三章【私の“英雄”】その7※スフィア視点
その日の夜。
私は、何となく、だいきから受け取った絵本を読んだ。
中身は女の子が主人公となっているが、男の子が好みそうな冒険活劇。
悪い魔道士を、主人公である魔道士が、仲間のみんなと力を合わせて退治するというものだった。
一昔前に流行った三角帽子と魔道士用のドレスを身につけて、キャラ付けだろうか、少し変わった口調で話す。
話の中でか弱い部分を見せる事はあれど、基本彼女は自信に満ち溢れ、仲間達共に過ごしていた。
――――私には、なれそうもないな。
物語を読みおえて、絵本をしまうと、横になり目を瞑る。
そしてそのまま睡魔に身を任せ眠りにつく。
夢は、何も見なかった。
それから、二、三日はいつも通りの日常だった。
魔法の修行や研究に没頭し、1人で過ごす。
人が訪れても結界の内側には入ってこない。
強度をあげたから、1度この洞窟に訪れても、再び来るのは難しい。
だからこれで――――本当に独りだ。
呪いによって、人より長い時間過ごす事になるけれど、それでも呪いは不完全だったから、いつか終わる時が来る。
その時まで、私は――――。
『おーい! 森の魔女ー!! いたら返事をしてー!』
――また、か。
話が通じる、と思ったのは私の勘違い?
もう一度杖の一振でも浴びせようかとも考えたが、結界の効果により、洞窟には近寄れないようだったので、このままやり過ごそうか――。
『怒っていいからっ!』
そんな私に向かってたいきは叫ぶ。
『デコピンでも、杖でも、なんどでも叩いていいから、だからお願い! 俺の、俺の話を聞いて!』
姿は見えずとも、必死なのがわかった。
あんなに叩かれるのを嫌がっていた子が、相手の話を聞ける子が、自分が約束を破っているとわかっていて。
『頼む! お願いっ!――――話を、きいてくださいっ!』
何度も懇願して、使い慣れていないであろう敬語も使って頼み込んでいる。
『――――』
だからってそんなの関係ない――。
『――なんて、ね』
自分に嘘をつくのはやめよう。
心から、そう思っているわけじゃない。
あんなに必死になって、何を言いたいのか、気にならないわけが無い。
でも、何度も何度も会うのは、人と関わる事は、とても耐え難い。
常に心に壁をはって、耐えないと、生きてなど、いけない。
天才になれず、何も手にしなかった私が、今更他の生き方なんてできない。
『間に合う!』
その声は私を心の声を遮った。
『まだ、まだっ! まだ!!! 森の魔女! まだ間に合うから! まだ謝れるから!! あんたの言葉が届く人がいるから! だから、話を聞いて!!』
その言葉を聞いて、体が自然に動いた。
『たい、き』
『あっ、森の魔女出てきてくれたんだ! よかった!』
『さっきのはどうい――』
私が問いただすより前に、たいきはこちらに駆け寄り、腕を掴んできた。
『行こう!』
『えっ』
『はやく!!』
私の反応を待たずに、たいきは私を引っぱる。
『時間がないんだ! だから早くっ!』
困惑したままの私を、たいきはグイグイと森の外へ連れ出そうとする。
『まって――つぅ!』
たいきの力の強さに顔をしかめると、たいきはパッと手を離した。
そして勢いよく頭を下げてくれた。
私は別にいいと首を横に振り、落ち着くように促しながらも、どこに向かおうとしていたのか尋ねると。
『――――』
たいきはとある人物の名前を告げる。
『――――ぇ』
そしてその名前を聞いて絶句した。
たいきが呟いた名前は――――。
――かつての恋人の名前だったから――。




