三章【私の“英雄”】その1
「やあ、大樹すまないね」
部屋に入り、部屋に置かれた椅子をベッド近くまで持って行き、その椅子に腰掛ける。
そこでベッドで橫になっているスフィアは俺に微笑んだ。
「先ほども口にしたが、薬の効果が切れるタイミングを予想以上に早く、判断を誤った。そのせいで、君や他の人間にも迷惑をかけてしまった。申し訳ない」
「そんな事はいい。みんな心配はしても、迷惑をかけられたなんて思ってないだろうし。そしてこんな状況だから、みんなにも知れ渡ったけど、本来なら謝るのは俺の方だ」
「……ああ、この身体の事を、レオに話した事かい? 別にいいさ。君は他人の秘密を触れ回るような男ではないが、かといって、他人の命が関係した時どうするか……考えればわかる事だった。もし口外を避けるなら、君の行動を予期し、行動を起こすべきだったというだけだからね」
「……」
「そんな顔をしないでくれ。別に君の言う事を悪くいうつもりは――」
苦笑するスフィアに、俺は一言分かってると口にした。
「お前は、注意する事はあっても、俺を悪く言うこともなかったし、それに怒らないんだろうな、とは思ってた。けどな……どんな理由があるにせよ「黙っていたかった」という気持があるのなら、それを踏みにじった俺に責任がないなんて、そんな事は言いたくない」
「……」
「だから、俺が悪かった」
そういって頭を下げると、少し目を丸くした後で微苦笑し「わかった」と頷いた。
「ここは素直に謝罪を受け取っておくとしよう……」
「助かる」
「ふふ、謝罪している人間に感謝されるなんて思わなかったよ。まぁ君らしいと言えば君らしいけれど」
そうやって微笑む姿は、いつもより元気がなくて、少し儚げに見えた。
「最近そんな事ばっか言われる」
「ふふ、だろうね」
「……」
スフィアの体力と、どす黒く変色された身体さえなければ、いつも通りの会話。
けれど、それがあるからこそ、いつも通りなどと言えず、俺は何を口にしていいのか、わからなくなった。
そんな時に。
「大樹」
「ああ、なんだ?」
「君が一度出ていく前に、私は君に話したい事があると言っていたのを覚えているかな?」
「覚えてる」
「それを話そうと思うんだが、聞いてくれるかい?」
その時、少し躊躇いがちに目を伏せるスフィアを見て「勿論だ」と答えて見せる。
「今更話を聞かないなんて、そんな事は言わないさ」
「わかってる……けど、今から話す事は……自分が“愚か者”だった昔の話だからね……気にするなというのは難しい……君みたいに私を“天才”だと思っている人間には特に」
その姿はいつもの余裕からは存在できないほど、弱々しい声だった。
「けれど、君は……君とレオは私のこの身体を治そうとしている。だからこそ、言わないといけないんだ」
「スフィア、それは一体どういう――」
何を告げられるのかわからない俺は、戸惑った。
「よく聞いてくれ。私のこの身体は、厳密には病気ではなく“呪い”によるもので、そして――」
一度言葉を切り、俺をじっと見つめた後でスフィアは言った。
「――その呪いをかけたのは、私自身なんだ」
俺はその言葉の意味を、まるで理解できなかった。
病気ではなく、呪い。
しかもかけたのは、他の誰かではなく、スフィア自身。
一体こいつは何を?
俺の考えをスフィアは読んだのだろう。
「最初から、話すよ」
そう口にして、語り始めたのだった
俺が生まれる前、一体何が起こったのか。




