終章【光に手が届かなかった者たち】その3
「とって、きた、ぞ」
ギルドに倒れ込むようにして戻り、テーブルにいるであろうレオに薬草が入っているポーチを見せる。
「大樹。君、ぼろぼろ・・・・・・」
「んな、事はどう、でも、い、い」
「わかった、治療は・・・・・・ごめん! 後で! とりあえず、安静に!」
ポーチを手渡すと、がくりと力抜けて、床に仰向けに。
レオは心配そうに俺を見つめるも、「早くいけ」と促せば、頷いた後にその場を離れ、テーブルに一角に拡げた様々な薬草や、医療器具のある場所へ戻り、調合を再開させる
「・・・・・・」
本来ならここで意識を手放したい所だが、今はそういうわけにもいかない。
無理矢理自分を奮い立たせ、意識を保つ。
「たーくん。私レオ君みたいに治療はできないけど、応急処置はできると思うから、そこに座って」
「・・・・・・」
返事をする力はなく、上を見上げれば、幼い頃から世話になっているカヤ姉さんがいた。
ギルドの受付嬢をし、荒事にも慣れているカヤ姉さんは、応急セットの箱を持ってたっていた。
「ソウマ、たー君に肩貸してあげて」
「・・・・・・わかった」
カヤ姉さんが恋人であるソウマに声をかけ、横たわる俺の前にやってくると、腕を肩に回し、俺を立ち上がらせる。
体力が尽きている俺はされるがまま。
近くの椅子に座らせると、カヤ姉さんは俺の上着を脱がせ、汚れや血を拭い処置を始めた。
「君は昔から、よくぼろぼろになるよね」
「・・・・・・」
応える元気がなく、ぼうっと見つめると
「こうやって、ぼろぼろになっても、誰かのために動ける君は、本当にカッコイイよ」
「・・・・・・」
声はでずとも、表情で俺が何を言いたいのかわかったのか、カヤ姉さんは笑った。
「嘘じゃないよ。本当にそう思ってる、みんな、ね」
テキパキと処置を施して「後はレオ君に任せる。たー君はゆっくり休んでて」
といって、その場を後にした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ソウマはカヤ姉さんについて行く前に、じっと俺を見て、結局何も言わずに離れていった。
・・・・・・なんなんだ一体。
そうは思っても、声を出すことすらキツい。
「・・・・・・」
俺は二人を見送ったあとは静かに待つ。
その間ギルドのメンバーがせわしなく動き、レオに声をかけ、レオが指示をだしたり、礼をいったりしている。
いつもとは、違った意味で騒がしい。
「・・・・・・」
それをぼんやりと見つめる。
時間が過ぎていくなか、徐々に集まっていく薬草の数々。
残すところは天ノ滴の壺という国宝だった。
対応しているのは梨花だという。
あいつ、人付き合い上手い上に、色んな人間に伝があるのは知っているから、ギルドの中で一番適任なのはわかるが、本当に持ってこれるのか?
いや、梨花なら――
そう思った時に。
「レオ、借りれた!」
梨花が戻ってくる。
「本当に!? 正直、ある意味大樹以上に難しいと思っていたんだけどっ」
「いけるっていったでしょ! それより、レオの方は!」
「大丈夫! みんな頑張ってくれたから、薬草は全部用意できた! あとはその壺にっ!」
「OK! はい」
梨花が抱きかかえていた壺をレオに渡すと、レオは調合した薬を壺の中にいれる。
「あとは――」
「魔力だね、みんな!」
ギルドのメンバーが次々に壺のもとへ集まり、手をかざす。
それぞれが、自分の魔力を送り込んでいくのが見えた。
幾層の魔力の光が混じり合って壺の中に溶けていく。
この人数の、それもギルドに在籍するメンバーの魔力はそうとのモノだろう。
しかし。
一人、又一人膝をおとし、息をついて座り込む。
重なる魔力の光が少しずつ途絶えていく。
「どうレオ足りる!?」
「まだ駄目だ。文献によれば、魔力で満たされれば白く光るって書いてあったけど、まだ壺に何の反応もない!」
「じゃあ、もっと、もっと魔力を!」
手をかざして魔力を送り込む梨花。
既に梨花も大半の魔力を使ったのか、額には汗が、腕がぷるぷると震えていた。
「梨花! それ以上は!」
「関係ない!」
レオが引き留めるが、構わずに叫ぶ。
「大樹が一番頑張って、ボロボロになって、無茶を通して、ここまできたんだよ!? あと一歩でスフィアさんが助かるんだよ!? なのに、ちょ~っと、しんどくなったらお手上げ!? そんなわけないじゃない!? 私だって! 助けたいの! みんなと笑っていたいの! だから、止めないで!」
そういって、魔力を送るのをやめない。
「・・・・・・そうだな、ちょっとしんどいからお手上げっていうのは、なし、だよ、な」
そんな姿を見て、俺は立った。
立たずにはいられなかった。
「大樹!? あなたは駄目でしょ!? 体力どころか魔力だって、すっからかん――」
「まだ、動けるんだから、あるんだろ」
壺の近くまで、やってきて、手を伸ばす。
「なくても、しらねーよ、俺は助けるって、助けたいって思ったんだ」
魔力を送り込もうとしたところで、膝がくずれた。
「大樹、無謀どころか、それじゃあ死――」
「死なねーよ、言ったじゃないか。梨花が、「やれることを、ぼろぼろになるまでやるだけだ」って」
そうだ、あの人達のようにはなれない。
いつだってぼろぼろ。
それでも、やる。
それが、俺だ。
「だから死なないし、やり遂げる、やり遂げてみせる」
脳裏に森の魔女が浮かぶ、笑顔が浮かぶ。
スフィアが浮かぶ、笑う姿が浮かぶ。
泣いている姿、苦悩する姿、最後に、必死に訴える姿。
ああ、嫌だな。
最後に浮かぶのがそれなのは、本当にいやだ。
「俺がみたいのはさ、笑顔なんだよ」
そういって、枯渇寸前の魔力を送り、口から血が滲む。
途切れ途切れの魔力光が、壺に注がれていく。
限界を超える。伸ばした手の感覚が無い。
「・・・・・・それが見たいから、俺は目指した」
『みんなの笑顔を守れる英雄にっ』
脳裏に幼き日の言葉が浮かぶ。
ああ、そうだ。
俺はただ、それだけを求めたんだ。
それが、嘗ての願い。
「――――」
もう声すら出ない。
それでも、壺は光らない。
くそったれ、じゃあもっとくれてやる。
そう思った所で。
「じゃあ私達も、がんばらないと」
誰かがそういうのが聞こえた。
「一人だけ、ボロボロになるのは、なし、だね」
「当然!」
「けっ、これから俺に隠された全力を見せてやるぜ」
「おいおい、無理しなさんな」
「そうそう、万年平均点しかとれないオッサンはほどほどにしときな」
「・・・・・・私達にお任せあれ」
それを機にギルドのメンバーが声をあげた。
「私の魔力も使えるかな? そんなにないけど」
「・・・・・・カヤは無理しなくて良い」
「なーにいってるの? みんな魔力使い切りそうでも、まだ光らないんだよ? じゃあ少しでも足しになるようにするのは当然。たー君が頑張ってるのは勿論だけど、スフィアさんだってこのギルドには必要なの! ううん違うな。みんな大好きなんだよ! 頑張って頑張って、ようやく報われてようとしている一人の女の子の事が! ボロボロになっても、最後はやりとげる男の子の事が、だから、ね?」
「・・・・・・程ほどにしてくれ」
「ごめんね?」
「・・・・・・言って聞かないのは知ってる・・・・・・ただ」
「わかってる、自分を犠牲になんて思ってない。それはみんなそうだよ」
カヤ姉さんとソウマがそう言っているのが耳に入り。
「大樹」
梨花が俺に声をかけてきた。
「これが、私達。私達のギルド。最強じゃないかもしれない。足りない所はいっぱいあるかも。でも、それでも私の大好きで、大切な仲間っ。ね、最高でしょ?」
「・・・・・・」
「だから、もう少しだけ、頑張ろう」
珍しく、優しさに満ちた声だった。
「なら、このギルド専属の医師である僕も、頑張らないとね」
「・・・・・・」
「ああ、魔力が少ない? 身体弱い? それはそうなんだけど、ほらっ、みんな限界超えて頑張ってるから、じゃあ僕もいけるんじゃ無いか、ってね」
レオは戯けるように、そう言った。
「――」
そんな姿に、口を動かしても、何の言葉も出せなかったけど。
不思議とみんなに届いたようで。
「「「「当然」」」」
と高らかに声を上げた。
その言葉に自然と笑みが浮かびそして
「光――く、ス――」
「た――べ――」
部屋を埋めつくすような白い光が満ちたあと。
かすかに聞こえる言葉の切れ端をぼんやりと聞きながら。
俺は意識を手放した。
「――――」
目を覚ましたら、そこは前に来たことのあるスフィアの家の客室の天井で。
「――――」
視線を移したら、スフィアの姿があった。
「――――」
ぼんやりして、記憶がはっきりしないまま彼女を呼ぶと
「――っ」
スフィアは目を丸くした後に、笑う。
「――――」
そして、何か話をして後に、「もう少し寝ているといい」と言わんばかりに、身体を起こした俺を、再び横になるように促し、頭を撫でる。
それがとても気持ちよくて、意識がはっきりしなくて、睡魔が再び襲ってきて、誘われるように目を閉じると。
ほどなくして、唇に温かい感触を感じた。
少しだけ目を開ければ、スフィアが嬉しそうに笑っている。
そういえば、俺、スフィアに何か言おうとしていた気がする。
色々ありすぎて、何をいったらいいのか、わからない。
ただ、このままではあれだから、何か一言でも思い
「――――」
その一言告げれば、再度驚いたように目を見開いて。
「――――」
嬉しそうに笑ってくれたのが分かったから、俺は満足して眠りについた。
ああ。
今回は、良い夢がみれそうだ――――




