第13話 決意
第13話 決意
その日の夜、直人はなかなか寝つけなかった。
恒一はさっさと寝る準備を終えていた。
風呂に入り、歯を磨き、携帯を少し見て、電気を半分落とす。
「先寝るぞ」
「どうぞ」
直人はベッドの端に座ったまま答える。
「お前、夜になるとその言い方増えるな」
「便利だから」
「雑だな」
恒一は少し笑って、そのまま横になった。
しばらくすると、部屋の中は静かになった。
遠くで車の音がする。
風が建物の外を通っていく。
直人は窓のそばに移り、カーテンを少し開けた。
外は暗い。
「そういうもんだから」
澪の声を思い出した。
後継ぎ。
一人娘。
婿。
恒一。
それから。
「私も、落ち着く」
直人はカーテンを閉めた。
テーブルの前に座り、ペットボトルの水を飲む。
ぬるかった。
好きなんだな。
そう思った。
それだけだった。
澪が笑うと嬉しい。
黙っていても平気だった。
蔵の近くへ行けば、いるかもしれないと思う。
だから何度も行った。
現実を聞いても、それは変わらなかった。
好きだ。
言葉にすると、ずいぶん簡単だった。
名古屋に帰れば、大学がある。
澪は島に残る。
それが嫌だった。
一緒に行こう。
そう言えばいい。
直人は自分でも乱暴だと思った。
家業がある。
後継ぎだ。
一人娘だ。
自分は一週間、遊びに来ただけだ。
それでも、何も言わずに帰るのは嫌だった。
ベッドの方を見る。
恒一は寝ていた。
一定の呼吸だけが聞こえる。
直人はしばらくその姿を見た。
こいつは何も知らない。
たぶん。
澪のことも。
自分のことも。
社長が何を考えているのかも。
それでも、恒一は蔵にいる。
必要とされている。
直人は視線を戻した。
恒一と争いたいわけではない。
勝ち負けでもない。
ただ、澪に言う。
それだけだった。
いつ言うか。
どう言うか。
どこで言うか。
考え始める。
明日会えるだろうか。
二人になれるだろうか。
何と言えばいい。
一緒に行こう。
名古屋に行こう。
ここを出よう。
どれも少しずつ違う。
でも、言いたいことは同じだった。
自分と来てほしい。
直人は息を吐いた。
断られるかもしれない。
困らせるかもしれない。
それでも、言う。
言わなければ、そのまま名古屋へ帰ることになる。
それは嫌だった。
直人は時計を見た。
まだ、それほど遅くない。
今から会いに行くこともできる。
でも、やめた。
明日会って言う。
直人は立ち上がり、部屋の明かりを落とした。
ベッドに横になる。
一緒に行こう。
明日、そう言う。
直人は目を閉じた。




