三十二話 僕たちは運命共同体
翌日のレッスン、気まずい雰囲気のメンバーとは裏腹に陽昇は落ち着いていた。そしてメンバーとは友達でありたいと願った。いよいよ始まる年越しミュージックフェスタ。天の幸運と自分たちの幸運を祈るばかりだった。
翌日もレッスンだった。メンバーが次々事務所に入る。秀が来て七人目。残るは陽昇だけとなった。流石の空気が読めない裕一もなんとなく場の雰囲気を察して黙り込んでいた。その時扉が開いた。皆目をそちらにやると、キャップを被った陽昇の姿があった。秀が立ち上がる。
「昨日は悪かった...」「いい」秀が言いかけたところで陽昇はその声を遮った。
「お前ごときに突っかかった僕が悪かった。気にせずレッスンに取り組むぞ」そう言って座り込んだ。
「しがらみは解けないと言ったよな。でも僕はそのしがらみを解きたい、お前らに心から近づきたいと思っている。お前らは僕の前に壁を作ってくれたっていい。僕は壁を打ち壊すしお前らに近づきたいと思う。覚悟しておけ、僕たちは運命共同体、言い換えれば仲間、友達だ」その言葉にメンバーの顔が明るくなる。
「陽昇!お前いいこと言うじゃんか!!景気付けにえいえいおーするか?」裕一も盛り上がって輪に入る。八人は手を重ね合わせ気合を入れた。まだ蛍光灯の下、わずかな光だけだが、この光はいずれ大きくなる。
「皆さん、おはようございます!揃ってますね!」そこに世奈が現れる。陽昇の顔をちらりと見て、世奈は安心しきった顔をした。
「さて、今日は年越しミュージックフェスタのレッスンを昨日できなかった分みっちりやりますよ〜!今日は百花繚乱と合同でレッスンするので着替えて移動です!」世奈の合図にメンバーは動き出した。
百花繚乱との合同レッスンが始まった。実はDreaming Maker+も百花繚乱も新曲の制作に取り掛かっている最中だった。観客の前で初披露し、のちにCDになる予定だ。まだ慣れていないメンバーも多く、レッスンは意外と難航した。
「一旦休憩です!」合図でメンバーは全員床に座り込んだ。
「疲れたね〜」「おー、疲れた疲れた」愛央と裕一は顔を見合わせ汗を拭いた。
「そういえば御影くん、天さんの病状は大丈夫?」愛央が遠くに座っていた陽昇に呼びかけた。
「ああ、今はそれほど心配しなくても良さそうだ。だが手術は成功率100%とは言えないらしい。ちなみに手術の日程も決まったらしい」話を聞いているメンバーが皆陽昇の方に注目する。
「年越しミュージックフェスタ当日だ」その答えにメンバーから驚きの声が上がった。
「マジかよ!?じゃあ陽昇は手術前に付き合ってあげられないのか?」
「そうなるな。でもあいつは立派な大人だから僕一人いなくたって大丈夫だろう。気にするな」陽昇は非常に落ち着いた様子で語るが、内心心臓の鼓動が早まっており、汗もたらりと頬を滑り落ちた。
それから約一ヶ月が経ち、いよいよ年越しミュージックフェスタ当日となった。雪がちらつく中、メンバーが集まった。
「皆さん、いよいよ本番ですね!練習の成果、しっかり発揮してください!」「練習は本番のように、本番は練習のように、を心がけて頑張ってください!」世奈と大地からの励ましの言葉にメンバーは頷いた。そんな中陽昇はポケットの中の携帯を気にしていた。しかし反応がないまま会場行きの車に乗り込んだ。
その頃病室の天は最後のバニラクッキーを頬張った。手術まで一時間を切った。携帯を開き一度は陽昇に連絡しようと思ったがやはりやめた。今の緊張状態の自分では陽昇に不安を与えてしまうと思ったのだ。陽昇がいなくて、怖くて仕方ないのだ。早まる鼓動を服越しに感じた。陽昇の幸運と、自分の幸運を祈り目を閉じた。しばらくすると看護婦に呼ばれ立ち上がった。




