二十二話 最上級の自分にならなきゃ
きぃの話を聞き始めた千尋、しかしその内容に呆れて立ち去ってしまう。立ち聞きしたみかんたちがきぃに千尋の伝えたかった想いを代弁する。
日が暮れ出し木々の隙間から漏れる光も弱まる頃、きぃは千尋に話を始めた。
「あのね、CDはね、あんまり売れなかったけど買ってくれた人もいたから嬉しかったよ」
「じゃあそれでいいじゃん、なんか他に理由あんの?」きぃはぎゅっと千尋の服の裾を掴んだ。
「えっとね、レコーディングの時、私鼻声だったでしょ?そのままCDになってね、ネットで調べてみたの。私たちの曲について。そしたらね、鼻声だって言われたの。お友達は褒めてくれたけど、学校の男の子たちは笑ってきたの。変な声って」俯いてまた泣き出した。
「それは体調管理ができないお前の責任としか言えない。元の原因はお前にある」
「ひどいよぉ!なんかもっといいこと言ってよ!」きぃは駄々をこねる。
「いいこと?いいこと言ったつもりだけど?お前ヨシヨシって慰められたいんだろ」
「ち、違うもん!」きぃはムキになって足をジタバタさせた。
「僕もお前も、ひよっこだけどプロの世界に飛び込んだ人間。慰めて欲しい、常にいい評価だけが欲しいなら辞めちまいな。僕はあくまでプロとしてやってくつもりだし、プライドだけは高いから」千尋は裾を掴むきぃの手を解いて立ち上がった。
「い、行かないでよ!」きぃの声も聞かずその場を立ち去った。千尋が公園を出ると三人の人影。立ち聞きしていた百花繚乱の三人だった。
「立ち聞きとか趣味悪っ。ババアはとっとと帰りな」しっしっ、という仕草をして三人の横も通り抜けた。
「きぃちゃん!」愛央たちが駆け寄った。
「うわぁん!愛央ちゃん葵ちゃんみかんちゃん!」きぃは駆け寄る三人に抱きついた。
「立ち聞きしてたんだ私たち。千尋もムキになってんのかな、ちょっと言い過ぎだと思う」葵は腕を組んで思案した。
「...でも、あれは事実よ」みかんが慰め合う三人に向かって言葉を放った。
「みかんちゃんもひどいこと言うの!?」きぃは愛央と葵を抱き寄せムッとした顔をする。
「まだ12年しか生きていない、まだ芸能界に飛び込んだばかりのきぃちゃんなら分からなくても仕方ない。でも、アンチ、あなたのことが嫌いな人とも上手に付き合わないとこの先やっていけないわ。私は子役時代から経験があるから分かるの」みかんは過去のことを思い出す。
「子役の頃は大根役者なんて言われてたわね。その噂を初めて耳にした時は泣き崩れたし、なんでって思った。でも、そう思ってくれるってことはきっと、プラス思考に考えればあなたはもっと上手になれる、って叱咤激励してくれているようなものだと思ったの。そして私は思った。私のことが嫌いな人たちも唸らすほど、最上級の自分にならなきゃって」きぃは相変わらずぽかんとした顔をしてくる。
「...でも、分かるかも。アンチなら私と愛央が前のアイドルユニットにいた時にすごいいた。ぶっちゃけファンよりアンチが多かった気がする。でも私はそいつらもあっと言わせたいと思ったの。そういうこと、かな?」みかんはうんと頷く。
「私は...その頃は対抗意識とか以前にアイドルに対する思い入れが薄かったからそんなに気にしてなかったなぁ、でも今はそんな人たちに負けたくない、ファンに変えて見せたいって思うようになった。リーダーになったから責任感も芽生えたし...」三人が思い出話を始め、きぃはさらにムッとした。
「ちょっとちょっと、何言ってんのか私全然分かんないよー!」みかんが声をかける。
「とりあえず難しいことは言わないとして...アンチもファンに変えるくらい、魅力的なアイドルになりましょう、最後まで諦めないでってこと。千尋くんも言い方は悪いけどそう伝えたかったんじゃない?」きぃはとりあえず納得したフリをした。
「ねぇ、これから暇?よければ家に来ない?鍋をやるつもりなんだけど皆にもご馳走したくなっちゃって」みかんの提案にきぃは目の色を変えて喜んだ。
「お鍋ー!!やったー!!」愛央と葵は安心した顔をした。
「それじゃ、具材を買いに行きましょう!一緒に!」四人はウキウキしながら帰路に着いた。
「...はぁ」千尋は早々に部屋着に着替えて携帯をいじっていた。意味もなく。言い過ぎたかな、なんて思っていた。自分の言葉がきっかけで芸能界ころっと辞めたらどうしよう、なんて一瞬考えたがすぐに考えを改めた。あいつがそれくらいで折れるやつじゃない、そう信じた。いつか大きくなったら、少しはプロ意識を持って欲しいな、なんて考えていたらご飯の匂いが漂ってきた。千尋は携帯をベッドに投げつけ部屋を出た。




