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page36 愚劣なる兵器

「まずはこの雑魚共をまとめて片付ける。お前も手伝え」


「はいはい」


忍者ゾンビがどこにいるのかは分からないが、少なくとも雑魚ゾンビの動き的に膠着を狙っているのは分かる。

俺達を不意打ちするならもう少し派手に動かすはず。つまり今この場にはいない。


そうと決まれば話は早い。

ここにいるのは何の後ろ盾もない雑魚そのものであり、そんな奴らを討伐するのに後れを取るほど調達者(プロキュラー)は軟じゃない。

とにかく斬って、斬って、斬る。


「ふう、早く終わりましたね。それでこの後は?」


「こいつを使う」


懐から取り出したのは、小さく黒い球体の物質。中心には稲穂を模った紋章。

基地にいた人ならだれでも知っている。これは穂村の特製爆弾だ。


「威力は勿論、音と粉塵も派手に散る。嗅覚頼りの雑魚はこれに引き寄せられるし、忍者ゾンビも動きは止まるはず」


「成程。でも、これをどうやって当てるんですか?」


「当てるんじゃなくて、誘き寄せるんだよ。ビルの屋上で派手な爆発が起きれば誰だって驚くだろ?」


俺達は耳に付いた通信機であらかじめ連絡を取れるが、そうでない奴らは咄嗟に起きた大爆発に気を取られること間違いなし。

本当はその隙に狙撃でも出来たら良かったが...今はしょうがない。


「とりあえず、そこのビルに入ろう。お前はどこか隠れられる場所で休んどけ。俺が設置しとく」


「......あの、このビルって見た感じ一〇階はありますけど、階段で上がるんですか?」


「エレベーターもエスカレーターも無いしな」


正確にはあるのだが、通電していないのでエレベーターはただの箱だしエスカレーターは階段と大差ない。

幸いそこまで広いビルでもないので、階段を見つけやすいのが助かる。


「全力で階段を駆け上がって、爆弾設置して、起爆してってなると、最低でも五分くらいはかかりますよね。あっちの皆さんは既にやられてないですかね?」


「ああ大丈夫。ブルーが別行動を開始した」


さっき通信で、ブルーのみ別行動で忍者ゾンビとタイマンすると言っていた。

忍者ゾンビの狙いの一つはブルーの確保。つまり彼女が単独で動き出したら、奴もそっちへ動かざるを得ない。

そうなると、離脱組の相手は大量の雑魚ゾンビだけになる。


「じゃあ勝てるんじゃないですか? ブルーって人、私達より強いですよね」


「そりゃ面と向かってヨーイドンなら勝てるかもしんねーが、忍者ゾンビが素直に対面する訳ねーだろ」


ブルーを除く離脱組も、武器屋達非戦闘員を守りながら戦うのは想像以上にきついだろう。

足手まとい、とは思わないが、拳銃でのサポートしかできないと迫られた時どうしようも無くなってしまう。


それに、この爆弾を早くに手放した方がいい気がした。

勿論誤爆とか不発の可能性はあるのだが、この紋章を見てるだけで胸の奥が何かで刺されるような居た堪れなさがある。

きっと、あの日爆発したのもコレなのだろう。


「んじゃ爆弾を設置してくるから待ってろ」


すっかり錆びついた階段を勢いよく駆け上がる。

カン、カン、カン、と軽快な音が静寂を騒がせた。この音にゾンビが気付かない訳がないので、多分このビルにはゾンビはいないか、いても数体だろう。


四階まで一気に駆け上がり、その足を少し止める。


息を一つ、また一つと身体に入れるたびに、考えないようにしていた激烈な痛みが身体を巡るような気がした。


「......っ痛ぅ.........!!」


忍者ゾンビの不意打ち。

ギリギリ完璧に避けたと思っていたが、僅かに脇腹を掠っていたらしい。

抉られたのはほんの数ミリ程度。それでこの痛み。奴の猛毒を完全に舐めていた。

というか安静にしてたとはいえ、脇腹を抉られてなお戦闘に参加していた菊池も相当おかしいと思うんだが。


後輩の前で悶えるのはみっともないと思って我慢してたが、流石に限界が来たようだ。

それでも脇腹を握りつぶすように強く抑え、別の痛みで上書きする。


まだ、止まるわけにはいかない。


「早く......行かねぇと......」



★★★



「よお、脱走兵サマのお出ましだよ」


「......」


黒金と菊池、離脱組とはまた違う、こじんまりとした屋外駐車場。

その中央に、ブルーが仁王立ちしながら虚空に話しかけている。


「...アイツはさ、未だにゾンビを作り続けてるのかい?」


「......」


その声色は、昔を懐かしむようなものでも憎しみにとらわれたようなものでもない。

まるで全く別の視点からこの物語を俯瞰しているような、神の視点に立ったような。

それが妙で、忍者ゾンビは隙だらけの彼女に手を出せないでいた。


それほどまでの理性を彼が持っているのは、きっと彼がブルーと知り合いだったことに起因している。

ゾンビとしての知り合いではなく、()()()()として。


「人間は、死者を蘇らせることはできない。作れるのは理性を失ったゾンビ(バケモノ)だけ」


「......」


その言葉は、若干の皮肉が混じっているように読み取れるだろう。


「アタシ達が間違ってたんだ。そんな研究、早くやめるべきだった。


だけど、アイツはやめられなかった。むしろ、妻を失ってからより死者蘇生の研究にのめり込むようになっちまった。

妻の産んだガキをもほっぽり出して、金も人脈も時間も全て使って、できたのが妻を模った化け物。


そりゃ発狂もする。気持ちは分かる。

だからこそ、アタシがその化け物とアイツを殺して終わらせないといけない。

全部殺して、アタシも死ねばいいだけだ。

()()()の世界は終わらせた。此処もすぐ終わらせよう」


瞬間、響く轟音。

屋根を貫く瓦礫。割れる硝子。硝煙の臭い。


「(何ダ...? 今の爆発ハどコデ起キた...!?)」


忍者ゾンビの逡巡はほんのわずかな時間のみ。

だが、彼はその分析に気を取られ、自身の()()()()()()に砂埃が付いている事に気が付かなかった。


「せめて、安らかに」


その決着がつくのに、そう時間は掛からない。



★★★



「くそっ、アイツはなんなんだ」


時はほんの僅かに遡る。


藤堂、荒川、矢田、古村、早川、蓮堂、そしてサラ。

彼らは離脱組として黒金達と距離を取り、ゾンビの戦力を分散させる。

分散させたところで更にブルーが別行動。ゾンビ側の一番の目的であろうブルーを単独行動させることで、更に敵の戦力を削ぐ。


作戦は順調に進み、離脱組の元へ向かってくるのは雑魚ゾンビのみ。

そのはずだった。


「あのゾンビ、なんであんなバカデカい斧なんか持ってんだ!」


蓮堂の叫び通り、雑魚の中に一匹だけ妙に目立つ奴がいる。

姿形はちょっと背が高いだけの普通のゾンビ。だがその手に持つのは二メートルは届くであろう斧。


ゾンビは知性諸々を削ぎ落されている代わりに身体能力が強化されている為、無理なく大斧を振り回してくる。

斧らしく威力はコンクリに穴を空けるほど。まともに喰らえば真っ二つだ。


「俺がやろうか?」


「いえ、私がやります。皆さんはサポートお願いします」


サラがごくりと唾を飲み込み、斧ゾンビの前に立つ。

手に持つは亡き先代から受け継いだ長刀...ではなく、それを自分なりにリチューンしてもらった新武器。


長刀はリーチはあるがサラの身長では振り回しづらく、取り回しが悪い。

なのでその刀身をエンジニア達の手によって溶かし、様々な物質を混ぜ合わせ、不純物を取り除いて再構築。

出来たそれは刀としてみればあまりに歪。サラ流のレイピアと形容した方が正しいだろう。


「(葛城さんの形見を私自身が潰した。その代価は、私の身を以って払う)」


その突きは、火力を最低限保ちつつ異常とも呼べる速度から繰り出される。

あれだけ猛威を振るっていた斧ゾンビが、サラの猛攻に耐え切れず徐々に守勢、劣勢へと移る。


斧の一撃は強力だが、振るうには腕が必要。

肩の関節を突きによって潰してしまえば、後は木偶の坊とそのもの。

防具によって守られているが、細く鋭いレイピアなら攻撃を通すのも容易。


「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!」


半ば自暴自棄になった斧ゾンビが、サラに噛みつこうと捨て身の一撃を仕掛ける。

その瞬間、遠くに見えるビルから耳を劈くような轟音が鳴り響いた。


瓦礫、煙、崩壊。生ぬるい風が頬を撫でる。

ゾンビも、人間も、誰もがその動きに一瞬ラグが入る。

眼前の標的から目を逸らさなかったのは、白珠サラただ一人。


「私はもう、止まらない」

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