二十四話 上手に皆を愛そう
いよいよ充との共演の日となった。意外にも大人しい口調の充だったが、本番になると''アイドル、雪室充''へと変貌する。優月は心の奥底で充に憧れを持っていた。
いよいよロケ当日となった。裕一、要、優月、秀の四人とその他共演者も一緒にロケバスに乗り込み現地へと向かった。都心から離れた奥地へと向かっている。
「山、山、山...合宿の時を思い出すな」秀は窓からあたりを見渡して言う。
「雪室さんは別の仕事終わってからの合流かぁ、やっぱり忙しいんだなぁ」優月が言う。充は別の仕事を終えてから他キャストと現地で合流するらしい。忙しいだけある。優月は特に充に会うのを楽しみにしていた。
そしていよいよ現地へとついた。先に向かっていたスタッフ達と、メイクであろう人に囲まれた充の姿があった。そこに裕一達が真っ先に駆け寄る。
「おはようございます!今日はよろしくお願いします!!」四人は揃って礼をした。すると少し弱々しい返事が返ってきた。
「あ、えっと...そんな緊張しなくていいよ、リラックスしていこう。よ、よろしくね」やや強張った笑顔でまたすぐそっぽを向いてしまった。
「...なんかイメージと違くない?」裕一も思わず要に耳打ちする。
「ああ、なんかもっと普段から騒がしい印象があった」ロケバスで四人は充の人柄について語っていた。その時も騒がしそうなイメージがあると四人口を揃えて言った。裕一達が少し充と距離を置いていると、共演者の芸人が話の輪に入ってきた。
「あのさぁ、充くん、案外人付き合い悪いのよ。君たちのこと、そんな可愛い後輩だなんて思ってないかもよ」とこっそり話した。確かに今のところ、自分たちのことをしっかり見てくれている気はしないし人付き合いは悪そうだ。思っていたイメージとの違いに四人は早速振り回された。充は携帯をいじっていた。...何をしていたのかと言うと、Dreaming Makerのメンバーに片っ端からメールを送っていた。
「後輩四人きたよ〜!可愛い。めっちゃ健気で可愛い。抱きしめたいぃぃ!!」そして真っ先に凰太から
「キモッ」と返信を受け取っていた。裕一達には背を向けているので表情は分からなかったが、めちゃくちゃニコニコしている。よほど後輩に会えたことが嬉しかったのだろう。そしてメンバーの準備も整いロケが始まった。
まずは芸人の体当たり芸。充や裕一達の出番はまだ先だ。その全力投球ぶりに裕一達も若干引き気味だった。
「なぁ、俺たちライオンやチーターと共演って言われたけど俺たちもあれくらい全力でやるのかなぁ、アイドルなのに?」
「最近はバラエティアイドルってのもいる。俺たちにバラドルのレッテルが貼られる日はそうそう遠くないかもしれない...」秀は苦い顔をして言った。
その間、充は芸人の体当たり芸を見ていた。冷静な顔で判断しているようだった。
そして少し場所を移動して動物園に入った。いよいよ裕一達と充の共演となった。四人は改めて充に挨拶した。
「改めて、よろしくお願いします!」と言って礼をすると、充は一つ咳払いをした。
「ゴホン!...皆、今日はがんばろ〜!よろしくしくよろ!さぁ、行くよ!!」先ほどまでの大人しい充とは打って変わってウザいくらいに元気なその姿に四人はまたもや振り回された。芸人がまた裕一達に耳打ちする。
「充くん、そんでもって自分の出番になるとキャラが変わるんよ。皆に楽しんでもらいたい一心なんだろうねぇ」優月はふと充の顔を見る。まっすぐこちらを見据えるキラキラ輝く瞳に優月は吸い込まれそうになった。
なんて思っているのもつかの間。いよいよカメラも回り出しまずはライオンとご対面した。まずは裕一と要、そして充の番だ。
「裕一くん、要くん、よろしくね〜☆」余裕そうな声の充。一方で裕一と要はガチガチに固まっていた。緊張の要素が多すぎる。憧れの先輩とカメラに囲まれて、ライオンとご対面だなんて。
「裕一くんと要くんは、まず至近距離で餌やりをしてもらいます!」その言葉に震え上がる二人。二人で協力しながら餌をなんとかやった。
「二人とも〜腰抜かしちゃって!こんなんじゃ僕みたいなトップアイドルになれないぞ!なんつって!」カンペを読んだ充。裕一と要にもカンペが出たが、二人は腰を抜かしてそれどころではなかったようだ。
続いて優月と秀と充がチーターに追いかけ回されるというパート。背中にチーターの気をひくための餌をくくりつけ走る、というものだ。
「あの、マジでやるんすか」秀の問いに、
「何を今更〜!これをやらなきゃ僕のようなトップアイドルになれないぞ!なんつって!」とまたカンペを読みながら答えた。そしてチーターが檻から放たれ秀と優月は全力疾走した。
「ひぃいぃ!!!怖いよ秀ちゃ〜ん!!!」「俺の名前呼んだって何にもならねぇよ!!!」二人は言い合いながらひたすら逃げ惑った。
「二人ともおつかれちゃん!」そう言って二人に駆け寄る充。息を切らした優月と秀がふと声の主を見上げると驚き目を丸くした。
「ちょっと、なんでパンイチなんですか」充はアイドルらしからぬパンツ一丁姿に背中に餌をくくりつけていた。
「僕逃げ足だけは自信あるから!絶対いけるよ!!」どこから湧いて出るのか分からないレベルの自信を持ち、チーターとの追いかけっこに臨んだ。いざ走り出すと本当に足が速い。ただパンイチというみっともない姿に二人は時折吹き出しそうになった。
「いや〜、疲れた疲れた!」とても疲れた様には見えない余裕の笑みを浮かべる。その後も四人と充は屈強そうな動物達とバトルを繰り広げた。そして収録が終わった。
「あの!充さん!」優月が充を呼んだ。
「え?桧山くん、だよね」やはりカメラが回らないと落ち着いた大人しい口調になるようだ。
「お時間あります?また次のロケに急がなきゃいけないとかあったらいいんですけど...」
「...しばらく空きがあるから、話したいなら今お願い」その言葉に優月ははいと頷き二人は話を始めた。
「充さん、どうして収録中とオフではこんなにキャラが違うんですか?意識したキャラ作りですか?にしても完璧ですごいと思います!」
「そんな、そこまで褒めなくていいよ。これはね、キャラ作りなんかじゃない。アイドルとしての俺、雪室充と向き合って付き合って行ったら自然とこうなったんだ」優月はぽかんとする。
「って言うのも、俺はデビュー当初は君みたいに頑張ることで精一杯だった。一点しか見えてなくて。でもアイドルとしての経験を重ねていくうちに、一番大切なのはお客さん、ファンの方を愛し、愛される存在になることだと分かったんだ。それならうまい愛され方は分からなくてもいい、上手に皆を愛そう。俺なりに。って思って俺なりに明るく、伝わりやすい元気さを見せることにしたんだ。最初は地のキャラとの違いで苦戦したけど、今は上手に付き合えてる気がする」淡々と語る充に優月はただ頷くことしかできなかった。
「君も、広い視野を持ちながら、何か一点に集中して取り組むとその分野で広い知識、実力を得ることができると思う。えっと、うまくアドバイスはできないんだけど、俺は君達を心から応援しているし、可愛い後輩だと思っている。頑張ってほしい」最後に充は優月の手をぎゅっと握った。
「...はい!今すぐできる気はしないんですけど、自分のペースで皆を、愛したいと思いました!ありがとうございます!」
「おーい、優月!雪室さん!バス出ちゃいますよー!」その声に二人は慌てて準備をしてバスに乗り込んだ。
「お前、雪室さんて何話してたんだ?」秀の質問に優月は
「僕と充さんだけの内緒!」と口の前に人差し指を立てた。




