第5話 【ラビッツ編】良いですか? スタン家の男は代々ろくでもない……
「信じてくれアンジュ! ワシが愛してるのはアンジュだけだ!!」
「上着についた口紅『また来てね』という常連カード。『本命って言ってくれて嬉しい』と書いてあるこっちも常連カード。よく見ると違う店ですね」
「詳しくは言えないが大事な事なんだ!」
リビングから聞こえてくる声を聴く。
1人はパパ。もう1人はママだ。
どうしよう、仕事帰りに軽く運動して帰って来た所なんだよね。
飲み物を取りに来ただけなのに、入れないっぽい。
背筋がぞわっとした。
リビングの扉が急に開くとメイド姿のママがアタシを見ている。
「ラビッツ。帰って来たのならどうどうと『おかえりなさい』は? ここは貴方の家なんですから」
「そうなんだろうけど、ええっとパパは何で土下座を」
「ラビッツ、何度も言うのにあの人はパパではありません。この屋敷の主人、サンドベル様です」
物心着いた時から一緒にいる屋敷の主人。
サンドベル様と言いなさい。って言ったって、10年ほど前に結婚した。って聞いてる。アタシにとっては義父になるとか、だからアタシは貴族としての地位も何も持ってない。
にもかかわらず。なんだろう本家のスゴウベル夫妻は凄いよくしてくれるし、子供が出来ないスターシャ叔母さんからも、うちの子になりなさい。など。
もちろんアタシだってそれが貴族流の冗談だってのは解るんだけど。
「おお!! ラビッツ。そのカッコ悪い所を見せたようだな……どうだ? 仕事は慣れたか」
「ギルドの受付なら慣れたよ」
「ラビッツ言葉使い」
「はい。ギルドの受付なら慣れました。これでよろしいでしょうか! ママ!!」
「怒っているわけじゃありません。事実を言ったまでです。このカードのように」
うわぁ……ママの手には女性が書いた文字入りカードが10枚ほど。
パパは貴族の地位は息子に譲った。と言っては一般人を自負してる、でも今でも交流関係も凄いし、歳とってもワイルドというかカッコイイんだよね。
禿げちゃってるけど。
そんなに怒るのはパパが可哀想である。
「アタシは良く知らないけど貴族様だったら女性遊びはするんじゃないの? ママもそれを了承して結婚したんだよね」
「っ!? それは……」
ほら。ママだって『例え好きな人が1人、2人、女性とお付き合いがあったとして許すぐらいの女になりなさい』って言っていたし。
「ラビッツ! そもそもワシは《《遊び》》じゃない。これには事情がっ」
「…………では、本気だったと。遊びであればここまでは怒るつもりは無かったのですが、本気であれば話も変わります。サンドベル様お暇させてもらいます。永久に。その本気の女性達とよろしくなさってください」
ママが足元の床を思いっきり音を立てて踏むと床板が縦にせり上がった。
旅行鞄が空中に浮きあがると見事にキャッチして窓から出てった。
この間わずか数十秒。
何で家の床に仕込みカバンがあるの?
アタシもパパもしばらくは無言で……。
「ぬおおおおおおおおお!! アンジュ! 違うんだ、すぐに追いか──あっ……」
「あっ」
パパが腰に手を置き固まった。
ぎっくり腰再来って奴。
前回はママの介護あったけど、ママはいない。
「うおお…………ワシにかまうな。ラビッツ、アンジュを頼んだ」
「頼んだってパパ! ギルド職員のアタシに出来る事って何もないよ!? よくて捜索願い?」
「うおお……クロウベルを呼べ……」
「え。誰?」
あっパパが力尽きた。
──
────
パパを寝室に運んで腰に湿布を張ってあげる。
実年齢は知らないけどパパってまだ60才前なはず。
「はい。パパ……後は動かないように」
「この双剣のサンドベルが何と言う体たらく」
「昔は冒険者だって話だよね、ママが小さい時に話してくれたよ。他にも仲間がいて……他の仲間は皆死んじゃったって」
「ああ、ソニアやカエデ。それにアンジュと共に世界を飛び回ったものだ」
遠くを見るような眼。
「ひ弱なママは皆を世話するのについて回ったんでしょ?」
「…………ごほっごほっ……」
「パパ!? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ……そ、そうだったかなぁアンジュがそう言うのならそうなのだろう、ワシも記憶が」
何か含みのある言い方。
だってママって虫も殺さない性格だよ、こないだもネズミを見てはパパを呼んで対処してもらっていたし。
「それよりもだ。アンジュの弟子にクロウベル。と言う男がいる」
「弟子? え、ママって何かの先生なの? あっママはメイド長をしていたって言うからメイド? でも男っぽい名前だし、後何で名前がパパやスゴウベルさんと似てるの?」
「っ!? げっほげほ……うおおお!? 腰が腰が痛い!! 安静にしていなければっ!!」
パパは突然毛布をかぶってしまった。
こうなると中々出てこない。
「最後に一つだけ。浮気はバレないようにしたほうがいいよ」
毛布からスキンヘッドの頭が出た。
「違うんだ。アンジュとの付き合い記念日に贈物をしたい。と思ってその相談を……恥ずかしくてな」
あー……そういう事か。
素直に話せばいいのに、ママだってパパの事好きなんだろうしさ。
「もう、で……そのクロウベルって人に何を頼めばいいの? もしかしてパパの隠し子?」
すっと毛布をかぶってしまった。
マジで!?
え………あっまた頭が出て来た。
「正直に言うと、息子だ。ただスタン家を追放されてな……表向きには他人と言う事になっている」
「あっじゃぁアタシの義兄……?」
「に。なるだろう。アンジュのお気に入りでな……アレなら居場所や和解をなんとかしてるだろう……いっ……てて」
腰を押さえては毛布に潜った。
へぇ……スゴウベルさんの所でもそんな話聞いた事なかったのに。
どんな人なんだろう。
「その前に有給休暇残っていたかな……お金も」
「…………暖炉の後ろにある金を使いなさい。休みはワシが手配しよう」
「本当!? やったっ!! パパ大好き」
「うおお!? こ、腰が曲がる!!」
あっごめん。
慌てて離れると本当に痛いらしい、動かなくなった。
──
────
鏡を見て全身を確認する。
ママ譲りの胸近くまである青髪、職場からはまぁまぁ上と言われる可愛い顔。
ふっくらとした胸。
魔獣の革で出来た旅用のカバンや魔法防御、素早さアップなどついた衣服の数々。
「さて、じゃっパパ行ってきますー」
寝室から呻き声の返事を聞いて家を出た。
まずは職場である冒険者ギルドから。
つい数時間ほど前に夜勤を終えたアタシが来たものだから数人が驚いてこっちを見た。
ギルドマスターのアカネさんが『忘れ物かい?』と、言う顔だ。
机の前まで言って有給申請と理由を伝える。
「ふむ。ラビッツくんに抜けられるのは痛いが、あのサンドベルさんの頼みであればしょうがない」
「あはは、大丈夫ですよ。アタシが抜けたってコネで入ったんですし」
「ラビッツくん。過小評価だよ、きみの体力や行動力はギルドでも人気なのだよ……しかしきみの義兄か……」
「ええ、アタシ知らなかったんですけどギルマスは知ってま──」
「知らないっ」
「早っ!」
「そ、そうかね? 貴族のお家事情には口を出さない事が生き残る事だよ」
おかしい。
ギルドマスターのアカネさんは貴族同士のイザコザも頼まれてもいないのに首を突っ込む。先日も貴族の家から逃げた女性を保護しては、その貴族相手に立ち回りをしたばっかりだ。
「そうなんですかね。あっママの事」
「ああ……捜索願いを出しておくよ。何かあれば各地のギルドに連絡を入れて置こう」
「はーい。おねがいしまっすっ!」
ギルドの皆にお土産を買ってくるねー。と、挨拶をしては別れた。
最初はどうしよう、やっぱろスゴウベルさんの家かな? フユーンの街まではええっと最短で8日ぐらい。あれ、思ったよりも大変な事!?




