三十一話 塗り替えて欲しい
陽昇は自分の生い立ちを淡々と語る。やはり皆自分のことを御影としてしか見ていない、陽昇を見てくれないという事実に思わず部屋を飛び出す。病室に見舞いに行くと、天が陽昇に話をする。
「...は?嘘だろ?」秀は陽昇の口から放たれた事実に耳を疑った。
「本当さ、僕はあいつとは血が繋がっていないのさ」陽昇ははっきりと言い切る。
「じゃあなぜ僕が御影陽昇を名乗っているのかといえば、それは僕が生まれたばかりの頃」陽昇は昔を思い出しながら話を始める。
「僕は生後間もない頃とある施設の前に捨てられたらしい。そう。捨て子なんだ。記憶は全くないが」淡々と述べられる事実にメンバーは皆信じられないという顔をした。
「そんな僕を拾ってくれたのが御影家。その頃は天は5歳くらい。僕は陽昇という名をもらった。暗い夜を乗り越え陽が昇り、皆を照らし出せるように育って欲しいと願いを込められた」秀はただ頷くことしかできなかった。
「僕は物心ついた頃に兄と一緒にダンスとか、歌とか、レッスンを始めた。その頃から差は顕著だった。本当に同じ兄弟なの?と言われることも多々あったし自分でも血が繋がっていないんじゃないかって思ってた。そしてその事実を知ったのは小学五年生の時。天がDreaming Makerとしてデビューした時。親から告げられたのは自分が捨て子で拾われた、つまり本当の兄弟じゃないってことだ。その時はもちろん悲しかった。どんなに兄に憧れて一緒について歩いても兄にはなれないという事実に気がついた。それでも周りは兄と僕を比較する。僕はその現状に苛立って兄から離れた。兄と全く違う方向に行こう。一緒になりたくないって思った。でも結局、兄の影響は大きくて、だから僕は今アイドルをやっている。結局兄がいなけりゃ僕はちっぽけな存在で、何もできないんだ」陽昇は震えながら、下を向いたまま淡々と話した。
「陽、昇...その、今まで散々迷惑かけてごめん。天さんの兄弟とは思えないとか、散々お前の心を傷つけてきたよな。悪かった、悪かったよ」秀は震え、事実を受け入れられないまま謝った。
「なぜ震えるんだ?普通に謝れないのか?やっぱりあれか、僕が御影天の弟じゃないと分かったらもうどうでもよくなったんだな!こんなちっぽけな存在に今まで散々突っかかってきた自分が憎いんだな!?」陽昇は興奮しきって秀に掴みかかった。
「俺だって一人の人間だ!御影の名を背負っているから大きく見えるだけのちっぽけな人間だ!!お前は御影にしか興味がなかったんだろ!?俺、陽昇には全く興味がなくて、チームメイトとも思ってないんだろ!!」秀を揺さぶり混乱と怒りで陽昇は前が見えなくなっていた。
「俺は!こんなんだけどお前らのことを気にかけていたよ。段々信頼も芽生えてきて、悪くないって思ってた。でももう遅かったようだな。俺とお前らのしがらみは解けない。俺はもう帰る、見舞いにも行かなくちゃいけない」陽昇は秀の服を放して部屋を出て行った。
「違うんだよ陽昇。確かにお前のことを御影として見ているのは事実だ。それがお前に対抗する一番の理由だ。でも、お前と同じで、信頼だって芽生えた。陽昇は意外といいやつだってのも分かった。言っとくけどな、この何ヶ月の間にできた俺たち八人の信頼は解けない。どす黒いしがらみだって打ちこわしてくれる筈だ。だから、帰ってこい。何度でも陽昇の名前を呼んでやるから」秀は出て行った陽昇に向かってそう語った。
「あ、陽昇、来てくれたんだ」病室の一角、天はベットに横たわっていた。
「あれ?目が腫れてるよ?どうしたの?」「何でもない」陽昇は机に天が好きなバニラ味のクッキーを置いた。
「たくさん騒がせてごめんね。でもすぐ元気になるからそれまで待っててね」天は優しく答える。
「やっぱり僕は、御影として見られているようだ。誰も陽昇を見てくれないんだ」そう語る陽昇の手を天がきゅっと握った。
「僕の名前は今やこんなに大きい。でもそうなる前はどうだったと思う?」その質問に陽昇はすぐに答えが出なかった。
「人よりたくさん努力して埋めて行ったんだ。人には個人差、実力差があるから僕のように努力して、必ずしも努力した10人が10人とも成功するとは限らない。世間は案外厳しいから」天は陽昇の手を一層強く握った。
「でも陽昇には陽昇なりのやり方がある。そのやり方を見つけて、御影の名前の上に陽昇を上書きしてほしい。僕ももしかしたら復活してから芸能界を引退するかもしれない。そしたらもっと神格化されそうだけど、神格化されたらそこからもう動くことはない。あとは陽昇が自分の名前をそこにたくさん刻み込む番だ。僕は御影の名前を塗り替えて欲しいと思う。頼んだよ」陽昇は無言で頷いた。




