三章【私の“英雄”】その5※スフィア視点
――その日。
人を避けるように住みだした森に三人の子供が訪れた。
国を抜け出し、近場の森であるこの場所を遊び場にしようと考えたのだろう。
投映の魔法が組み込まれている水晶で三人の子供を見る。
一人は勝気な瞳をした男の子。
二人目は明るく、ハキハキした女の子。
三人目はおどおどしながらも、優しさを含んだ瞳をもつ男の子。
そんな子供達が表れても、私が今居る洞窟は、人除けの結界を張ってあるので、その間は引きこもっていれば大丈夫か、と無視を決め込むことにした。
そんな傍ら水晶から三人の子供の話を聞いていると、どうやら森の深部に足を踏み入れようとしているらしい。
不味いなと、思った。
深部に行けばいくほど、凶暴な魔獣が出現する。
並みの大人でも手出しできない存在に、子供などただ食われるのがオチ。
そう思って、ため息をついて、外にでたんだ。
全てをあきらめて、どうでもよくなっても、さすがに子供が犠牲になるのは気分がよくないと思ったから。
『――すげぇ、炎も雷も、全部あんたの魔法!?』
運よくなのか、それとも悪いのか。
子供たちの元へ向かえば、数体の魔獣が子供達の前に現れている所だった。
子供のうち、二人は腰が抜けてしまったのだろう。
体を震わせて、涙を浮かべて、その場に座り込んいた。
後の一人は、勇敢なのか無謀なのか、森の中で拾ったであろう棒を構えて立っていた。
体は震えていた、涙もあふれていた。
それでも二人前に立ち、懸命に守ろうとするのは、大したもの。
そう思いつつ、魔法の身体強化を使って素早く子供たちの前に立ち、魔獣が行動を起こす前に炎の魔法をぶつける。
唐突な事態に魔獣は無防備で、数体を仕留めたモノの、それでも一体生き残った。
それを確認すると、今度は雷魔法を打ち込む。
稲光と轟音をまき散らしながら打ち込んだ魔法でトドメを刺された魔獣は息絶えた。
『――ふぅ』
それを見届けた私は即座に振り返った時に言われたのが先ほどのセリフだ。
私を見て、肩を震わせる二人の子供と、そして目を輝かせて見上げるもう一人の子供。
そんな彼らに何を口にしようとした所で、先ほどの言葉をぶつけられたので、とりあえず頷く事に。
『あんなの混沌の魔動騎士団以外で、初めてみた!』
ぴょんぴょんと跳ね回りながら、驚きと喜びを表現している所で、とりあえず、持っていた杖で頭を叩いておく。
『あで!―――つぅ!!』
涙を浮かべながら、頭を抱え込む子に。
『危ない所に、子供だけでいった罰』
『『……』』
『大丈夫、君たち二人にはやらないから』
『ひでぇ! さべつだ! おうぼうだぁ!』
『……』
『な、ナンデモアリマセン』
『――よろしい』
もう一度杖を掲げると、ピタリと動かなくなり、静かになったところで。
『とりあえず、危ない所には近づかないこと。一応森の入り口周辺は凶暴な魔獣がよりつかないけど、それでも危ない事に変わりないから、ね』
森の入り口までは一緒についていってあげるから、このまま帰りなさい。
『『『・・・・・・』』』
そういうと、三人の子供は黙りこんでしまった。
何かいけない事をいっただろうか?
そんな風に考えていると「いやだ!」と又元気な子が声を上げる。
『……』
『ぼ、暴力にはくっしないからな!』
杖を振り上げると、頭を両腕でガードしつつ、並みながらに訴える。
後ろの二人も、首を横にふって、私の言い分を拒否しているのがわかる。
『何か、事情があるの?』
『『『……』』』
こんなにタイプの違う子達が、危ない目にあって、尚何も言わないのはそうなのだろうと尋ねれば、又無言。
けど、その態度で肯定しているようなもの。
そう思った私は仕方ないとため息をついた後に言った。
『私はこの森で住んで長いから、欲しいモノがあるなら言ってみなさい』
本当なら関わりたくないが、それをするとこの子たちはまた同じことを繰り返すだろうと試しに言ってみると、三人は顔を見合わせて小声で話し始めた。
少しの間待っていると、三人の中でおとなしそうに見える男の子がおずおずといった感じに言った。
『あの、僕たち○○草を採りにきたんです』
○○草。
それはどんな難病にも効くとされていて、実際に特定の病気に使われているものだ。
『なるほど、ね。あなた達はそれがどうして必要なの? 誰か知り合いでも病気になった?』
『僕のお母さんが、その病気で。直すのにその薬草が必要で、でもその薬草ってとても高いんです』
そこまで言ったところで、おとなしい子は俯いて、二人の子供が声をかけて励ます。
その姿に現在状況を理解すると
『それなら私に所にあるからあげる』
『『『えっ?』』』
『だから、あげる。どんな病気かも想像がつくから、必要な量を渡してあげるわ』
『でも、お金が……』
『いいわよ、別に必要としてないし。どちらかと言えば、あなた達がこの森で危ない目に合う方が迷惑だし』
なので、早くここから移動しましょうとパチンと指を鳴らす。
その合図に合わせ、ポケットに入れていた布が飛び出し巨大化すると三人の子供達前で静止し、それに乗りなさいと促す。
三人がそれぞれ乗ったのを見計らい、自身の杖にのって魔法を発現。
私たちは宙に浮かび、移動を始めた。
速度を出して、一気に洞窟まで行くこともできるが、三人の子供の事を考え高さと速度を調整。
『一応いっておくけど、今飛び出したりしたら危ないからね、特にそこの子』
念のため、釘をさしておくと『なんで俺だけっ!?』と騒ぐが、当然の判断だと思っている。
なので、ハイハイと軽く返事をすると、「なっとくがいかない」とブツブツ文句を言い、残りの二人がそれを宥めていた。
仲がいいのね、とそんな事を思う。
今誰とも繋がりのない私は、「関係ないか」と心の中で呟いて、目的地を目指すことに。
飛んで移動したため、モノの数分で洞窟にたどりつき、子供たちが地面へと着地するのを見計らって、布を元のサイズに戻し回収。
そのあとは、入り口で子供達で待たせ、目当ての薬草を見繕うと、入り口まで戻って、子供の一人に渡す。
『あ、ありがとうございます』
『いいのよ、さっきも言ったように、私にとってはあなた達が森の中で危険な目にあうと気分よくないし、それに、その薬草が必要なら又採りにいけばいいしね』
『……』
私の言葉を受けた後で、もう一度ぺこりと頭を下げる大人しい子。それを見た二人も『ありがとうございましたっ』と元気よく頭を下げた。
女の子の方はともかく、元気な子にも頭を下げられたのは意外。
こういう事には、きちんと頭を下げられるの子なのね。
――そうは思っても、これ以上付き合う義理はない。
『さぁそれ持って帰りなさい』
と追い出すために声をかけると『そうだな!』と元気な子が声を上げた。
『早く行って、レオのお母さんに飲ませないと! ってこれ、どうすればいいんだ。そのまま飲ませばいいのか?』
『さすがにそれは違うと思うよたいき、薬っていうだから細かくする必要があるとおもう』
『そうそう、わたしがおくすり飲むときはいつも粉か液体だもん、これじゃ飲めないよたいき』
子供達の言葉に、不安がよぎる。
そんな私をよそに会話は続いてく。
『俺だってそんなことわかってるよ、りかもレオも馬鹿にすんなっ。ただ高いっていうから、特別な飲み方があると思ったんだ!』
『それはわかるけど、でもそのままはないと思う。帰ってから調べてみよう』
『そうだねレオっ。お薬の作りかたってお家にはないから、本がいっぱいある所にいこう』
関係ない、関係ない、関係ない。
何度も頭で繰り替えしながら、それでも耳に入ってい来る話を整理すると、この子達は自分で薬を調合しようとしている? そんな馬鹿な。
確かにこの薬草自体の料金は高い。それはわかってる。
けど、薬草が揃っていて、それでも薬は作らないという国ではなかったはず。
少なくとも、私が居た頃にはそんな場所ではなかった。
だから、きっとこの子達が何か勘違いしているに違いない。
そう思っても、私がいない間に何かが変わっていたら?
薬を作るのにも莫大なお金がかかって、レオという子の母親が助からなかったら?
関係ない、と呟こうとして、諦めた。
素直に、目覚めが悪いと思った。
全てを諦めて、魔法に修行に没頭していても、子供たちが懸命に動いている姿をみたら、さすがにクルものがある。
そう思って、私は子供たちに声をかけ、そして。
「ねぇ、あなた達――」
久しぶりに、森の外へ出る事にした。




