第23話 催眠アプリ実験編!
朝起きるとリーカ会長はすでにいない。
うん。
良かったと思う。
オレは直ぐに起きられない。
考えても欲しい、美人で綺麗で全校生徒からも人気ある先輩と同じ部屋。
うん、元気なんだ……下半身が。
「ふう……スミレ君!」
「ひゃ! はい!!」
「…………どうした? 早く起きた前、怪我の具合はどうかな?」
「え、ええっと。大丈夫です」
「そうか、なら早く身支度をしたほうがいい……朝食を食べに行こうじゃないか。よし固まった体を引っ張ってあげよう」
はい?
リーカ会長はオレに近づくと両手を引っ張る。
てこの原理といんだっけかな、引っ張られたオレはその勢いでベッドから降りると起立。のポーズになる。
「…………」
「…………なるほど? そうか、いや……そうだったな君も男の子だ。ゆっくり用意をするといい」
オレの元気な下半身を見ては、怒る事も悲鳴を上げる事もなく淡々と……リーカ会長は部屋から出て行った。
「死にたい……」
ベッドに座り込むと、お尻に痛みが。
何か固い物を踏んだ感触で手で触ると黒い板。あの捨てそびれたゴミだ。
手に取ってみると文字が見えた。
「古代文字……」
メルギナス母さんから古代文字の読み方は教わっている。
その古代文字が黒いガラス板に浮き出ているのだ。
「サ……イ……サイミンア……プリ? 催眠!?」
アプリはなんだっけ、確かリンゴ? って意味があったような。
それよりも催眠のほうが気になる。
親指で触ってしまったのか目のマークが出てギロっと動いた。
「うわっ!?」
思わず地面に落として凝視する。それ以上何も起きない。
恐る恐る拾い上げると『登録をしてください』の文字が切り替わる。
『生体魔力パターンを登録しました。本日は女神の製品ご利用ありがとうございます。利用規約確認後、催眠を使いたい相手に本製品を見せてください。レッツ催眠』
文字が現れては消え、最後はピンクの画面で目のような形がある模様に切り替わる。
「…………は?」
意味が解らない。
解るけど解らない。
とんでもない物を拾ったんじゃないだろうか。
「いや。あ!! そうか……そうだよな!! クウガおじさんが何であんなにモテるって謎だったけどこれだ!! これを使っていたからモテていたんだ!!」
ずるい。
そう考えれば納得する。
「強いしお金もってるし優しいしけど何であんなに不思議だったんだ。これもあれだ。オレもコレを使ってハーレムを作れって事。こっそり落としてくれたのかな? さすがクウガおじさんだ。オレの気持ちをわかってると言うか……卒業前に遊んで来いってメッセージだ」
「何が解るんだい?」
「そりゃもちろおおおお!! リーカ会長!?」
自然に声をかけられて思わず声が裏返る。
「そんなに慌てて……中々来ないから様子を見に来た。くんくん……匂いはない。早かったかな?」
「な。何の話です!」
「何って男性の──」
見せるなら今だ!!
「それよりもこれを《《見て》》ください!!」
「何だい? 《《見たよ》》」
話が終わってしまった。
催眠アプリを見たリーカ会長は不思議そうな顔で、会話を続ける。
「今日から馬車を乗り換えるからね、君も朝食を早く食べるといい。私は少し冒険者ギルドいるから、訓練がしたいからね」
「はぁ……行ってらっしゃい」
部屋から出て行ってしまった。
え。これだけ?
催眠術ってエッチな事出来るんじゃないのか? クウガおじさんが使っていたんだ。何か手順があるかも。
ええと。どこで戻るんだろ? ガラス部分を何度も触っても何も起きない。
──
────
馬車は王国へと進む。
狭い馬車の中で静かに外の景色を楽しむリーカ会長。
オレは反対側の端っこ座っては思考を巡らす。
「おやおや? 何を難しい顔をしてるんだい?」
催眠アプリの事です。とは言えない。
「あの。今朝の板は見ましたよね?」
「今朝……? ああっ見たね。裏表のガラスケースのようで片方は目の模様かな? へんてこな物体だ」
見せた事は見せている。
メルギナス母さんがいればもっと詳しくわかるかも……あっ駄目か、メルギナス母さんに催眠アプリの事を聞くわけには……じゃぁ親父? これもだめかな。親父に聞いたら取り上げらそう『こんな面白い玩具を』って。
「昨日から変だね。何か悩み事があるなら聞くだけは聞こうか。君は卒業後シンシアさんと暮らすんだろ?」
「え!? オレがですが!!」
「違うのかい? 恋人なんだろ?」
「それはまぁその……そこなんですよね。オレがシンシアさんを連れて来た。ってのは聞いているんですけど……恋人時代の記憶が無い。と言うか」
「すまないと思ううよ。校長とはいえ身内には違いない、その校長が魔女特製、忘れ草を調合したのを飲ませたらしいからね」
忘れ草?
聞いた事あるような無いような。
「2年前の授業で教わってるはずだよ。忘れ草。一般流通は禁止されている素材の一つ。煙球に入れて使うと相手の行動を一瞬だけ遅らせる事が出来るアイテムに使われたり。まぁ魔力の高い魔物にはあまり効かないし、数秒で思い出すからあまり効果はないが……師のように強ければ襲われたとしても先手を取れるだろうね──」
あー! 思い出した。
同室のフレンスが教えてくれた事件に使われていたっけ。
クラスメイトの女性に使って胸を触ったりして、忘れ球を使いイタズラをした事件で……あの時はジュースにまぜて……特定の言葉を言う。だっけかな。
「──逆に全てを思い出す薬にもなる。この辺は将来錬金術師を目指さないと……って聞いているかい?」
「え?」
うわっリーカ会長がちょっと怒ってる。
ちょっと試してみよう、違ったら怒られるだけだし、冗談って事で。
「聞いていますけど、ちょっとリーカ会長これを見てください」
「何だい? なんだ、今朝見た──」
「動きを止めて」
「………………」
うわっ止まった…………なんてね。これリーカ先輩の冗談かも知れない。
「え、あの……冗談です。リーカ会長……いやだなぁ。その」
──
────
「ねぇ! 動いてください!! オレが悪かったですって!! ねぇ」
動かない。
景色が切り替わってもリーカ会長は石像のように動かないのだ。
あと、胸は柔らかかった。
……そうじゃない。
先ほど、御者の人が『昼休憩です』とノックしてくれたけど馬車の中で食べるから!! とお弁当を貰った所だ。
そのお弁当さえも手を付けてない。
いっその事、催眠アプリと言う奴を壊そうかと思ったけど壊し方もわからないし一生リーカ会長がこのままだったらもっと大変だ。
「どうやったら…………あっもしかして」
リーカ会長の何も見てないような目の前に催眠アプリを持って行き命令する。
「動け」
「──変な板を……っ!? スミレ君!! 御者!! 馬車を止めろ!!!」
リーカ会長が怒号を放つ。
すぐに馬車は速度を落として緊急停車する、速度が遅くなる前にリーカ会長は馬車から飛び出た。受け身を取りながら地面を転がると素早く周りを見て警戒しだす。
オレも馬車から飛び出ると慌てて駆け寄る。
「………………」
「………………あの?」
「………………寝ていた? いや、それにしては場所が違う。違和感がなさすぎる……王国の罠……精神系の攻撃、何時から……」
「あの!」
「スミレ君か。君は大丈夫か? 何か変わった事が……そうだ! スミレ君。私は変だったかい?」
やば。
非常にまずい。
うん、駄目だ。謝ろう。
「ごめんなさい! リーカ会長。これのせいです!」
オレは催眠アプリを見せる。
「普通の変な板だね。いやスミレ君。私は冗談を言っているわけじゃない。先ほどまで私は何をしていた!?」
え? とても冗談を言っているようには。
もしかして催眠アプリの事を記憶から自動的に排除……?
「スミレ君?」
「はっはい! ええっと……リーカ会長はずっと寝てました」
「……寝ていた……か。はっはっはっは」
突然笑い出した。
そして顔がちょっと赤いように見える。
「ごめん。寝ぼけていた……あまり顔を見ないでくれ。これでも攻撃されたと勘違いし、周りに迷惑をかけた失敗を気にして照れているんだ」
「は……い……」
セ、セーフ!!
なのかな。




