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第5章 その6 守りの者たち

 光――。

 光が――小さな、けれど力強い光を放つ光球が、一体どこから現れたものなのか――この暗く、部屋なのかさえよくわからない様な空間に二個、三個と次々と輝き出し、一瞬にしておれの中に入りこんだ光り達は、そして……戻ったそれらは、おれの中で広がり、通じてスパークした。

 目を射る光――。

「な……!?」

 奴の、ひどく狼狽した声がすぐ側で響いている。

 おれの身体から黄金に輝く光が放つ。

 心の中に光りが満ちあふれていた。

 取り戻した、いや、返ってきたおれの心〈生命力〉。体中に生気が戻る。呪縛は解けた。すべては透明と輝く――

「リーダー!!」

〈神――!?)

〈ユウ様……!〉

 そう、きっかけを与えてくれた奴ら――一人を除いて全員がそこにいた。

 ラグ、ルアシ、シーダ、ミラクさん。そして何故だろう、異次元空間に跳ばされたはずのサミーと、アルファ号に残っているはずのメディアとパラの姿があった、

――みんな……。

 ラグ達はまるで暗闇を燈す灯の様に、夜空にきらめく星たちの様に点在し、立っている。


――おれの……力、生命力たち……迷いをたちどころに断ち切ってしまえる力を、その力を沸きたたせる者たち……守りの者たち!

「機械に、お前に、生きとし生けるものたちの持つ生命の強さはない。自然の、宇宙の与えてくれるエネルギーを取り込む無限に未知なるものはない」

 おれは……本当なら微笑みながら言えるはずのこの言萎を、今、血を吐くような思いでヒューアスに投げつけた。

 何がおれをこれほどまでに悲しくさせる。

「き、貴様……!」

 奴のその表情が、ことのあらましをすべて知ったというものに変った。おれに触れていた手は今のショックのためか多少離れたもののそのままで、黒々と輝くその瞳は鬼人とでも化した様に――醜く、けれども美しく――吊り上がり、奴独特の光の色を持っておれを見つめていた。

「そんな力を……一体どこに――!? しかも、〝守りの者たち〟を呼び集める力が残っていたというのか!?」

 突然奴の力が、まるでひとまわりも、ふたまわりも収縮してしまった様だった。おれとは逆に――あ!

 おれは、ある生き物が発する攻撃色を含んだ光に気がついた。

 パラ!?

 思わず目を向けたパラは、自ら発する光の球の中で、今まで見たこともない程、怒りに満ちた表情で唸り続けていた。

「おれの力は、おれのものであると同時におれ以外のものでもあるから――」

 意識を剣アティヌに向ける。

 床に落ちていた剣が、引力を断ち切った様に、それがまるで自然だという様に浮き上がり、おれの右の手の中におさまった。

 同時にアティヌは、この剣の持つはっとする様な青味のかかった鮮やかな光を蘇らせた。かと思うと、手のしびれる程のエネルギーをおれに伝え、次いで部屋すべてを照らす勢いに満ちた光を発しながら刃先をのぼしはじめていた。

 ぐぐっというあの重量感を伴って――石の刃は再び神剣となった。

 その瞬間、またあれが起った。おれの知らないはずのことがらが浮かんでくる。

――人々の生命力を反映する剣。〝ワクナル〈死の石〉〟より生れし剣。彼の……ラフィン博士の想いを焼き付けし剣。アティヌ! おれの心を映し出す、おれの為に作られた剣!

 ラフィン……。あの時、剣に映ったトゥーム人はきっとあなただった。

「見ろ!」

 おれはヒューアスに向かって剣アティヌを突き出してみせた。すらりとのびた刃を向けられて奴の顔が苦痛そうにゆがむ。

「見ろ! この剣がおれとお前の違いだ! この剣は生を持つありとあらゆるもの達の力〈生命力〉を映し出す剣だ! 今お前がこの剣を持っても……」

 喋るのがひどく苦痛だった。胸の奥に針をつき刺している様な痛みが広がる。

「私には持てないと言うのか? そのようなことはあるわけがない!」

 奴は張りのある声で静かに言ってのけた。

「私は神なのだ! お前に出来ることは私にも出来る」

 何なのだろう……奴にあるこうまでの自信は――。

「私は今の今まで、お前の力を沈めていた。お前がここに来てからのすべてを私が監視し、お前の精神を狂わせてきた。今とて! 私の封じ込めた者どもさえ来なければ、お前が呼びさえしなければ、お前は私の手に中おちていた! その私に出来ぬことなど何もない!」

 ここに来てからのすべて――!?

 じゃあ! あの時サミーと入った部屋で見せられた映像も奴が仕掛けたのか!? でも一体何のために……。

 それにしても……。

 おれは剣を持つ手を少しゆるめた。剣のがするりとおれの手の中から抜け、一度宙に浮いてから、ヒューアスの手に渡った。

 それにしても……。

奴の力は弱まっていた。パラの力が関わっていることに間違いはないのだろうけれど、奴自身の力というよりは奴に力を注ぎ込んでいた太いパイブの様なものが切断された。そんな感じだ。

「う、うわあーっ!」

 奴の手の中で、剣アティヌは何の変化も示しはしなかった。なのに奴は空を切り裂く様な絶叫をあげていた、

「お……おのれ……!」

「!」

 そこに凄い形相の奴がいた。

 体つき、顔つき、そのすべてが――姿、形は変っていないのに!――ひとめで人間ではないもの、機械の体だと目に見えてわかるものに変貌した中、その瞳だけがぎらぎらと、生にしがみつくものとしてひときわ鮮やかに、臭様さを漂わせて浮かび上がっていた。

「見、見よ……! 剣は……お前の時と変わらぬ……見よ!」

 剣は……アティヌは、その姿を変える代わりに、奴の真の姿を引きずり出しあらわにしたのだ。

「いやっ! 何!? 気持ち悪い!」

 突然、ルアシの悲鳴が上がった。

 ヒューアスの姿が見るに耐えなかったんだろう。ルアシの体がラグのもとへと駆け寄る。シーダでさえ顔をそむけている。

「な……んだ……と……」

 テレパシーまでが金属の鉄のさびたものの様に響く。

 ああ――。

 おれの心の中が悲しみで充ちた。目に見えない涙が溢れ、こぱれる。

「何故……お前は生まれて来たんだろう」

 おれ達、宇宙に生きるもの達の生命を、〝生のプラス〟とするなら、ヒューアスは自然が生み出さなかった、機械が生み出した生命、〝死のプラス〟。ピタリと合致し得ないもの。互いに反発しあう生命。この宇宙に生まれてくるはずのなかった生命……。

――ここは時空間の歪みを利用して造られた特異なる建物――。

 奴も、時空間の歪みを利用して創りだされた生命に他ならないのか……。けれど、それはアレピオス〈機械〉がすぺき行為であってはならないはずだ。

「おれは……」

 ヒューアスに向かって手をのぼす、

――アティヌ、戻ってこい。

「ヒューアス。あんたをこのにこのまま存在させておくことなんか出来ない!」

 奴は呻き声を上げながらも、アティヌを離そうとしない。

「私とて……同じことだ……」

 剣の柄を掴んで離さないヒューアス。

 おれは今、ただ奴を哀れなる存在として、見つめていた。

 おれの中で宇宙が広がっていく。

 おれは、奴の本釆あるべき宇宙へ返してやるべきなのだ。その為に今、おれはあの時、五歳の時知った自然と交わした力の記憶を思い出す必要があった。

「ヒューアス……」

 おれは小さくつぶやくと奴の持つ剣アティヌに手を差し出したまま、ラグ達にテレパシーを送った。

――ただ、剣の光を見つめていろ。何も特別なことは考えなくてもいいから……。

――うん

 メディアも、ミラクさんも……

《は、はい》

 人の、生命の奥底にある自然の力を、アティヌの輝きが引き出す。同時に、ヒューアスに宿った本来の生命をもー

 部屋が、建物の四方が余すところなく透き通り、頭上にも、足の下にも宇宙があった。

 宇宙の中--

 とっくん。とっくん。

 宇宙の胎動が聞こえないか――

 赤ん坊の泣き声が聞こえないか――

 忘れてはいないか……おれ達はいつも宇宙自身だということに――。

 奴の手からアティヌが離れた。

 光を放ったまま、剣はおれの手の中に戻ってくる。

「そ、その剣は……」

 奴のしゃがれた声の響く中、おれは頭上遠く、宙に浮いたまま横たわっているアミーの姿を見出した。遠く離れた星の様に小さく光る点の中にアミーはいた。

 ただ、その周りは小さな角錐状の透明な壁で囲まれている。

 遠く遥か彼方には渦巻状の星雲がながめられる。

「お前を……あの中へ入れるわけにはいかぬ……」

「なら今すぐアミーを返せ」

「それも……ならぬ! お前の力を強める様な真似は……出来ぬ……せっかく引き離したものを」

「何――!?」


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