美醜の価値って場所が違えば違うものなのだろう
必死に両腕で胸を隠すレイちゃん。ちょっと涙目で私の方を見てるの可愛い…って待て!これじゃまるで私が変態みたいになってないか!?
至極真っ当なことを今更思った私は、そっと先程まで私が着ていたシャツを頭からかぶせ『あとは自分で着れるよね?』と菩薩の様な微笑みを浮かべつつそっと背を向けたのだった。下心はないよ!大丈夫だよ!変な顔してないでしょ!
ここまでされたからなのだろうか?レイちゃんはその後、何か悟りを開いた様な表情をしながら身支度を済ませていた。変質者に襲われた美少女みたいな気分になってないといいけれど…。
振り返ってるじゃんって?違うよ?ちょっと横目にチラチラ見てただけだよ?大丈夫だよ?
まぁ、これで少しだけど肌の痛みは少なくなるだろうしいっか!私はそう思う事にした。
朝から何だかんだとやっていたせいで少し日が登ってしまったけれど『どうせ途中でまた野宿するんだしいっか』と脳内を切り替えることに。
あー、今回は採取ばっかりしたらダメなのが悲しいところだなぁ…いや、食糧になりそうなのは収穫するけどさ。
「準備…できました…」
何故か半笑いで右斜め下を見ながら話しかけてきたレイちゃん。そんな顔も可愛いです!
「よし、じゃいこっか」
そして声かけと同時に私はレイちゃんの右腕をつかみ、何だと不思議そうな表情をしつつ私を見上げているレイちゃんを…勢いよくお姫様抱っこした。
「…へ?」
驚愕の表情をした後、赤面するレイちゃん。
そんなレイちゃんに向かって一つ微笑んだ後、私はその枝から飛び降りた。
「うわぁああ!」
「よっ…っとぉ」
建物の二階程度の距離なら、ジャンプからの重力魔法でいける事を昨日知ったので、私は怖がらずに降りる事ができたのだが…レイちゃんはそうでは無かった様だ。
地上へ着地してからレイちゃんを下ろすが腰が抜けた様でその場に座り込んでしまった。
「ごめん!高い所あんまり怖がって無かったから大丈夫かと思って」
「い、いえ…あの、突然だったので…。次からは一言お願いします…」
◇
僕は本気で、心から、もう駄目だと思った。
全身なんて、痛い所が無いぐらいどこもかしこも痛くて、こんな時でも何故か村の人達の顔を思い出しちゃって、心も痛くて、ほんとどこもかしこも全部…痛かった。
痛くて痛くてたまらないのに、目の前の魔物は僕を更に痛め付けようと近寄ってくる。
いやだ。来ないで。痛い。怖い。痛い。怖い。
そんなことを思いながら爪で地面を抉った。
無力な自分が悔しかった。
僕を捨てた母を思い出してしまう自分が嫌だった。
他の兄弟を妬んでしまった自分自身が悲しかった。
腹が立った。悲しかった。寂しかった。辛かった。安心した。落胆した。
こんな自分に反吐が出た。
月の光を背にした魔物はとんでもなく大きくて…この後に来る痛みを思い、僕は目を閉じた。
「誰か…助けて」
最後に出た呟きはほとんど無意識に出たものだった。
誰に届くなんて考えても無かった。
この状況が好転するなんて考えもしなかった。
けれど…
ードン…ズシン…
「え…?」
それは突然の出来事だった。
少しの風圧と何か重いものが倒れる様な音がして、僕は目を開けたんだ。
目を開いた時、一番初めに目に入ったのは月夜に輝く漆黒の長い髪だった。
それを目にした瞬間…僕は、一瞬だけ、全てのことが頭から抜け落ちた。
痛いだとか苦しいだとか人の顔だとか全部が全部僕の脳から消えてしまったんだ。
それ程に美しかった。
そしてその美しい黒髪の人は、瞬き程度の時間で魔物を倒し、消し去ってしまった。
その光景は御伽噺に聞く勇者様の様で…僕はもう既に死んでるんじゃ無いかと思い、上半身を起こしてみたけど、やっぱり現実で、凄く痛かった。
揺れる黒髪をぼうっと眺めていると、その人は僕の方へ振り返り…
その瞬間、僕の時間は止まった。
長く艶やかな黒髪に漆黒の瞳、控えめな鼻にぽってりと分厚い唇、赤ん坊の様にまあるい輪郭…そう、神様が丹精込めて作り上げた様な美女が、僕を見ていた。
それからはちょっとよく覚えてない。
何だかよくわからないうちに木の上まで連れて行かれて、よくわからないけど二人で寝ようっていわれて、気付いたら女神の様な美貌を持つ女性が僕の肩に寄り添って寝ていた。
いや、覚えてる。
彼女はセイラって名前で、僕はレイって名前で、なんか似てるねって言われて微笑んでくれたんだ。
…。ゆめ…では無いんだよね?
僕はセイラを起こさない様にそっと自分の頬をつねってみたけれど、やっぱり痛くて、何だか少し…涙が滲んだ。
セイラは僕に一緒に行こうって、旅に出ようって、そう言ってくれた。
こんな、こんな…親にも捨てられちゃうぐらい醜い僕に優しくしてくれた。
村から追い出されたって言っても、僕のことを気遣ってくれるだけで悪口とか嫌がるそぶりなんて全く無かった。
…勘違いじゃなければ少し怒ってくれてた様な気もするけど、流石にそれは思い違いだよね?
僕はその後、セイラが起きるまでずっと、何度も何度も夢じゃ無いか確認しつづけた。
そして、夢じゃ無いって脳が理解した頃には、嬉しくて、恥ずかしくて、心がぽかぽかして…疲れたこともあって気付いたら寝てしまっていた。
そういえば寝る直前にふと思ったんだけど、セイラ…僕のこと、女の子って、思ってる?…いや、まさかね?




