三章【私の“英雄”】その9※スフィア視点
それからほんのひと時の時間を過ごして、私はアランに別れを告げる。
『又来るわ』
私の言葉に『じゃあ、頑張らないと』と返すのを見て、私は微笑んだ。
そしてカヤとたいきがリビングで寛いでいる所に声をかけると「じゃあ俺もかえる。バイバイかやねーちゃん」と言ったので、一緒に家をでた。
『……どうしたの?』
ニコニコと笑うたいきをじっと見て、アランの言葉を思い出す。
――あの子に感謝しなければいけないね。
アランは言った。
――君の事を知って、それから大人達に“森の魔女”の話を聞いたあと、あの子は国中を回って、聞きまわったそうだ。
――誰か、森の魔女の知り合いはいないかって。
――森の魔女が一人でいるのは、自分が悪い事をしたからだと思っている。
――誰か魔女の言葉を聞いて、許してあげて欲しい。
――じゃないと、一人でいるのは当然だと言って、ひとりぼっちのまま。
――それは、とても苦しい、悲しい。
――どんなに森の魔女が酷い事をしたからといっても、俺達を助けてくれたんだ。
――おっかないけど、優しい人なんだ。
――悪いことをしたら、怒られるのが当然なら。
――罰をうけて、その後は、許してあげて。
――それを誰か森の魔女に教えてあげてくれ、ってさ。
この国は広い。
子供が数時間で回れるような場所では決してない。
それを、この子はこなした。
手伝ってくれた子はいただろう。
途中から、周りの大人も手を貸したと聞いている。
だからといって、それは楽になったというわけではない。
本来なら、体力がつきたって可笑しくないし、尽きていなくても、疲れ切っているに違いないのだ。
それでもこの子は、たいきは「よかったよかった」と笑っている。
『たいき』
『ん~?』
『どうして?』
君はボロボロなはずなのに。
『どうして、ここまでの事をしてくれたの?』
それを感じさせない姿で、笑っていられるのか。
『なにが?』
『私は出会って、それほど間もないのに』
『それって、なにか問題でもあるの?』
私の言葉に、たいきは軽い口調で返す。
『森の魔女は、俺達を助けてくれたじゃん』
それは、そうかもしれない。
けれど、そういうことじゃない。
私はほんの少し、手をかしただけ。
それに比べて、たいきがしてきたことは、それ以上のものだ。
『……』
『むずかしことはわからないけど』
日が沈み始め、橙に照らされたたいきが笑う。
『おれさ、この国……というより、みんな好きだよ。りかも、レオも、父さん、母さん。ほかのみんな、そして森の魔女も』
辺りを染める暗闇よりも、光の強さが、光に照らされたたいきの姿ただ眩しかった。
『そんなみんながいつも笑っていればいいと思うんだ。みんな笑顔でいてくれたら、俺もうれしいし。んでっ』
『みんなが笑える場所を守るっ! これが俺の夢で、そして俺はそのためにこの国最強の魔導騎士団にはいる!』
国を守る英雄の一人になるんだ!
強く、強く。その気持ちが伝わってくる。
『そう思ってるけど、でも英雄になりたいのは、守るためで、その守りたいものが、みんなの笑顔で、そのみんなに森の魔女がいるから』
気持ちが先走って、上手くまとめることができないのだろう。
強い宣言とは裏腹に、途中からしりすぼみしてしまった。
『ふふっ』
『あー笑ったな。悪かったな、頭悪くて!』
『ごめんなさい、違うの……馬鹿にしているわけじゃない』
『そんな事言って、笑ってるじゃんっ! ……まぁ、さっきまでの顔でいるよりは全然いいんだけさ!』
ぷいとそっぽを向いて機嫌を損ねてしまった。
その事に申し訳ない気持ちを抱き、「本当にごめんね」とたいきにより、私はたいきに近寄った。
そして、ぎゅっと抱きしめる。
たいきが唐突な行動に慌てるが構わず告げた。
私の、心からの言葉を。
『なれるよ―――』
――私は決して忘れないだろう。
この日、過去の贖罪と感謝を、嘗ての恋人と交わす事が出来た。
そしてこの日。
私は、小さな英雄に出会った。
私を救い上げてくれた、私の英雄に――。




