【大会】決戦のブレイブスター
『ねぇ、団体設立から3年もたつのに、ベルトがまだ無差別級シングルの一本しかない、ってのはちょっといただけないんじゃないの?』
少し時は戻り9月下旬の興行で、リリス渡部がぶち上げた。これに同意する面々が、リングサイドに集まってくる。そしてその中から、望月登子がいち早くマイクを握った。
『同感だね! 無差別級、結構。誰でも挑戦できる、大いにありだな。でもな、その誰でもは、今は半分は重量級の外国人が挑戦者になってるベルトじゃねーか? 満たされないんだよ、こっちは!』
リングサイドのレスラーから、そしてつられた会場の観客から、拍手が巻き起こる。
興行本部長の尾崎正一がリングに上がる。
『お前たちの不満は分かった。それで、具体的に会社に何を要求する?』
すぐに望月が反応した。
『最初に渡部が言っただろ、ベルトだよベルト。そうだな、若手用の……いや、違うな。中軽量級用のベルトを作ってくれ』
渡部も続く。
『渡部さん、でしょ望月。さんをつけなさい、さんを。んで、あたしの要求としてはタッグベルトも欲しいところだけどね? ああ、でも~、中軽量級も欲しいな~? だめ~? 本部長~?』
渡部が身をくねくねとくねらせながら尾崎本部長に迫る。
『やめなさい、私には妻も子供も……いや、ごほん、そうじゃなくて! いいだろう、会社としてもそろそろ頃合かと思っていたところだ。中・軽量級用のシングルベルト、設置しようじゃないか。会社選出の8名によるトーナメントを行い、10月に1回戦と2回戦、そして11月3日のレギオンアリーナ大阪で決勝戦を行って初代王者を決める! また、タッグベルトについても協議のうえ、近いうちに結論を出す! これでいいな?』
渡部は満足したように頷くと、不意打ちで尾崎の頬にキスをして逃げていく。リング下の望月他もそれならばと納得し、バックステージへ引き上げていくのだった。
後日。シャングリラの公式ブログに、エントリー選手の発表があった。
シャングリラブレイブスター初代王者決定トーナメント
Aブロック
リリス渡部 vs アヤメ
MACHIKO vs リリィ・リベラ
Bブロック
前田麗子 vs 海原まりん
望月登子 vs オリビア
10月18日、神戸ダンボーホール
トーナメント1回戦
リリス渡部 vs アヤメ
新設される軽量級のベルト、その設立の口火を切ったリリス渡部が初戦に登場。対するはシャングリラ2期生のアヤメ。距離をとって飛び技で攻めたいアヤメだが、渡部が密着間合いでの絞め技や投げ技を中心に組み立てるためペースが握れない。インサイドワークの差を見せ付けた渡部が、最後はアナコンダ・バイスで締め上げてアヤメからギブアップを奪った。
○リリス渡部 (8分12秒、アナコンダ・バイス) アヤメ×
MACHIKO vs リリィ・リベラ
リリィ・リベラは業務提携のあるメキシコの団体「MWA」からの招待選手。メキシコ流のサブミッション、通称ジャベを得意とする赤髪が特徴的な新鋭である。そのリリィに、まずはお手並み拝見とばかりに腕の取り合いを仕掛ける。MACHIKOも関節技、グラウンドテクニックには自信を持っていたが、リリィがそれを上回る動きを見せて会場を沸かせる。
MACHIKOは目潰しやチェーン攻撃などの反則技でペースを握り、リリィは額から出血しての大苦戦。しかし一瞬の隙を突いた丸め込みで3カウントを奪ったリリィが、2回戦に駒を進めた。
○リリィ・リベラ (9分31秒、スカイデ・スクールボーイ) MACHIKO×
10月19日 京都SBKホール
前田麗子 vs 海原まりん
優勝候補の前田に、アイドルレスラー海原が挑む形。スピードを生かした前田の攻めに押される海原、ドロップキック連打や渾身のエルボーバットで食らいつく。それでも前田の有利を崩すことができず、最後は前田のバルキリースプラッシュに沈んだ。
試合後に前田はマイクで『なんでこんな弱いのがエントリーされてんだよ』と悪態をつくのだった。
○前田麗子 (9分57秒、バルキリースプラッシュ→体固め) 海原まりん×
望月登子 vs オリビア
ゴング直後、望月がオリビアの頬を強烈に張り飛ばすと、お返しとオリビアが右フックを叩き込む。いきなりの激しいぶつかり合いで始まった試合は、バチバチの打撃戦へ。
望月がしつこくローキックを放ち、オリビアの脚を奪う。膝を突くオリビアの胸元へ、強力なミドルキックが飛んでオリビアは後方へ勢いよく蹴り倒された。このとき頭を打ったオリビアの動きが止まってしまう。ふらふらのオリビアを捕まえた望月がツイスターでとどめをさした。
○望月登子 (11分33秒、ツイスター→体固め) オリビア×
10月21日 広島産業館
トーナメント2回戦
リリス渡部 vs リリィ・リベラ
開始早々、リリィがウラカン・ラナで渡部を丸め込み、これがあわや3カウント。心底焦ったという表情でリリィから距離をとる渡部。そこにリリィのドロップキックが決まり、渡部は場外へ。リリィはそこに向かって助走をつけると、セカンドロープを蹴った反動で舞い上がってのトペ・コンヒーロ、通称「ミッション・インポッシブル」を放って会場を沸かせる。
渡部もやられたままではいられない。コーナーにもたれかかってリリィの対角線攻撃を誘い、それを捕まえてコブラツイストで絞め上げる。そこからグラウンドコブラへ移行してフォールするが、これはカウント2でリリィ返していく。
体格の割りにパワーもある渡部、前後からのラリアットでリリィの動きを止めると、ダブルアームで持ち上げてそのまま真下に叩きつける危険度の高いパワーボム、「ヘルスマッシャー」を放ち、勝負をかける。しかしリリィ、これをカウント3直前ギリギリで肩を上げる。ならばもう一発、と持ち上げようとするが、リリィはこれを振りほどいて渡部に十字固めのように背後に飛びつき、さらに腕を放して振り子のように前方に回りながら丸め込む、リリィ・ラナで渡部をフォール、この切り返しに対応しきれなかった渡部は、決勝を前に3カウントを聞くこととなった。
○リリィ・リベラ (14分50秒、リリィ・ラナ) リリス渡部×
「好調ね、リリィ」
控え室に向かう通路の途中で、リリィは声をかけられた。その声の主はレイナ・シエロ。リリィとはシエロがメキシコ修行をしていた時に出会い、対戦をしたことも組んで戦ったこともある間柄だ。
「グラシアス、シエロ。でも厳しい試合だったわ。特に最後のは効いた……」
後頭部に当てていた氷嚢を見せつつ苦笑するリリィ。
「ヘルスマッシャーねぇ。よく返したと思うわ。私もあれにやられたことあるけど、ほんとキツいのよね」
シエロはそのときの衝撃を思い出すかのような仕草を見せた。
「マットの硬さがメヒコと同じだったら起き上がれなかったわね、きっと」
「まあ、分からなくも無いわ。メキシコマットは本当に硬かったからね」
「それはともかく。おたくのドーラを破った責任は取るから。優勝することで、ね」
自信ありそうに胸を張るリリィ。シエロはにやりと笑う。
「次、どっちが来ても強いわよ」
「上等よ。マリー・リベラの娘にして一番弟子、このリリィ・リベラの真価を見せてあげる」」
前田麗子 vs 望月登子
経験、人気、そしてなりより実力。このたびのトーナメントでこれが揃った選手を上げろといわれれば、十人中八、九人が前田麗子を挙げるだろう。それくらい前評判は前田にあった。いくらホープの望月とはいえ、まだ前田にはとどくまい、と。しかし、試合は意外な展開を見せる。
序盤こそ前田のスピードに翻弄されていた望月だが、対オリビア戦でも見せた強烈なローキックの連打、さらにはアキレス腱固めや膝十字などの関節技を駆使して前田の足を止めていく。そして前田の足が止まったところで強烈な左ミドルキックをその胸板に叩き込み、さらに左ハイキックへと繋ぐととうとう前田はダウン。望月フォールにいくが、ここは前田根性で肩を上げる。
攻め込まれる前田、望月は一回戦で見せたツイスターでフィニッシュを狙う。が、ここも前田はギリギリで返す。苦しい時間が続く前田。それでも反撃の機会は来た。望月の水面蹴りをジャンピングキックでカウンターし、今度はお返しとばかりに膝立ち状態の望月の側頭部へ蹴りを放つ。ゆらり、と倒れる望月に覆いかぶさる前田。今度は望月が根性を見せてカウント2.5。両者とも五分のダメージの様相だが、先に立ち上がったのは前田。望月を引きずり起こして抱えあげ、必殺のエクスカリバーで望月の脳天をマットに突き刺し、フォール。これで試合が決まった。
○前田麗子 (17分29秒、エクスカリバー→片エビ固め) 望月登子×
結果だけ見れば順当な、しかし内容はとても順当とはいえないものとなってしまったことに、麗子は悔しさをにじませて通路の壁を殴りつけるのだった。それを見つけた豊嶋奈美が、麗子を控え室に引っ張り込んだ。
「お疲れ様」
「奈美、あんたねえ。まあいいわ、あ~、きつかった……」
「そうね、登子があんなに強くなっていたなんてね?」
首をかしげる奈美に、麗子はジト目を向ける。
「あんた薄々感じてたわね?」
「そうでもないわよ?」
とぼけているのか本気なのか区別がつかないのが、豊嶋奈美のいいところであり悪いところだった。
「もういいわ、毒気抜かれちゃったじゃん。タオル頂戴」
「はいはい」
「はいは一回」
「は~い」
11月3日 レギオンアリーナ大阪
シャングリラブレイブスター初代王者決定トーナメント決勝
リリィ・リベラ vs 前田麗子
「さあ、いよいよ新設タイトル、ブレイブスターの初代チャンピオンを決定する時がやってまいりました。Aブロックから勝ち上がったのはメキシコからやってきた新鋭、18歳にしてキャリア5年を持つリリィ・リベラ選手。一方のBブロックからは大本命、前田麗子選手が勝ちあがってまいりました。どちらが栄冠を手にするのか、注目の一戦がまもなく始まります。どうですか吉田さん!」
「そうですね。前田選手は下馬評通りの勝ち上がりですが、準決勝で望月選手に予想以上の苦戦をしていましたから、この試合への気合は十分でしょう。リリィ選手は、初めての日本マットであっぱれの活躍ですよね。リリィ選手はお母さんが古流ルチャの達人でコーチとしても実績のある方なので、サラブレッドなんですよ。その自負を見せ付けられた気がします」
「そうですね! さあ、ゴングです! おおっと前田選手いきなりのドロップキック、さらに起き上がろうとしたリリィ選手へサッカーボールキック! 速攻を仕掛けてきました!」
「力の差を見せ付けて勝ちたい、という想いでしょうか」
「なるほど! さあコーナーに押し込んで、対角線から走りこんでエルボー! さらにニールキック! これは強烈、リリィ選手崩れ落ちる! 早くもフォールへ、おおっとしかし逆にリリィ選手が丸め込んでフォール! カウントは2! ギリギリでしたね吉田さん!」
「はい、リリィ選手は丸め込みが上手なので、押していても油断できないですよね」
「そうですね吉田さん! さて前田選手、距離をとります。」
キックを中心に試合を組み立てる前田に、リリィはそれをかいくぐってグラウンドへ持ち込もうとする展開が続く。見たことの無いメキシカンストレッチの数々に、会場からは大きな歓声が起こった。
「メキシカン、ルチャといえば空中殺法のイメージですが、実はグラウンドも上手な選手が多いんですよ。なかでもリリィ選手の系統は複雑な複合関節技、ジャベっていうんですけど、日本人には使い手が少ないその技術で盛り上げていってますね」
「そうですね吉田さん! おおっと、コーナーに振られたリリィ選手、そのままトップロープまで駆け上がってムーンサルトアタックで反撃! 空中殺法も素晴らしいですね!」
「ジャベ以外にもいろいろできますね」
しかし前田も負けてはいない。リリィのフライングボディプレスを膝剣山で迎撃すると、バイシクルキックやソバットなどを放ってダメージを与えていく。
「ダメージはリリィ選手の方が大きいと思いますが、要所で丸め込みを使って流れを断ち切っていますね。ただ、前田選手もそろそろ試合を決めようとしていますよ」
「なるほど! おおっと、前田選手のニールキックが頭部に命中! 膝から崩れ落ちるリリィ選手、しかしまだ倒れない! 膝立ちで耐える!」
「あっ、これは……」
「ここで、前田選手がリリィ選手の側頭部へ強烈なミドルキック!」
「これは望月戦でも見せてましたね、大きい一撃ですよ!」
「さあフォールへ、カウントが入る! カウント3! 決まりました、トーナメント優勝は前田選手! 大きくガッツポーズを見せる前田選手に、会場から惜しみない拍手が送られています」
「トーナメント前のコメントでは、余裕で優勝するだろうし、しなきゃならないと思っている、と言っていた前田選手。プレッシャーも大きかったでしょうが、それをバネに変えて苦しい戦いを制しました」
「そうですね吉田さん! おっと、前田選手がマイクを持ちます」
大きく息を吸い込んだ麗子は、ベルトを掲げて叫んだ。
『みたか大阪! この前田麗子が、優勝だーー!』
これに会場も足踏みと拍手で応える。
『正直、もっと楽に取れると思ってた。でも、苦しかった……。みんなのことをなめてた、それは確かね。謝るわ』
静まる会場。
『でも、それでもベルトを掴んだのは私。この前田麗子よ。初代王者の責任として、このベルトの価値を高めてみせる! みんな、応援よろしく!』
おーっ、という歓声が沸き起こる。
『まだまだ今日の興行は続きますが、私から皆さんにお礼を。本日はご来場、ありがとうございました! この後も、シャングリラで盛り上がれー!』
大歓声と拍手が会場を満たす。鳴り止まぬ拍手の中、前田は手を振りつつリングをあとにした。
最後に試合を決めたキックは、この技で栄冠を掴んだことからキック・オブ・グローリーと名づけられたのだった。
○前田麗子 (15分6秒、キック・オブ・グローリー→体固め) リリィ・リベラ×
※前田麗子がシャングリラブレイブスター初代王座を獲得
キャラクター名鑑 vol.15
リングネーム:前田麗子 本名:前田麗子 身長:158センチ 階級:中量級
出身:広島県 スポーツ暦:テニス
得意技:バルキリースプラッシュ、エクスカリバー、キック・オブ・グローリー
概要:抜群の運動神経と、地元の美少女コンテストで優勝したこともあるルックスを持ち、マイクパフォーマンスでも会場を沸かせる。空中殺法とキックを操るスピードスター。豊嶋奈美とは大日本女子で同日デビューした仲で、タッグチーム『ファニーウィングス』を組む。プライドの高さが長所であり弱点。




