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第67話 狙撃手エラトー

エマはベッドの中に入り、ルーティーンのイギリスの英雄への祈りを捧げてから眠りにつく。


同時に日本の英雄たちへの祈りも捧げ、日本とイギリスを思いやりながら眠りについた。


夢の世界に入るとそこは広い草原で、後ろには大きな湖があった。


その湖は底が見えるほど透き通っていて、エマは泳ぎたいと思った。


同時に飲んだらどんな味がするのかと好奇心が湧き、その水を口にする。


「Uh…delicious!こんな美味しい水ははじめてデス!こんなの毎日飲めるなら目覚めるのが惜しいデスネー!」


「そうですか。あなたにはこの湖が美しく見えるのですね」


「What…?」


湖が美しく見える…こんなに美しい水があるのに声をかけた女性に、何を言っているんだとエマは疑問を持った。


その女性は凛としつつも礼儀正しそうで、まるで英国淑女だと母国を思い出した。


少しだけ懐かしい気持ちになりつつも、さっきの発言が気になったエマは質問を返す。


「こんなに美しい水の湖が汚く見えマスか?」


「いいえ。私にも美しく見えますよ。ただここは心が穢れ、堕落した者には薄汚く見えて、飲むには毒だと思わせるのです。きっとあなたの心が美しく向上心のある人だから飲めるほど美しく見えるのです。そしてその水を飲んだ者は潜在能力が引き出されるといいます。逆に穢れたまま飲むと胸が痛くなり、時間が経てば自分の愚かさを反省すると言われています」


「そういえばエマの視力が少しだけ回復したような…」


「なるほど…私の時代からもう長い年月を経た様ですね。目を酷使するほど便利な世界になったのでしょう」


「どうしてそれを知っているのデスカ…?」


「どうしてですか…。それは私はもうこの世にいない人間だからですね。だからこの世を見守っているのですよ。私はエラトー、よろしくね」


「エラトー…アナタが初代ミューズナイツの…!」


「ミューズナイツ…懐かしい名前ですね。そうです、私はかつてそう呼ばれていました。ミューズナイツを知っているという事はあなたは後継者ですね。でしたら話が早いでしょう。あなたは夢が叶わなかったときに苛立ったり激しく感情を暴走させますか?」


「え…?エマに限ってそんな事は…ないとは言えないデス…」


エマも実際に、かつてイギリスでガールズバンドとしてイギリス中を沸かせる最高のバンドになるという夢があった。


だがメンバーの離脱や資金難で、それが叶わなくなった。


その事を誰も責めなかった。


だけど本音は叶わなかった事へのメンバーや自分への怒りがあり、やろうと思えば堕落する事も簡単だった。


それでもエマやデビュー時に助けたアンナはやらなかった…それは何故かを自分に問い詰めてみた。


「エマは…昔はイギリスに住んでいて大切な仲間たちとガールズバンドをやっていマシタ。最初はスコットランドだけでなく、ウェールズやイングランドにも活動を広げ知名度も上がり、ついにメジャーデビュー目前までいきマシタ。でも…メインボーカルのエリザベスの家族に不幸があって、介護のために小学生なのにすることになって看板を失い、エマたちは自分も将来不幸があって続けられなくなるんじゃないかと不安がよぎりイップスになりマシタ…。でもエマは怒りという感情はありマシタ。神さまなんていない…神さまなんかエマたちを助けてくれない…そう嘆いて恨んだり苛立ちマシタ。でも恨んだところでエリザベスはもう戻ってこない。だったらエマだけでもデビューして後悔しないようにしようって決めマシタ。あえて苛立ちのエネルギーを憎しみではなく、成長に振り切って今のエマがいるのデス」


「なるほど…挫折への苛立ちを別のエネルギーに変えて、八つ当たりせず、そして堕落せずに這い上がってきたのですね。ですがほとんどの人間は苛立ちからか言い訳して責任逃れをしたり、誰かのせい環境のせいと何かを責めたりするんですよ」


「それはその人がその程度の夢と希望だったってことデス。本当に目指しているのなら、どんなに辛くても立ち向かうエネルギーに変えるのデス。怒りや苛立ちを誰かに…何かに当たるなんて見当違いもいいとこデス。エマには何かのせいにする暇なんてありまセンから…」


「なるほど…それがあなたの苛立ちのコントロールですね。返答に感謝します。あなたの考えは素晴らしくその通りだと思います。堕落した人からは綺麗事とか暑苦しいと思うでしょうが、その程度の気持ちで夢を追ったり語ったりするなという事でしょう。そう捉えておきましょう」


「Yes…堕落するほどエマは甘くないデス」


「エマさんの夢への執着心はわかりました。でも悪夢の女帝ルシファーナはそんな向上心をも打ち砕く悪魔です。私に勝てないようでは口だけの騎士という事になりますよ?私に勝って口だけではないところを証明なさい」


「やっぱりタダでは認めてくれないようデスネ…。アナタの試練にチャレンジしマス!」


エマとエラトーはマスケット銃を上に構えながら行進し、お互い向かい合って撃つ準備をする。


先攻はエマで先手必勝と見たエマはすぐに装填してエラトーを目掛ける。


「いきマス!Fire!」


「甘いですね…」


「Why!?何故当たらないデスか!?」


「技術も度胸も視力も私より上ですが何故当たらないかわかりますか?焦りを見せるほどの心の弱さがあったからです。私なら外す前提で当たれば幸運と思って撃ちます!Fire!」


「Oups…!」


エマは自分が動揺していることを読まれOups、絶対に当たると思っていたが急に自信をなくし手元が震え、いざ外すとショックを隠せなかった。


その反面にエラトーは外したとしても次は当てればいいやと軽い気持ちで臨んだ分、無駄な力を入れずに済んだのだ。


エマはマスケットの射撃の腕に自信があったので外したことにショックだったが、英国史をいざ振り返ってみる。


「マスケット…そういえばマスケットは元々命中率よりも装填の早さと弓よりも手軽に遠距離攻撃が出来る上に訓練も楽だったような…。それが魔法によってカバーされて、いつの間にかエマは自分の腕を過信して驕ってしまったんデスネ…。自分の情けなさにイライラしマスが…嘆いても何も始まりまセン!こうなったら正面突破しマス!」


「命知らずですね!至近距離ほどマスケットはよく当たるんですよ!Fire!」


「No problem!跳べばいいだけの話デース!」


「そんな…!」


「これで一気に近づいたデス!やぁっ!」


「うぐっ…!」


「今デース!オーシャンバーン…アジタート!」


「きゃあぁぁっ…!」


エマの渾身の一発がエラトーに命中し、大きな渦巻きは消えていった。


エラトーは倒れ込んでしばらくは動かなかったけど、急に起き上がって元気になりエマは戦闘体勢に入る。


しかしエラトーはマスケットを置いてエマの肩をポンと叩いた。


「苛立ちをコントロールすれば上手く反省し、それを経験として活きる事が出来ます。同じ後悔でもステップアップ出来るきっかけを作るのと、ただ落ちていくだけのものがあります。あなたはまだ若いのですから怒りの矛先を間違えるかもしれませんが、その負のエネルギーをコントロールし、利用して正しい事に使いなさい。」


「Yes sir!」


「さぁもうお別れの時間です。今までのミューズナイツは私の試練を誰も突破できなかったのですが、あなたがはじめて突破してくれたおかげで悔いはもうありません。天に還ってあなたのご武運を祈っています」


「ミューズナイツの先輩であり夢の騎士という英霊に…敬礼!」


こうしてエマはエラトーと別れ目を覚まし心も体もパワーアップしていった。


つづく!

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