21話 悪役令嬢、試験を乗り切る
数日後、ついにその日がやってきた。
王立魔法学園・前期末試験。教室には普段とは違う緊張が漂っていた。
机の上には試験用紙、インク。そして重苦しい沈黙。
(……来てしまいましたわ.....)
ミレイユは静かに息を吐く。前世でも何度も経験した光景。
(学生時代から思っていましたけれど...試験という制度、あまりにも残酷ではありませんこと?)
どれだけ努力しても、理解しても、一枚の紙で全てが決まる。
(理不尽極まりませんわ......)
――とはいえ、逃げられない。
「それでは始め」
教師の声、試験が始まった。
◆
最初の科目は魔法史。
(……)
ミレイユは問題用紙をめくり、そして固まった。
(問題文も文字が多いじゃないの....)
分かっていた、分かっていたが。実際に目にすると圧倒される。
(落ち着きなさい、ミレイユ・アルノー)
深呼吸し、思い出す。
アンリの説明、セシリアの補足、ルインの図、クラウスの理論、ノアの表現。
そして、カインの整理された解説。
(……大丈夫)
ゆっくりとペンを動かす。
「第三次属性均衡改革の背景を述べよ」
(これは……)
アンリの声が頭に浮かぶ。
“各属性の魔術師の権力争いが背景で――”
書ける、思い出せる。
(勉強会の成果ですわ……!)
◆
次は術式理論。ミレイユは問題を読む。
「魔力循環構造を説明せよ」
(来ましたわね)
例のやつだ。魔力がぐるぐるするやつ。
(……いや、違いますわ)
クラウスの声が脳内で響く。
“圧縮、循環、放出”
ノアの声も重なる。
“流れで考えた方がいいね”
そして自分が例えたものを思い出す。
“魔力は血液に近い”
ミレイユはペンを走らせる。
(これも……書けますわ……!)
◆
筆記試験が終了し、教室に束の間の安堵が広がる。
アンリが振り向いた。
「ミレイユ様!」
「……終わりましたわ」
セシリアも微笑む。
「手応えはいかがです?」
ミレイユは考え、そして正直に答えた。
「赤点は回避できたと思います!」
アンリがぱっと笑顔になる。
「すごいです!」
(笑顔が眩しい....目標が低いと思わないでくださいまし……)
波乱の筆記テストだったが、ミレイユにとっては大勝利だった。
◆
しかし、試験はまだ終わらない。次は魔法実技試験だ。
広い演習場に学生たちが集まっている。
教師が言った。
「順番に術式を展開してください」
やることは単純だが、簡単な試験ではない。
魔力の制御、威力、精度。これらを上手く調節し、総合的に判定される。
ミレイユは前に出る。
◆
(……筆記は疲れましたわ)
精神的に消耗し頭を使いすぎた。
(だからこそ)
ミレイユは微笑む。
(こちらは得意分野ですもの)
魔力を練り、流れを作る。体に馴染んだ感覚。
「炎属性基礎術式」
魔力が走り炎が生まれ、完璧な制御。
炎は大きすぎず、小さすぎず、揺らぎもない。
美しい火に教師が頷く。
遠くで見ていたクラウスも頷いたように見えた。
◆
続けて応用術式。
ミレイユは息を整える。
(筆記の鬱憤……ここで晴らしますわ)
炎を操り、そこに風を混ぜる。
炎が揺れる。踊るように。
不安定に見えるが、規則的に揺らいでおり、制御された魔力。
まるで料理の火加減のように絶妙な調整だ。周囲から小さなどよめきが起きた。
アンリとセシリアは目を輝かせ、ルインも拍手していた。
教師が言う。
「良い制御だ」
ミレイユは軽く一礼する。
(やはり魔法の方が気楽ですわね……)
頭で考えるより感覚で動く方がずっと楽だった。
◆
全試験終了。学生たちの顔は疲れ切っていた。
アンリが大きく伸びをする。
「終わりました……!」
セシリアも息を吐く。
「長い戦いでしたわ」
ルインは笑う。
「これで夏休みですね!」
その言葉に教室の空気が一気に変わる。
そう、夏休みが始まるのだ。
◆
夏休み。学生たちの顔が一斉に明るくなる。
旅行、帰省、研究、自由な時間。
アンリが嬉しそうに言う。
「皆さん、夏休みはどうされますか?」
セシリアは考える。
「私は避暑地に行く予定です」
ルインも頷く。
「私は実家ですね」
視線がミレイユに集まる。
「ミレイユ様は?」
ミレイユは少し考えた。
「そうですわね.....」
(たしか原作では……夏休みに大きなイベントがあったはず)
湖、合宿、魔物騒動、ダンジョン攻略イベント。
(フラグの宝庫ですわね……)
ミレイユは静かに天を仰ぐ。
イレギュラーはあれど、せっかく平和な日々が続いていたのに。
どうやら、まだ波乱は終わらないらしい。
(まあ....とりあえずは....)
小さく笑う。
「皆さん、試験お疲れ様でした」
夏の風が吹く王立魔法学園。
前期は終わり、物語は次の季節へ進もうとしていた。




