三章【私の“英雄”】その6※スフィア視点
結果だけいえば、私の杞憂だった。
子供達が治療全般に莫大なお金がかかると思い込んで、自分たちで何とかしようとしていただけ。
なので、医者の所にもって行けば、後は普通に治療してくれるそうだ。
『『『よかった!』』』
と胸を撫で下ろす子供達を見て、人騒がせなと思いつつも、これ以上関わる事もない。
病院先で、喜んでいる子供の達前に現れた両親達が彼らを叱っているのは、当然の事。
彼らが危ない場所に行ったのだから、それぐらいの罰は受けてしかるべき。
無論、彼らが起こした行動は決して悪い事ではないけれど、それでもそれとこれとは別だ。
しっかり怒られて。
『……』
そして、自分たちの親が悲しむ姿を目に焼きつけるべきだ。
決して悪い事をしたわけではないけど、それでも子供達の行動は誰かが悲しむ可能性があった。
その事を何も無くしていない内に知っておく事は、とても大切な事。
『……ふぅ』
過去を振り返り、今更そんな資格はないと首を振る。
私は自分のために全て捨てた。
それはもう変えようのない事で、私が何か思うのは卑怯。
心の中で、そう呟いて、私はその場を去った。
『なぁ、なんで、何もいわずに帰ったんだ? みんなお礼を言いたいって行ってたのに』
『……』
翌日、もう会う事はない、そう思った内の一人が、満面な笑みを浮かべて挨拶をし、その後で頬を膨らませて怒りだした。
ちっとも怖くないな、小動物がじゃれついているみたい。
けれど、そんな事は今重要じゃないわね。
重要なのは。
『私が前に言った言葉、理解できていない?』
『わ、わかってる! もしかしたら危ない事なるかもしれないから、子供だけでくるな、だろ!? ちゃんとわかってるよっ。だから渡すモノ渡したらすぐにかえるから、だからその掲げた杖で、頭をたたかないでっ! それムッチャ痛いんだ!』
さっと頭を両腕で隠しつつ、涙目で訴える。
『……他の子達は?』
『レオとりかのこと? あいつらと一緒だと時間かかるから、俺だけで来たっ』
あいつらは、森の入り口でまってるっ! と元気に答える、だいきだったかな?
『本当なら、頭を一つでも叩いて、森の入り口に投げ捨てる所だけど、ちゃんと言っている事は理解出来ているみたいだから――』
これで、許してあげる、とデコピンした。
杖ほどないが、痛むのだろう、だいきは声をあげないまでも、額を抑える。
『うう、なんで俺ばっかりっ……』
『それは理由があっても、約束を破ったから。理由があるから、その理由分は差し引いても、全部チャラにしない。そうしないと、『理由があればどんなことをしても大丈夫』だって勘違いするでしょう?』
『……な、なるほど』
『……』
やはり、この子は相手の意見をきちんと耳を傾けられるのだな、と思った。
自分の主張を言うだけじゃない。
良い子だなと思う。
とはいえ、それだけ。
渡すモノ、というものを受け取ったら、今度こそこないように言い含めて、あと万が一来ても、見つからないよう結界の強度を上げておこう。
そんな事を考えていると、だいきは背負っていたリュックから中身を取り出した。
『……本と、何それ?』
『これ、俺たち三人で金を出して買ったクッキー!』
『……お礼ってこと?』
『そう!』
ニコニコと満面の笑みを浮かべて、本、これは絵本かな?
薄く、文字よりも絵の割合が多いし、パラパラとめくって、中身を確認すると、文章も子供にわかりやすい内容となっている。
『父さんや母さん、周りの大人達は『森の魔女は人と関わる事を避けている』って言って、会いにいこうとも、何かお礼を渡すのもめいわくだっていって、何をしようとしなかったけど、やっぱり何かして貰ったらおれいはいいたいからさっ。だから三人ではなしあって、俺達が三人で買えるもの持ってきたっ』
『なるほど……じゃあこの絵本は? りかっていう女の子から?』
『それ俺の!』
『えっ?』
『森の魔女って、凄い魔法使えて、頭もよくて、何でもできるけど、何かぼそぼそしゃべっているし、あと服もぼろぼろ、髪はぼさぼさでさ、もったいないなって思ったから。だからこの本にでてくるような、しゃべり方とか見た目に変えたら、もっとよくなると思ったんだ』
『……はぁ』
『どうしたんだ?』
ニコニコと話すだいきに悪気は一切ない。
それはわかってる。
わかってるけど、それは大きなお世話というヤツだった。
『だいき』
『うん?』
『私は今のままでいいの』
『今のままって?』
『見た目も、話し方も、今のままでいい』
『え~』
『たいきの言っている事は、誰かと一緒に場合の話。私は誰とも関わる気はないから』
『なんで?』
『……』
子供の、こういう所は困ったものだ。
何の意図もなく、純粋に思った事を口に出しているだけ。
なので、曖昧な言葉では納得せず、ハッキリした答えを求めている。
……仕方ない。
全てを話す必要はないけど、それでも何も言わずに追い返せば、またこの子はここにやってくるかもしれない。
約束を破るのは悪い事だと思っていても、叩かれるかもしれないと思っても、それでもここまでやってきたのだから。
だから、私はほんの少しだけ、自分の事を語る事にした。
『昔私は、自分のためにね、大切な人達を傷つけた』
『えっ?』
『君が生まれるずーと前、私は自分が欲しいモノのために、周りなんかどうでもいいって、そんな態度をとり続けた、最初は声をかけてくれたし、心配もしてくれた。そんな人達に『うるさい、私に構わないで!』って言って傷つけた』
『……』
『傷ついて、それでも話しかけてくれたんだけど、私は欲しいものが欲しくて仕方なかったから、だからその時の私は大切な人が嫌になって、一人でいようとして、傷つけたまま、放っておいたの』
『……』
『そして、私が長い時間そうしていたら――みんな寿命で死んでしまった』
『――っ』
『大好きだった。大切だった。けど、私は自分の我が儘で、傷つけて、遠ざけて、放っておいて、そのまま謝る事も出来ないまま、本当に、一人になってしまった』
この年の子に、重い話をするのは多少気が引けるものの、後腐れ無く別れるため、私は話し続けた。
『だから、これは罰なの。自分の事ばかり考えて行動していたことへの。さっきいったでしょ、悪い事をしたり、約束をやぶったりしたら――ねっ』
たいきに近寄って、頭を撫でる。
『私は一人でいい。ううん一人でいなくちゃいけない。だって今更謝る事もできないから――――話は、おわり。あなたもここに来るのは最後にしてね?』
『――っ』
納得はしていないだろう。
でも、相手の言葉に耳を傾けられるから、こちらが来ないでと言った事を、きっとこの子は無下にはしない。
そう思って帰るように促すと、当初の元気は消え失せ、とぼとぼと洞窟から去っていく。
『……』
私は、たいきに悟られないように、監視用の使い魔を飛ばし、彼と、森の入口で待っている2人の子供の無事を確認。
確認終われば、後はもうすることは無い。
3人の子供達のことを考えるのをやめ、魔法の研究に没頭するのだった。




