいのかい?」
「お前以外に、考えられない」
「見た目は子供、実際の年齢が相当な私でも?」
「関係はなくはないかな? 俺は長い年月を生きてきたお前に惹かれたわけだし、その容姿にどうしようもなく、惚れ込んでいるみたいだから」
「私は――」
「――なあ、別によくないか? 結局の所どんな理由を並べても」
お前が惚れてくれているというのなら。
後は俺がどうというだけの話で。
そして、俺はちゃんと応えたぞ?
俺がスフィアの顔をじっとみれば「まただ」と呟く。
「そうやって、これ以上にない、と思っていても、君はそんな私の気持ちを軽く壊してしまう。ああ――」
その時、スフィアの瞳から涙が一筋流れた。
単なる、喜びだけではない、その感情の吐露を、とてもキレイだと思った。
そして。
「大樹」
スフィアが俺を呼ぶ。
じっと俺をみる。
それを見て、俺は誰に言われるまでもなく。
自分から、スフィアの唇に、自分の唇を重ねた。
自分のこの思いを、少しでも多く、相手に届けるために。
空はいつのまにか、日が沈んで、月と星が瞬いていた。
月明かりで照らされたスフィアはやはりキレイで、眼下に広がる街並みも美しい。
浮かんだ月は、遠い場所で、優しく全てのものを包み込む。
その光に手を伸ばしても、届きなどしない。
でも、それでいい。
光(希望)に手が届かなくても、いいんだ。
希望は、それでも俺達を照らし。
そして、その光があるから生きていけるという事が。
もう、十分にわかったのだから。
俺達は、これからも、その光に照らされながら、歩き続けていく。
共に、この命尽きるまで――。
【光に手が届かなかった者達 完】
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
この作品は藤咲梗花さんの作品である【光と共に】の設定を使わせておりますので、URLを貼らせて頂きますhttps://ncode.syosetu.com/n9419ho/




