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二章【顔を上げて、声を聞いて】その5

 

 あれから、レオと利香と一緒にギルドへ駆けつけると、ギルドに用意されている簡易用の宿泊室の一室に、スフィアはいた。


 誰かがスフィアをそこまで運んでいたようで、スフィアは今、そこに横になっている。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 呼吸はあらく、汗を全身にかき、苦悶の表情を浮かべて。


 いつかの時のように、身体の居たる所をどす黒く変色させていた。


「……」


 その様子を真剣な表情でレオは見つめ声をかける。


 スフィアは視線をレオに向け口を開くが声が出ないようだった。


「無理に声は出さないで。 僕は大樹に聞いて、あなたのその状態については知っています。なので、率直に伺いますが、例の薬は持っていますか?」


 レオがそう言うと、スフィアは視線でベッドに脇にかけられていた、自身が持ち歩いている鞄をみた。


 その仕草を見たレオは「失礼します」と声をかけたあとで、鞄の中を物色し、例の薬をとりだすと、蓋を開けて、薬を飲ませた。


「……すま、ない、ね」


「喋らないでください。薬を飲んだとはいえ、すぐに効力を発揮するものではない、と大樹に聞いています。なので今はゆっくりと睡眠を――――」


「そう、もいかない、のさ」


 弱々しい笑みを浮かべながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐスフィア。


「薬の効果の切れるスピードが……予想以上に、はやくなっている……レオ、私の鞄から赤色の液体が入っている……小瓶がある、はずだ。すまないが……それも、とってもらってもいいかな?」


「……その薬は」


「君の……言いたい事はなんとなくわかるよ……ただ今はどうしても、それが必要なんだ……」


「……わかりました」


 何の薬かはわからないが、レオはその薬をだすのを渋っているようだった。


 しかし、スフィアの言葉に逆らうことはせず、スフィアの鞄から赤い薬を取り出すと同じようにのませる。


「ありがとう……身体を動かすのはままならないが、気分がよくなったし、普通に喋られるようになった」


「あまり、医者としてはお勧めできない薬でしたが……いえ、それより身体を診させていただいても?」


「構わない。ただ一つ君にお願いしたい事がある」


「何でしょうか?」


「この後、大樹と二人っきりにしてほしい。彼に話しておきたい事がある」


「それは……」


「……」


 レオの言葉に答えず、じっと見つめるスフィア。


 そんな態度のスフィアをみて、レオは黙って頷き「二人とも」と俺と利香に声をかけた。


「これから、スフィアさんの身体を診るから、その間二人にはここから出て行ってほしい」


 医者としてのレオの言葉に、反対する理由もなく。部屋からでる俺達。


 外にはスフィアの事を心配するギルドメンバーで溢れており、「スフィア姉さんの調子は?」「大丈夫なのか?」などの口々に声を上げる。


「今スフィアさんが持っていた薬を飲んで、大分症状が落ち着いたけど、詳しくはレオがみてるとこっ。みんな心配なのはわかるけど、ここで大勢でいても迷惑だから、離れようっ。大丈夫、レオはギルドでいつもみんなお世話になってるぐらいだから、ちゃーんとスフィアさんの事治してくれるってっ」


 そう言って、「さあ行った行った~」とギルドメンバー達を促すと、ゆっくりとみんなその場から離れていく。


「……ねぇ大樹?」


 誰も居なくなった後、利香が振り向いて俺に尋ねる。


「大樹はさ、スフィアさんの病気知ってた?」


「……」


 すぐに答えることはできなかったが、俺の様子から察したのだろう「そっか、知ってたのか」と呟く。


「だから大樹はスフィアさんの傍にいたんだね」


「……」


「黙っていたのは、スフィアさんが周りに秘密にしていたから、かな?」


「……」


 何も、答えられない。


 そんな俺に、「やっぱり大樹は大樹だよね」と零す。


「昔からそうだった。困っている人は見捨てられなかったし、人の秘密にしている事を、周りに話すような人間じゃなかった」


「俺は――」


「責めているんじゃなくて、大樹らしいってそう思ったの」


 苦笑して言った。


「だからそんな風に、大樹が自分らしさを出していくのが嬉しかったけど、でもスフィアさんが病気だったって事はショックで……ごめん自分でも何を言いたいのかわからないや」


 首を振って、落ち着きを取り戻そうとしていた。


「……ねぇ大樹」


「……何だ?」


「スフィアさん、治るといいね」


 噛みしめるようにして言った言葉に、心から同意して「そうだな」と返す。


 そんな時に。


「大樹利香、終わったよ」


 扉から、レオが出てきた。


「レオ! スフィアさんは大丈夫なの!?」


 みんなに安心させるために、明るく振る舞っていたが、実際は心配でたまらなかったのだろう。


 利香は大急ぎで詰め寄る。


「ごめん利香、今はまだ確実に大丈夫だと言えるような状況じゃないんだ」


 申し訳なさそうに目を伏せる。


「でも、まだあきらめた訳じゃない。全力を尽くすよ」


「……うん」


「それで大樹」


 レオはこちらに顔を向ける。


「僕は僕のやれることを全力でやる。その間スフィアさんと話をしてあげてほしい」


「……わかった」


 本当なら、俺に出来る事はないか、と。言いたい所だけど。


 やれることが何も思いつかないから、その言葉に頷くしかない。


「そんな顔をしないでくれ……今君がやるべき事は、スフィアさんの心を救ってあげる事だ」


「それはどういう――――」


「それぞれが、それぞれのやれることをやって、彼女を救うって事さ」


『俺とお前が、それぞれのやり方で人を救うんだ。そうすればどっちが上かなんて関係ないだろっ』


「あ……」


 嘗ての自分の言葉が頭に響く。


「わかってくれたようだね。じゃあ僕はこれから色々な所を回ろうと思うんだけど……利香、君にもついてきてほしい」


「わ、わたし?」


「うん、ちょっとした調べ物だったり、道具を揃えたりで、一人じゃ手が足りなくてね……」


 苦笑するレオに利香は満面の笑みを浮かべる。


「もちろんっ。私がんばるっ」


「ありがとう」


 そういうと、レオと利香はその場からいなくなった。


 一人残され目の前にはスフィアがいる扉の前に立ち尽くしていた。


「……」


 腕を伸ばし、扉に手をかける。


 俺に何ができるか、そんな事は何一つとしてわからないままだけれど。


「……」


 それでも、やれることあるなら、やってみせたい。


 俺はそう決意し。


 ゆっくりと扉を開けた。



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