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悪役令嬢転生物語  作者: だいふく


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24/25

23話 夏休み編①

ノアの誘いから数日後。

王都を離れ、王族が所有する別荘へ向かう馬車は、青空の下を軽やかに進んでいた。

窓の外には湖畔へ続く森の緑。木漏れ日がきらきらと揺れている。

(……とうとう来てしまいましたわね)

ミレイユ・アルノーは、静かに息を吐いた。

ノアの別荘。原作ゲームにおける夏休みイベントの聖地。

好感度爆上がりイベントが盛りだくさん=フラグ乱立区域

(落ち着きなさい、わたくし。今回は“フルメンバー”。それに原作と違い、無理やり付いてきたわけではなく誘われている。つまり私はアンリと攻略対象の好感度イベントの邪魔さえしなければ問題ないはずですわ......)

向かいにはアンリとセシリア。

隣ではルインが窓に張りついて「湖見えてきましたね!」と笑みを浮かべる。

別の馬車にはレオニードとクラウス。

そして——

「景色、気に入ったかい?」

穏やかな声が横から落ちてきた。

ミレイユは振り向く。

「ええ、とても素敵ですわ。さすが王族の別荘ですわね」

ノアは微笑む。

「君が楽しんでくれるなら、誘った甲斐があった」

(……君が?.....全員誘ってますわよね? )

ミレイユは特に深く考えず、にこりと返した。

「皆で楽しめると良いですわね!」

ノアは一瞬、ほんの少しだけ目を細めた。

その笑みは柔らかい。けれど、どこか独占欲を隠しているような、静かな色を含んでいた。

だが、ミレイユは気づかない。

(夏休みイベント……油断は禁物ですわ)

自分の生存戦略の方が重要だった。



別荘は湖畔に佇む白い建物だった。

大きなバルコニー、水面に映る青空。涼やかな風。

「す、凄いです.....これが王族の別荘......」

アンリが驚いた表情を隠せず呟く。

「この湖は、泳げるんでしょうか.....私の実家は大きな川が近くにあったので、とても懐かしい感じがします!」

「まだ到着したばかりだ、落ち着け」

クラウスが冷静に止める。

レオニードは両手を後ろで組みながら口笛を吹いている。

「ま、これでも俺らは王族だからね~。このくらいの別荘は所有してないと」

「気に入ったなら良かったよ」

ノアは淡々と答える。

ルインは目を輝かせていた。

「湖が本当に綺麗です……!」

セシリアも感嘆する。

「空気が澄んでいますわね」

(平和ですわ……)

ミレイユは心から思った。今のところイベントらしき気配はない。



荷物を部屋へ運び終えた後、自由時間になった。

ミレイユは湖畔へ向かう。水面に陽光が揺れていた。

「一人かい?」

また、あの落ち着いた声。振り返ると、ノアがいた。

「少し風に当たりたくて」

「そうか」

二人並んで湖を眺める。

静かな時間に波の音だけが響く。

(……どうして黙ってるんですの.....?)

ミレイユは警戒するがノアは特に踏み込まない。

「座学の成績、誇っていいと思うよ」

突然そんなことを言われる。

「...え?……あ、ありがとうございます」

「ミレイユはとても努力していたもんね」

(いえ……それはしましたけど.....下から数えたほうが早い順位でしたけどね....)

下手なことして追放されないために。生き残るために。

だがそんな事情を知らないノアは、ただ優しく見つめてくる。

「君はもっと自信を持っていい」

その言葉は静かで、真っ直ぐだった。

「自信を持ちすぎると赤点を取りますので」

冗談めかして返すとノアは小さく笑った。

「君らしいね」

風がふわりと吹く。

その拍子に、ミレイユの髪が揺れ、顔にかかる。

ノアが自然に手を伸ばし、そっと整えた。

距離が、近い。

(……近いですわね?)

だがミレイユは深く考えない。

「ありがとうございます。風、強いですね」

まるで何も起きていないかのような反応。

ノアの目が、わずかに細められる。

「本当に……」

「?」

「いや、なんでもない」

静かな空気が流れる——

「おーい!!」

レオニードの声が湖畔に響いた。

「二人で何してんの?湖デートだったり?」

「違いますわ!」

即答する。

(レオニード!?なんてこと言ってくれますの!変な勘違いが起きたら私の立場が危ぶまれるじゃありませんのぉ!!)

セシリアが形相を変えて走ってくる。

「デート!?ミレイユ様!私と!私としましょう!」

アンリとルインも続き、クラウスまで来る。

一瞬で“二人きり”は終了した。ノアは小さく息を吐く。

ほんの少しだけ名残惜しそうに。

だがすぐにいつもの穏やかな笑みに戻った。

「皆で散策しようか」

「はい!」

(さっきのノアはいつもと少し雰囲気が違った気が……いいえ、気のせいね。フラグが気になって少し神経質になりすぎてますわね.....少しは楽しみませんと)

ミレイユは何も気づいていない。だが——

ノアは歩き出すミレイユの背を静かに見つめていた。

夏は、まだ始まったばかりだと。

湖面がきらりと光る。次の波は、もうすぐそこまで来ているのだった。



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