第6話 【ラビッツ編】クロウベルの足取りを追え
フユーンの街にある貴族達が住むちょっとしたエリア。
その丘の上にある大きな屋敷の前で深呼吸をした、街の入り口からここまでは奮発して馬車に乗り、いよいよドアノッカーを鳴らそうとすると内側から扉が開く。
「ご無沙汰し──痛っ!」
「あっ玄関前でずっと立っていると不審者よ? 執事長が困って呼びに来たし」
うう。そうだった……本家の家はなんとメイドや執事付きの家だった。
鼻を押さえて慌てて頭を下げる。
「ご無沙汰でしてます。義姉さん!」
「いらっしゃいー遠い所から……ようこそ! 手紙はギルド経由で先にきて確認済みよ」
「これ、お土産です」
途中で寄ったオシャレなカフェで買ったプチケーキ。
義姉である貴族様にはどうだろう? と思ったけど、スターシャ義姉さんさんは元はフユーンの街のギルドマスターの娘。と言うので庶民的だし大丈夫。と思いたい。
「どういたしまして。スゴッチは会合に行っているから……自分の家と思って」
「お、お邪魔します」
スゴッチとはスゴウベル義兄さんの事。
スターシャ義姉さんは自分の家と思って。と、言うけど……今ではフユーンの筆頭貴族。実質の領主となってる家と、アタシの家との差が凄い。
片方は部屋数だけで二桁以上。
アタシの家が部屋数は片手で数えるほどしかない。
「それにしてもアンジュさんが家出ねぇ……お義父さんって昔から浮気症だし」
「義父を知っているんですもんね」
「うん。ソニアさんに続き、カナデさんを亡くしてからは王都のほうで暴れていた。ってウチの父さん言ってたしー。まっすぐにアンジュさんが心の支えになった。って……当時私も子供だしその辺は知らないけどね、うちの父さんの女遊び相手で……男って……」
「なんだか、身内の話なのに身内が知らないってのは怖いですね」
「本当」
話ながら歩きゲストリビングに連れてこられて好きなように座って。と。
うちの家よりも豪華ソファーでお尻が落ち着かない。
「あはは、落ち着かないよね」
「高そうですし」
「ぶっちゃけ高いわよ。なんと新品で金貨600枚!」
「ぶえっ!?」
慌ててお尻を上げた。
私の月給が金貨14枚ですし!!
「大丈夫大丈夫、新品での話。その端っことか破れてるでしょ? 馬鹿が義手で引っ搔いた。のを……店に怒鳴り込んで激安にしてもらったから」
「へぇそれはお買い……え?」
新品に傷を付けて、それを店主に怒鳴って……え!? ええ!?
それって恐喝よね。ケーキに指を突っ込んで穴が開いてるから安くしろって奴で……。
「どうしたの?」
「な、何でも無いです。それよりも!! あのクロウベルさんの居場所を」
「うんうんうんうんうん。あの馬鹿野郎よね」
馬鹿野郎? ああそうか、スタン家を追放されているんだった。
いくら義姉さんが優しくても聞き方を間違えた。
「い、言い直します。スタン家を追放された男性の居場所を探してます」
「うっわっ言葉使い気持ち悪い。家族よ、なんだったら貴方のほうが偉かったりするのに。義父の娘なんだし」
「娘ってもあのパパ……ええっと、サンドベル様は義父で血の繋がりは無いですし」
スターシャ義姉さんは、一瞬アタシを見ては口を開きかけ閉じた。
「あの。アタシもそのママとサンドベル様が若い時から付き合っていた。ってのは知ってますけど。結婚したのもアタシが生まれてからですよ?」
「そうねぇ……まっアンジュさんの気持ちもわかるし、そうなんでしょう。で……馬鹿の話に戻すわよ」
「は、はい!」
スターシャ義姉さんは馬鹿の、もといクロウベルさんの話をしてくれた。
「初めて会ったのはアンジュさんの手を握っていたちょっと暗そうな黒髪の子だった……この子は大事な子だから。とアンジュさんが顔を出した時に会ったのが最初。うん……あの時は可愛かったわね」
スターシャ義姉さんは紅茶を一口飲む。
「うちの父さんは、あの子には黒い影がある。って言っていたけど……本当に可愛かった……次に街の話題に上がったのは下水道の災害」
「アッ知ってます! サンドベルパパを筆頭にスゴウベルさんがあふれ出る魔物を倒したんですよね!! あれ? でもそうしたらクロウベルさんは、どこに」
「市民はそうね。あれは厄災の魔女メルギナスとその弟子アリシア。それに劣らないクロウベルが救ったのよ」
「魔女!? すごい。会った事もないけど……え、でも街を救ったなら英雄だ……」
「でしょ!!」
あれ。スターシャ義姉さんが何か嬉しそう。
「でも……」
その表情に思わず息を飲む。
忘れていた。そう彼はスタン家を追放されている……冒険者ギルドで働く私はわかる貴族の家から追放されるという事は凄い重大な事をしてるのだ。
嫌な話で、貴族が使用人や街の人を殺しても大きな処罰は基本ない。
冒険者ギルドがある今でも、冒険者に対して貴族が行う悪質な行動がちらほらあったり。
「ド変態だった」
「…………はい?」
真面目な顔のスターシャ義姉さんは鼻から息を思いっきり吸い込んだ。
「年の取らない魔女の事を師匠と呼び、いや……そこはまだ良いのよ? その魔女の体臭を鼻をつけてはデリシャスで叫んで、下着盗んだり、使ったスプーンを舐めたり。お風呂覗くのはまだジャブで。同じセッケンを使って『師匠と同じ匂いだ、ぐへへへ』って。魔女もびっくりの逃げ出すほどよ」
「…………え。やだ」
思わず声が出る。
だって、そんな人が義兄だっていうんでしょ? 追放されていた理由がわかった。
「まっ。半分はスッゴンが言うから嘘なんだけど……」
「半分は!?」
「そう、半分。事件が起きて追放されるまで5年間あるんだけど……もう本当……たぶん、地下下水道で変態になる呪いにでもかかったんじゃない? ってぐらいに。結局魔女を追う事に決めた馬鹿は貴族を抜けました」
あれ。
話がちょっとおかしい。
「どうしたの?」
スターシャ姉さんがにやにやしてる。
アタシを試してるのだ。
「抜けた。って事は追放じゃない……って事ですか?」
「正解ー! 何だったら今でも裏では交流あるわよ……ただ……その。変態って所は本当だし、なかなか捕まらないのよね。息子と娘もいる、ラビッツから見ると親戚の子って感じかしら。今ではファースト学園に通ってるわよ」
「え!? あの給料が凄いいい。と言うファースト学園にですか!!」
初任給なんて冒険者ギルドの3倍。
職員として入るのも難しく子供が好きだったり職員にも戦闘の技術が必要との事。アタシは一般人でそんなの全然ないし、余りにも遠いので話だけしか知らない。
「紹介状書いてあげる」
「あ、ありがとうございます……あの!」
「なーに?」
アタシのために紹介状を書く用意をしているミアーシャ義姉さんが背中越しに返事をしてくる。
「もしかして、ミアーシャ義姉さんって、そのクロウベル義兄さん? の事好きだったんですか……?」
「うん。そういうのは……スゴッチがいない所で聞いたほうが良いわよ?」
突然背後で金属音がなる音が聞こえた。
全身がビリっとした空気を感じ取って飛び跳ねた。
壁際まで飛ぶと義手をカチャカチャ鳴らしてる──。
「スゴッチさん!」
「スゴウベルだ」
「はっ!? ご、ごめんなさい!! アタシったらなんて口を!!」
「いやまぁ……来るのは聞いていたからな。にしても……やべえな」
「ヤバいわよね」
2人ともアタシを怒るのじゃなくて驚いた顔だ。
何て言う失言をしたのだろう、例え兄妹……うん、義理でも領主が許可を出せばアタシの命なんて簡単に消せる権限があるのだ。
「ヤバい発言してごめんなさい! いえ!! アタシのような一般人が──」
「いや、そうじゃなくて……ソファーから壁際まで一瞬で移動したyおな」
「ええ、さすがアンジュさんの娘よね。眼で追えなかったスゴッチは?」
スゴウベル義兄さんは首を振り出した。
「え!? あの……どういう意味で」
ママは普通のメイドさんです。




