第4章 その2 いざ、出陣
二時間を少し回った時、ロンが、アーモルの上空に着いたことを知らせてくれた。
「メディアやサミーの様子はどうだ?」
『良好デス』
格納庫のどこからともなく響いてくるロンの声に、おれは安堵のため息を漏らした。
ロンの言うことには、おれが操縦室から出た数分後にメディア達の頭痛と、そして精神攻撃がピタリと止んだという。
その連絡はその時すぐおれに来たのだけれど、おれは用心のため操縦室には戻らなかった。
なぜ奴が精神攻撃を止めてしまったのかが分からないというせいもある。
だからおれはその三時間を〝小さな翼〟の中でじっと――半分眠りながら――待っていたんだ。
『着陸シマスカ? りーだー・ゆう』
「うん? いや待て! アルファ号はこのままの方がいい。後はおれがこの小型艇で乗り込むよ。アルファ号に何かあったらおれ達地球へ戻れなくなっちまうだろ? 全員で無事に地球に帰りたいもんなぁ。自信があるととは言いきれないけど“なせばなる。なさねばならぬ何事も”ってことわざもあるし、おれ頑張ってみるから、ロンもメディアとサミーのこと頼むぜ。で、ロン、アーモルって大気があるのか?」
『稀薄デハアルケド、有ルコトハ有ルワヨ一』
「じゃあ〝小さな翼〟でアーモルに降り立つ……のは考えものだな。それに降りる場所にしたってこの部屋からじゃ下の地形はわからないしな」
一度操縦室に戻って外の様子を確認してから出発するのが一番安全な方法なんだろうとは思うけど、今はその時間さえ惜しく感じられる。
どうしたらいいだろうか……。
『〝小さな翼〟ノ座席ノ後二酸素ぼんべガ備ワッテイルワヨ。ソレヲ使用スルトイイデス。地球ノ大気ト成分ハ同ジ。酸素供給自動変換ふぃるたーモますくに取リ付ケ済ミ。用意周到。準備万端。万能知識ナろん』
何で酸素ボンベまで・・・?
おれは咽まで出かかったその疑問を無理やり飲み込んで、小型艇の酸素ボンベを確認した。本当にあった。
ロンがなぜ知っているのか。その理由を知りたい、知りたくてたまらない気持ちをおれは押えつけた。
それは後からでも聞けることだ。多分・・・。
今はそんなことで時間を費やしてやしている余裕はないはずなのだから。
「ならロン、今から出る。用意はいいか?」
「待ってぇ!」
「……!」
おれはビクリとして反射的に首をすくめた。
今の……声は……まさか……まさか。
恐る恐る後ろを振り返ったおれは顔を手で覆った。
あちゃあ……
「待ってリーダー! ボクも行く!」
気持ちよさそうにハァハァと息を吐さながらサミーはさっさと機体に乗り込んでしまった。
「お、お前って奴はぁ……」
「どうしたのリーダー? 早く行こ」
「…………」
サミーは、おれが唖然としているのをいいことに、ロンに合図をとり始めていた。
「カタパルト〈飛行機射出機〉、OK?」
『OK』
「ロン、十秒のカウントとって」
『OK。十、九、八……』
「リーダー、発進するよ」
「…………」
あれ、まてよ? 発進するってことは、アルファ号にはメディアとパラだけが残るってことで……。パラは、トゥーム人の天敵に相当する存在で……。
『2、1、GO!』
「わ!?」
我に帰ったおれは慌てて操縦管を握りしめた。が吹っ飛ばされた……というのが実感。
Gはさほどきつくはなかったが、それにしても心臓が飛び出すかと思った。あー恐ろしかった……。
「リーダー! リーダー!」
サミーが隣りで騒いでいる。元気な奴だ。
「リーダー! リーダーったら!」
「何だよ?」
「ちゃんと操縦してよぉ! 落ちちゃってるよ! 墜落してドカンって爆発したら、ボク達死んじゃうかもしれないよぉ!!」
「ひぇ――!」
気が付くと、小型艇はアーモルに向かって急降下していた。
えーっと、シーダに教えてもらった操縦法は……!? お、思い出せん。
自動操縦は? ロンは何やってる? 何が準備万全だ。あのお調子コンビューター。
「リーダー! 引くの! 手前に引くの!」
「わかった!」
もう、力いっぱい操縦桿を手前へ引いた。
機首は首をもたげ、機体は何とか安定してくれた。
やっぱり付け焼刃じゃ、いざって時に何の役にも立たないな……。
「ね、リーダー。ボクが一緒で良かったね。そう思うでしよう?」
「認めざるを得ないかな?」
「えヘヘ★」
サミーは嬉しそうに笑ったあと、鼻の頭の上を指で掻いた。
「だけどいつもはね、シーダの家でシュミレーションやる時は、失敗ばっかりだったんだよ。タイミングが合わなかったり、操縦桿を反対に倒しちゃったりね」
恐ろしい話だ……。
それにしてもアルファ号にロンと一人残ったメディア。大丈夫だろうか……。ごめん、あとで謝るしかない。
「リーダー! あそこ。ずうーっと向こうの少し左手の方向見て!」
「あん? 山?」
アーモルの地上は全体側に地球の月の月面に似ていた。緑はないに等しく、砂漠同然の姿に、大小様々なクレーターが出来上がっている。
サミーが指摘したのは離れたところに小さく見える山形だった。
あまりにしつこくサミーが言うので、おれは仕方なく機首をその方向に向けた。
「あの山に基地かなんかが出来てるとか言うのか?」
「そうかもしれないけど……」
サミーは適当に相槌をうっているようだった。心はすでにあの山に飛んでいる。
間の抜けた、と言うよりは双子の妹アミーの思慮深げな顔つきに近いように見える。
おれとしては今隣りにいるのがサミーより、アミーだったらなぁ、と思ってしまう。あの子には十歳とは思えない迫力があるからな……。
「ん――?」
おれは山形のそれに近づくにつれ、目を細めたり、見開いたりし出した。
隣りのサミーは今や放心状態に近かった。
地上絵――?
おれは初めそれを地上絵かと思ったのだが、近づくにつれ違うと知れる。
おれが山だと思っていたものは、巨大なクレーターの中に納まっていた。
上空から見下ろしたクレーターの中には、幾何学模様に金属郡の建物が立ち並んでいた。そしてその中央には何と、巨大ピラミッドがあったのだ。
「こりゃあ基地なんてもんじゃない。まるで要塞だ』
「うん」
サミーは相変わらず生返事だけれど、その目はピラミッドに据えられたまま離そうとそうとしない。
さて、どうしたものか。
クレーターの中には着陸出来そうないい場所は見つからないし、かと言ってクレーターの外に降りて中へ入って行くというのも物騒だ――ー第一、クレーターの断崖は目寸法でも二、三百キロはありそうだ――思案にくれながら上空で旋回していた時、突如クレーター内の数ヶ所から光の筋が奇妙な弧を描くようにして、おれ達めがけてぶっ飛んできた。
「げっ!」
体中の血がサッと音をたてて引いて行く。
おれは操縦桿を一気に手前に引いた。
〝小さな翼〟は急上昇した。
が、何でだよぉ! 光線の団体さん達、通り過ぎずにそのまま追っかけて来た!
今度は機首を下にさげる。ほとんど墜落同然だ。けれども光線はやっぱりくっついていて、その距離を確実に縮めていた。
おれは再び機首をもたげた。上下左右に逃げ回るおれ達を、まるで遊んででもいるかのように、光線は着かず離れずの状態で真後ろから追って来る。
操縦桿を掴んでいる手にしろ、床につけている足にしろ、とにかく身休全身が震えているのがわかる。武者震いとはこういうことをいうんだろう。
身体中の血が煮えたぎっているのがわかる。
こんな時に――もう駄目かもしれないというこんな時なのに、おれは少しも恐がってはいないようだった。
「ボク達……死んじゃうのうの?」
サミーの感情のない声におれはギクリとして振り向いた。
目がピラミッドだけを追いかけている。
「おいサミー! しっかりしろ!」
大声で怒鳴ってやると、少し驚いたように瞬きひとつしておれの顔を見た。
「あ、リーダーだ』
「アホ!」
「あれ――? わあー! リーダー! 大変だよぉ! レーザー光線の団体さん達がすぐ後ろにいるよぉ! わぁー!」
サミーが急におれの体にしがみついて揺すぶったので手元が誤り、小型艇はピラミッドヘと突進し出した。
「離せ!! このままじゃ追突しちまうぞ! サミー! 手を離せ!! おいサミー!」
「いやだぁ! 死んじゃうよぉ! ボク死にたくない!」
「死にたくないなら離せ!! お前が手を離すだけでいいんだ! サミー!」
「リーダーと死ぬなんてやだぁ!」
「いやだったら離せぇ!!」
「いやだぁ!」
言ってることがもう支離滅裂だ。
正面にはピラミッドの壁面が、後ろには幾筋もの光線が集まってひとつに結集した――小型艇よりも直径のでかくなった――光線が〝小さな翼〟をはさみ撃ちする形となっていた。
絶体絶命! もう駄目だ!




