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第91話 結衣の未来

同じ時を経たところで一方の大島結衣は…アイドルを卒業してすぐに女優として再デビューし、一年目でもう帝国劇場の舞台で主演を勝ち取るほどになった。


天才子役は今もなお健在で、百年に一人の女優とも評された彼女は今のままで満足せず日々向上を続けている。


そんな結衣は大手芸能事務所のタナベエンターテイメントに所属した。


今の結衣は、さいたまスーパーアリーナで行われるあるミュージカルで主演をすることになり、その稽古中だった。


「ようやく現れたようだな。そろそろこちらから出迎えようとしていたところだ。なぜ人は夢を見続けるのか?夢など見て何になると言うのか?我を崇拝すれば夢など見る必要もなく幸せになれるというのに。その夢見る想いとやらを我に示してみよ!」


「大魔王インキュベータ…!お前の好きになんかさせないぞ!人は夢を見るから心が向上するんだ!お前なんかに…人々の夢を奪わせやしない!みんな、いくぞ!」


「うん!」


「この命が~果てるまで~♪悔いのないように~♪」


「死を覚悟して~立ち向かえ~♪夢の勇者たちよ~♪」


「はいOK!うん、こんなところかな?大島さんもだいぶ主人公の勇者の気持ちに慣れてきたかな?立ち回りもお客さんだけでなくキャラの事も意識しているのが伝わるよ!」


「ありがとうございます!」


「お?いつもはまだまだ…って追い込むのに今日は珍しいね?もしかして少し追い込みすぎたって自覚した?」


「それもあるかもしれません。やはり万全な状態じゃないとベストな芝居なんて出来ませんから」


「健康管理でもストイックだなぁ…。俺たちも見習わないと」


結衣は共演者の人たちと和気あいあいと会話が弾む。


ここにいる俳優さんたちは本業の先輩たちだけでなく、勇者役のオーディションでは一般人も参加するほどだった。


サラリーマンや小学生、主婦などもいた中で結衣は女勇者として選ばれ、いかにこの「モンスタークエスト」というゲームが人気だったかが(うかが)えた。


それに結衣は戦闘の経験も豊富で、戦った時は剣ではなかったが立ち回りなどは完璧だった。


僧侶役の風間祐介、戦士役の剛力武、魔法使い役の石田未来は結衣の芝居への熱心さに心を打たれた人たちで、自分も負けてられないとオーディションを合格してきた。


とくに風間祐介はアルコバレーノのサポートもしてきたので、結衣の戦闘での活躍も耳にしている程度だが、知っていたからかライバル意識が強いようだ。


そしてついに月日は流れ……本番の時が来た。


「さぁここからが本番だ!みんな、しまっていこー!」


「おー!」


風間祐介の掛け声で気合いを入れ、それぞれの待機場所でスタンバイする。


最初は女神さまが勇者のユイに話しかけるところで、モンスタークエストの第三部のプロローグを再現する。


「ユイ……ユイ……。私の声が聴こえますか……?私はあなたの心に話しかけているのです……。まずあなたがどのような性格なのかを当ててみせましょう……」


最初の女神さまの質問に答える結衣は正直に自分自身の性格と心理を話し、女神さまにストイックで向上心が強い努力家だと指摘された。


後にベッドから目覚めて父親の仇である魔王バラガスを討伐してほしいと王様に依頼される。


そこで戦士のゴードンを派遣して出会いの酒場で魔法使いのサリーと僧侶のフラスコと出会う。


旅の途中で魔物と戦うシーンは結衣の手慣れた動きで観客は「おおーっ…!」と興奮していた。


「ここはロマーニャ城です。ゆっくりしていってくださいね」


「ここは闘技場もあるんだなぁ」


「そうですね。魔物同志を戦わせるんでしたね」


「ねぇねぇ!ここのパスタ美味しいよ!」


「ちょっとサリー、そんな急がなくいても逃げないわよ?」


「ユイー!はやくはやくー!」


「本当にあの子は魔法使いなのでしょうか?」


「嬢ちゃんもあのじゃじゃ馬には苦労するよな」


「ええ…。でもあの子は何事も楽しんでいける。それが私には羨ましいなって。私はお父さんの仇の事しか考えてないから…」


「何を言ってるんだよ。俺たちがついてるじゃねぇか。嬢ちゃんには嬢ちゃんの事情があるのは俺もよく知ってる。お前のお父さんにはお世話になったからな。失ったのはお前だけじゃないんだ。俺もまた…大事な師匠を失っちまったのさ」


「そうなんですね。僕もユイさんのお父さんには何度も助けられましたし、きっとサリーさんもあなたのお父さんが魔王バラガスによって殺されたことにショックを受けていると思います。あの子にとって魔法を教えてくれた先生はあの人しかいませんからね」


「そうでしたか…。皆さんも父の事を知ってるんですね。なのにゴードンさんは強く、フラスコさんは恩を感じ、サリーは元気に振る舞っているんですね。だったらこのみんなで魔王バラガスを倒そう!」


「そうこなくっちゃな!」


「はい!」


「ユイー!こっちこっちー!ロマーニャの王さまが助けてほしい事があるってー!」


「今行くよー!」


結衣の芝居に観客も夢を感じ、魔王バラガスを倒してほしいと願う子どもたちの眼差しが見えた結衣は、アドリブでジッと見ている子どもを想定して優しく微笑んだ。


その事に気付いた子どもの観客は嬉しそうにキャッキャと笑い、結衣はその笑顔に癒された。


物語の後半には魔王バラガスのさらに上である大魔王ボーマが現れるところで、観客のリアクションは「まだ上の魔王がいるんだ…」とざわついた。


最後の歌のシーンでアイドル時代に鍛え抜いた歌唱力で観客を感動の渦に巻き込み、ミューズナイツはまだここにいたんだと思わせた。


「ミュージカル・モンスタークエスト みんなの物語」は無事に千秋楽を終えて成功し、結衣は主人公を演じきったと満足げだった。


「大島さん。君の芝居は本当に惹きこまれるよ」


「ありがとうございます。風間さんは黒田純子社長とは順調ですか?」


「うん。子どもも大きく成長したし、僕も俳優として、父としていい手本にならないとね。たまには桃井さんと一緒にご飯でも食べておいで」


「はい。機会があれば誘ってみます」


「結衣先輩、お疲れ様です」


「ええ、お疲れ様。あなたはあまり前に出るタイプじゃないからサリーを演じるのは大変だったでしょう?」


「いえ、違う自分になれてすごく楽しかったです。女優になろうと思ったのは結衣先輩がまだ子役だった頃にドラマを見て、それに感動して芝居の仕事がしたいって思ったんです。たくさんの劇団のオーディション受けたんですが…結局どこもダメだったので諦めようと思った時に、今のマネージャーさんがスカウトしてくださったんです。本当に…共演してくださってありがとうございます」


「いいのよ。私に憧れてくれてありがとう」


「大島さん、よかったらこの四人パーティの役者同士で外食でもしようや。なぁに、俺が寿司でも驕るよ」


「ありがとうございます!」


剛力さんの奢りで寿司を食べた結衣は事務所のマネージャーに報告すべく事務所に電話をかけた。


そして日課のスポーツクラブのジムでトレーニングをして今晩も鍛え抜く。


トレーニングを終えてシャワーを浴び、着替えて後にすると一通のメッセージが届いた。


「こんな時に匿名からメッセージなんて珍しいわね。どれどれ…久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。って…加奈子先輩?どうして今になって…?とりあえずスケジュール確認の電話しなきゃ…!」


結衣はそのメッセージを見て慌てて事務所に連絡をする。


秋山加奈子が急に連絡をくれたことに詐欺じゃないかと一瞬疑ったが、過去十年の履歴を見てみると連絡しないだろうと消してあった加奈子の連絡先そのものだった。


その事を知った結衣は嬉しい反面、何で急に集まってほしいなんて言ったのか不思議だった。


もしかしてミューズナイツで同窓会でもするのか…そう思う結衣であった。


つづく!

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