第1章 その2 とりあえずUFO見学
「え―っ?」
「まさか!?」
シーダが冗談を言っているのかと思いながら、駆け寄ったおれ達の目に映ったのは、シーダの言ったとおり、隙間も残さず閉じてしまっているドアだった。
ドアは押しても引いても蹴っ飛ばしても、ピクリとも動かなかった。
「閉じ込められちゃったの? どうしよう?」
サミーがおれの手をとって上下に、ブンブンと振る。これがこの子の困った時の表現なんだろうか?
「さっき、お前がボタンやら何やら押しまくったんで閉じちゃったんじゃないのか?」
「そーかな?」
「あの部屋に戻ってみましょう!」
アミーが先陣をきって走り出した。本当に、この二人双子なんだろうか……。
「確か、この辺のボタンとパネルだったわね」
アミーが、その上に手をかざして軽く目を閉じる。
ラグとルアシ、シーダとおれがその様子をまじっと見守る中、原因作りの本人は操縦席に座って遊んでいた。
「ねー、ねー、この椅子、脇のボタンを押すと床のライン線の上を移動するよ。おもしろーい!」
知るか、んなこと。
「これ……かしら?」
アミーが眉を寄せ、少し戸惑いながら四角いパネルキーを押した。
と、急に部屋が薄暗くなった。光源が落ちたんじゃない。
スクリーン。正面のシネマ・スコープ型の細長六角形のスクリーンが、外の風景を映し出したんだ。どうやら今アミーが押したのは、スクリーンのスイッチ・キーだったらしい。
そして、そのスクリーンに浮かび上がった画像は……。
「宇宙――」
全員が息を呑んで・・それを見つめた。
瞬きもせず、ただ目の前にある信じられない光景を見つめていた。
そう、宇宙だった。スクリーンに映っていたのは宇宙。それも地上から見上げるのとは完全に異なった――宇宙の真っ只中にいなければ、見ることの出来ないような宇宙の姿がそこにあった。
「これ……夢なのかしら?」
ルアシが床にペタンと座り込んだ。つられておれ達全員もへばりつくように床に腰を降ろした。
サミーだけが椅子に座ったままだ。
なんてことだ……なんて……。一体ここは宇宙のどこなんだよ。なんで山の谷間から、宇宙空間にワープするんだよ。あー! そんなことより、なんでおれがこんな目に会わなくっちゃならないんだよぉ―っ!?
「どうしよう……」
「さあ……でも、これって録画映像が映ってるだけじゃ……」
シーダが希望的観測を言いかけたとき、、サミーの間の抜けた希望を打ち砕く声がした。
「このふね……UFO動いてるよ」
「えっ?」
おれ達はその言葉に立ち上がった。
ルアシだけが『動いてたって、止まってたって宇宙にいることに変わりないじゃないのよぉ!』と、半べそ状態でわめ喚いている。
「本当だ。かなりのスピード速さで動いている……」
「どこに行くんだろう?」
こいつら、不安より好奇心が勝った顔になってる。
「天の川。ミルキィウェイはどこかな?」
「ここ銀河系かしら……」
「あ、見たこともない綺麗な星雲がある!」
「わぁお! 流れ星だぜ!」
シーダの声に、ひとりブツブツ言っていたルアシが、突然青い瞳を爛々と輝かせてスクリーンを覗き込んできた。
「どこ? 流れ星! ねぇシーダ、どこなのよ! どこ?」
「もう行っちゃったよ」
ラグの言葉に、その愛らしい小さな唇をとがらせたが、次に聞こえてきたサミーのつぶやきに、再び瞳は輝きを取り戻し、ルアシは食い入るようにスクリーンを見つめなおした。
「また来るよ」
サミーはそう言った。
そしてその言葉どおり約五秒後、光が尾を引いてスクリーンを斜めに流れた。
同時にルアシは両手を胸元で組み合わせた祈りのポーズでつぶやいた。
「ラグと結婚できますように★」
壮絶な音と共におれ達は崩れ落ちた。
こっ、このルアシって子も、一体何考えてるんだろう……。普段の何でもない時ならまだしも、この異常事態に『結婚』?
あー、頭痛ぇ。
頭を抱えつつ立ち上がったおれは、スクリーンの中央、画面に広がる星々の群れの中に、妙に目立つ青い星を見い出した。
青い星といっても惑星じゃない―多分恒星、太陽に属するものだろう。そしてその星は今のこの時点では、まだ針の先ほどにしか見えない大きさだ。
それでも、その小さな青い点が妙に、厭になるほど気にかかるのは何故だろう?
「宇宙の色ね」
ふいに投げかけられた言葉に、おれはそう言ったアミーを振り返った。アミーはクスリと微笑むとおれの顔を指さした。
「リーダーの眼の色よ。こうしてよく見ると本当に深い黒、宇宙の底みたい」
宇宙の底? 何だそりゃあ……。
「ね、リーダー。これからどうしよう」
ラグが厳しい表情を隠すように、帽子をぐいと深くかぶり直した。
どうやら、現状を把握しているのはこのラグとアミーだけのようだし……あーあ、当面はこのガキ共の面倒をみなきゃならないんだろうか?
「どうするったって……、あ! ラグ、確かハイキングの昼メシ、食い物持って来てるって言ってただろ?」
「うん。ルアシ」
ラグが言うと、すぐにルアシが部屋の端っこに置いてあったバスケットを持ってきた。
「サンドイッチにハンバーガー、サラダにジュース。お菓子と果物があるのよ」
「これ、ひょっとしてルアシちゃんが全部作ったの?」
「まっさかぁ★ あのね、あたしのおうちパン屋兼お菓子屋さんなの」
「ボク達のうちは病院と薬局やってるんだよ」
サミーがおれの服の端を引っぱった。
「病院?」
「うん。小児科、内科、外科。三つ専門科があるから今度来てね」
罪のない顔して、恐ろしいことを言う奴だ。『病院に来てね』イコール、病気になるか怪我をしろということじゃないか。まぁ…生きて地球に戻れればの話しだけど……。
そんなおれの思惑にも気づかず、
「オレん家は電気屋」
シーダがそう言いながら、自分のリュクの中から何やらゴソゴソと取り出しておれの目の前に並べ、ニヤリと不敵な面構えで笑って、示した。
「最新型の高性能カメラと双眼鏡、それと腕時計…腕…げっ! ま、まさか、まさかこれは!!」
MTTW――超最新式小型液晶モニター衛星通信通話装置内臓腕時計――だ!
これひとつでエア・バイクが一台も買えるという最高級品! おれの知り合いで持ってる奴は一人もいない。
地球の裏とも時差なしで通話できて、天候にも、停電にも影響されないだけでなく、そうとう最先端技術が駆使されているという噂。
な、なのに、たっ、たかだか電気屋のガキというだけで、これを五個も持っているんだぁ? たかが電気屋……電気……シーダ・ティド……ティド……ティドおぉ!? 突如として、とある名称がポンと浮かんでおれはシーダを、目の前のこのこ憎ったらしいガキを指さしながら、声にならない声で叫んだ。
「おまえまさか、・・あのティド・コンツェルンの……!?」
語尾が微かに震えてしまったのが自分でもわかる。
おいユウ、だらしないぞ。しゃんとしろ!しゃんと!
「言っただろ。電気屋だって」
シーダの奴、何ともつかない笑いかたをする。
ティド・コンツェルン――世界有数の財閥の中でも、五本の指に入る大財閥。名門の中の名門。ありとあらゆる電機・電化製品、乾電池一本からコンピューター、ランドモット粒子を取り入れた最新式の……そう、このNTTWまでをも開発したという大企業。
まさか、今おれの目の前にいるこいつシーダが、その大財閥の一員だというのか?
ハハハ…まさかね。
「んなことはいーからよ、先続けよーぜ」
シーダは茫然としているおれを無視して、五個のMTTWを配り始めた。
「一個足りないんだよな、こんなことになるなんて思ってなかったらよ」
「じゃあ、悪いけどアミーとサミーで一緒に使ってくれるかな」
ラグの言葉に双子の兄妹がうなずいた。
「ま、ラグがそう言うんじゃ、しゃーねーな。ほれ、これがリーダーのだぜ。大事に扱ってくれよな」
ポン、と手渡されたMTTWをおれしげしげと眺める。本物だ。
シーダの奴の小生意気さも、この感動の前には吹っ飛んでしまう。しかし……。
「何でこんなもの持ち歩いてるんだ?」
少々うわずった声で聞くおれにラグが答えた。
「ハイキングに来って言うことはさっき説明したよね。それで、みんながバラバラになっても大丈夫ようにシーダがMTTWを持ってきてくれるようになったってわけ。これでよく探険ごっこをやるんだ」
「へぇ―」
何て言うのか、結局、子供は子供だ。例えシーダが大財閥の一員であったとしても、普通の子供と何ら変わりない。つい色眼鏡で見てしまうのは、大人のすることだ。
髪の毛が金色でも、眼の色が青くたって緑色だって、日本人として日本で生まれ、育てば日本人だし、それ以前に同じ人間だもんなぁ。うん。
おれは、サンキューなんて言いながらMTTWを腕に取り付けると、ガキ共に向かっていった。このままじゃラグにリーダーの座を奪われてしまう!
「話を戻すけど、ルアシの持ってきた食糧は貴重な物だから、なるだけ少しずつ食うこと。時間制にするのが一番いいんだろうけど。でないと、あっという間に飢え死にするぞ」
このUFOが永遠に宇宙を漂流するとなれば、二、三日生き延びたところで意味はないんだろうけどな……。
スクリーンの中ではあの小さな点が、ほんの少しではあるけれどその光りを増している様だった。
「次に、このUFOの中がどうなっているのか調べてみようかと思うんだけど」
「わ★ 探検やるの? ボク賛成!」
サミー……おまえがここに飛ばした張本人じゃなかったか?
「うん、何もしないでいるより何かを見つけ出す方がずっといいね。ペアを作って捜索開始といこうか」
あー! ラグの奴、おれの言おうとしたセリフを取りやがった。
それなのにルアシは、「いいわよぉ★」なんて言ってラグに、にっこりほほ笑むし、シーダは「やっぱ、ラグは頭がいいや」とか好きなことを言ってくれる。
どーせおれは取ってくっつけたリーダーだよ。
内心す拗ねてる間に、アミーがサミーに言って、サミーのかばんの中から何やら取り出させた。
赤と黒の二種類のカラーテープだ。
アミーはそれを受け取ると、機械盤の、ある箇所だけを囲むように赤色のテープでぐるりと周りを張っていき、青色のテープはさっきアミーが押したスクリーンのスイッチ・キーのパネルの脇に小さく切ってくっつけた。
「何の印だい?」
「赤色テープはサミーがめちゃめちゃに押しまくったところよ。この中にワープ・ボタンのある可能性が高いの。今度また誰かが押してワープしたら大変でしょう? だから触っちゃいけませんマーク。青色はスクリーンのスイッチ・キーよ」
アミーは片目を閉じながら、サミーにテープを返した。
しかしまぁ、頭のいい子だ。テープで目印を付けるとは……ん? 待てよ。何でカラーテープなんか持ち歩いているんだろう? やっぱり探検ごっこに関係あるんだろうか?
そんなこと思っているおれを無視して、連中ペアを作り始めた。
「ラグはもちろんあたしとよねぇ★」
「あ……うーん、ぼくはここにいてみんなの連絡役にまわるよ」
「じゃあ。あたしもぉ」
ラグとルアシの声に混じって、アミー達の会話が。
「サミーはどうするの?」
「んーとね、ボクは探検に行く! 宇宙人が隠れているかもしれないよ」
「オレも探検!」
「そうね……サミーが行くなら、わたしも行こうかな」
お! アミーちゃんの意外な一面見っけ!
サミーが行くなら―か。
「リーダーはどうするの?」
「おれがここに残るよ。そしたらラグだって探検出来るだろ?」
「うん。ありがとうリーダー」
「でもよぉ、本当はただの無関心人間つーやつじゃねえのか? それとも無気力派とかよ」
「まっ、許せないわぁ」
「うん、ボクも」
「う、うっさい! シーダ、ルアシ、サミーのやつら言いたい放題言いやがって……おれはおまえ達よりずうっ―と、神経がデリケートに出来てるんだ。だいたいこんなはちゃめちゃ状態がたて続けに起きて、おかしくならない奴がいるかよ。おまえらの方が、よっぽどの異常体質なんだ!
「おまえら全員行ってこいよ。何かあったら知らせるから通信機のスイッチは全員オンONにしておけ」
「うん。わかった!」
ラグ達ニコニコしながら部屋を出ていってしまった。
何て薄情な人間なんだ。一人ぐらい残ってやろうという奴がいてもよさそうなのに……。
誰もいなくなった操縦室をひとりうろうろとしたあげく、おれは壁づたいのソファに寝転がった。
スクリーンには無限の宇宙。無数にさえ見える星々が広がっている。
そして、画面の中央には先刻と変わらずあの青い星が、数々の星にまぎれて映っていた。
腕のMTTWからは、連中の声がまるでラジオの雑音の様に流れてきて、おれは半分クスクスと笑いながら耳を傾けていた。
『これ何かな?』
『トイレだろ』
『絶対? 何賭ける?』
『トイレットペーパー!』
アホらし……。これは、シーダとサミーの奴だな。
『キャー★ すっごーい! ねぇ、ここってよくTVや映画のSFに出てくるところかしらぁ』
『うん。コンピューター・ルームだ。凄いや』
『これじゃ、宇宙局の技術なんてオモチャ同然ね。GSC〈銀河開発センター〉だって問題にもならないわ』
『でも……』
ラグの笑いを含んだ声が言う。
『ぼくらにとっては宝の持ち腐れだね。マニュアルもないし、あったって読めないんだろうから』
さすが上級生、言うことが違う。
今ンところ、連中の話の内容からいくとトイレ、コンピューター・ルーム、あとエレベーターらしきものがあるとサミーがわめいていたし、個室が何個かあり、使用不明の部屋もいくつかある様だ。
『次、これに乗って上に行こうぜ』
ヘェー、このUFO見かけよりずうっとでかいらしい。
シーダ達のグループが、エレベーターに乗って動かし方をあーだこーだやっている様子を聞いていた時、ラグとアミーが操縦室に戻ってきた。
「変わりない?」
そう言ったアミーは、ソファの上のおれを見るなり呆れ果てた顔をした。
「どうりで行きたがらないと思ったら、こういうわけだったの」
「あ、あはははは……。何も変わったことなんてないよ、うん。ふたりともどうしたんだい? 上へは行かないのかい?」
「行くよ。その前にぼくとアミーで様子を見にきたのさ、リーダーのね」
ラグがニコッと笑うのと対象的に、スクリーンに目をやっていたアミーが何かに気づいたような顔をした。
「あの青い星、ずっとスクリーン画面の真ん中にあるわね」
「そうだね。ぼくも気になっていたところなんだ。ちょっと前まで点だったのが、もうアンタレス一等星ぐらいの光を放っている」
何? 何だって?
「ひ、ひょっとして、お前ら二人ともあの星に気づいてたのか?」
「それが気になるからこうしてラグと来たんじゃない」
アミーは笑いながら、けど目だけは笑わずにつぶやいた。
「もしかするとこのUFO、あの恒星の方向に進んでいる?」
「賭けようか?」
「どっちに?」
「ぼくはあの星に向かっているほうに」
「じゃあ勝負にならないじゃない」
アミーは肩を竦めるとラグに片目を閉じて見せた。
「それよりもうそろそろ戻らないと、ルアシに叱られちゃうな。ラグを独り占めしたって。わたしあの青い星に名前付けるわね、行こうラグ」
駆け出したアミーと共に部屋を出ていこうとするラグを、手招きで呼んで引き留める。
「何?」
「あのさ、あのシーダってガキ、本当にテッド家の人間なのか?」
「本人は厭がってるんだけどね、正真正銘名門テッド家の子息。デュセーヌ・テッドは父親だよ」
「…………」
あまりの驚きに言葉を返せないでいるおれに、『ないしょだよ』とニコッと笑うとラグは部屋を小走りに出て行ってしまった。
「信じられん……」
でっかいため息ひとつついて、さてこれからどうしたものかと考え始めた矢先、左腕からルアシのキンキン声が飛び出した。
『だからぁ! どうしてラグとアミーだけいなくなるのよ! 何で? パートナーはあたしなのよ。あんた達どうして教えてくれなかったの?』
『えー? ボクわかんない。アミーもいついなくなったのかなぁ』
『しらねぇもんは知らねぇよ』
どうやらアミーの言ったとおり、ルアシの機嫌はすこぶる悪そうだ。
「ん? 何だぁ、これ」
おれは上半身だけ起こして、ドアから少し離れたところに白いボタンが六つ、横一列に並んでいるのを見つけた。
「何だろ?」
考えるよりも早く、手は勝手にそのスイッチ・ボタンの上を走ってしまっていた。
しまった! 何のスイッチだったんだろう?
うわぁ! どうしよう……! 照明スイッチであってくれぇ! との願いもむなしく、この部屋の光源は消えてくれなかった。しかもその代わりに、ワァ――ンといった感じの機械音が唸りだし、何がどうなったのか訳のわからないうちに、ソファから放り出されていた。
な、何が起きたんだ?
……と思いつつ体を起こしたおれは……目を丸くした。今までソファのあったはずのところが全部、機械装置で埋めつくされていたのだから。
まぁ、つまり、その、何て言うか、そう! 今押した六つのボタンはソファと機械装置とを替えるための切り替えスイッチだったんだ。
「びっくりした……」
立ち上がりながら、側にある装置を見てまた驚いた。これ、モニター・デスクだ。しかも自動的にスイッチが入ったらしく、十五、六個の小型モニターと中央のメイン・モニターにはいろいろな場所の映像が映し出されていた。
お、ラグ達の姿が、そのうちのひとつ一番下の左端のモニターに映っている。
『ルアシがいなくなったって?』
左腕のMTTWから聞こえてくるラグの声に、ルアシちゃんの姿を探してみたが、本当にあの金髪の少女の姿だけが見当たらない。
「ってことはーっと」
思わず口に出しながら、別のモニターにルアシの姿を探してみる。
「お、いた」
ルアシは右端のモニターの中で、キョロキョロと辺りを見回していた。迷子にでもなったんだろうか?
場所は――ランプの様なものが床に点々と並んでいる――何だか滑走路に似ているな。と言うことはまさか格納庫かぁ? それにしては小型艇らしきものはどこにも見あたらない。
「ルアシ」
左腕を口元に持ってきて呼んでみる。
面白いことにラグ達とルアシ、一斉に自分達のMTTWに視線を走らせ、全員が同時に口を開いた。
『リーダー、ルアシがいなくなっちゃったんだよ』
『リーダーのところにルアシ行ってない?』
『ルアシの奴、エーリアンに捕っちまったかもしれないんだ』
『リーダー、あたし今ラグ達と一緒なんかじゃないわよ! ラグはあたしよりアミーといた方が楽しいのよ!あたしなんかいない方がいーんだから! 捜さないでよね!』
全員の声がMTTWから一斉に聞こえてきて、おれは腕を思いっきり耳から遠ざけた。特にルアシのキンキン声は閉口してしまうぐらい凄かった。
しかし――もしかしてこれは――痴話喧嘩ってやつだろうーか? しかも小学生の……頭痛くなってきた。
「あのねぇルアシちゃん。別に捜そうと思わなくても、場所の検討はだいたいついてるんだけどね……おれ」
『うそ! わかるわけないわよ。だってリーダー今、操縦室にいるんでしょう?』
「床に点々と並ぶランプの列。そこ格納庫に似てないか? 空港とかにある」
『え―っ? どうして、どうして分かったの?』
今まで泣き出しそうになるのを、懸命に堪えてMTTWを睨みつけていたルアシの顔が、急に狐にでもつままれた様な表情に変わった。
左下のモニターではアミーとサミーを先頭に、ラグ達がルアシを捜している。
「喧嘩の原因はよく分からないけど、よく話し合って仲直りをしな」
「やーよぉ! だってぇ……」
ルアシが困った顔をした時、隣のモニターからラグ達の姿が消えて、ルアシのいる格納庫もどきの部屋に現れた。
『ラグ……』
『あのね。さっきアミーと話をしてたのは、青い星の名前を決めていただけなんだよ』
『青い星って?』
『あ、リーダーさん』
ルアシとラグの声に替わり、アミーの声が聞こえてきた。
『今の会話で分かったと思うけど、あの星の名前を決めたわよ。《ブルー・ケルピー》っていうの。いいでしょう? 意味は《青い水の精》よ。どう?』
ブルーケルピー……中々ネーミングセンスのある女の子だ。しかも、まだ十歳!
「何だっていいけどね。――あ?」
いい加減な返事をしながら、アミー命名の《ブルー・ケルピー》を見ようとスクリーンを振り返ったおれは、そのままの姿勢で立ちすくんでしまった。
口がパクパクと金魚のように開いたり閉じたりしているのが分かっていても止めようがない。




