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page35 知性勝負

しばらくこちらの様子を伺っていた忍者ゾンビ(仮称)だが、突如足に力を籠めるように重心を下げた。

多分これは何かの攻撃を繰り出す合図。


「来るぞ、全員警戒」


この距離から攻撃となると、奴の能力は狙撃や銃撃がメインか?

いや、それだと距離が遠くて狙いも定まらないはず。第一足に力を入れる予備動作と噛み合わない。

足に狙撃銃でも仕込んでいるのか? 無くはないが、それなら機動力は低いから逃げ切れる。

わざわざ雑魚ゾンビを囮に使ったという事は奴の能力は不意打ちメイン? だがこの距離から不意打ちは難しいはず。それに不意打ちをするならそもそも姿を現さないだろう。


「......っ消えた!?」


奴の姿が、一瞬にして消滅した。


どこ行った!?

ボスか何かに報告か?

それとも不意打ちか?

答えは──────


「ぎゃッ」


菊池の短い悲鳴。

振り返ると、彼女の脇腹が刃物で貫かれていた。


「テメェッ!」


すぐさま斬りかかろうとするも、忍者ゾンビはまたもや姿を消す。

俊足で移動しているのか、光学迷彩か何かで姿を消しているのか判断が付かない。


「菊池、大丈夫か!」


膝を突いた菊池に駆け寄る。


「大丈夫です、急所は外しました。ただ神経毒がナイフに仕込まれてる可能性はありますね」


口から血を垂らしながらも、彼女の目に灯る光は消えていない。

咄嗟に急所を外す反応力といい、毒の可能性を考慮する分析力といい、意外にも冷静だ。


ただ、敵に狙われているこの状況では適切な治療は望めない。

どうにかして菊池だけでも逃がしたいが、這い寄るゾンビ達がそれをさせてくれない。


「固まってると不意打ちにやられる。ここは数名だけ残して戦線から離脱しよう」


同じく冷静な藤堂さんの指示が光る。


「戦力分散はマズくね? 各個撃破で終わらない?」


「いや、それが狙いだ」



☆☆☆



「(さテ、例の基地カラ出た生き残リだガ...)」


先程刺シタ女と、薙刀を持っタ男一人。男は見ルカらに相当な武人ダナ。

二名だケ残シテ後は線路沿いに走っテイッタた、カ...。


単純に考えレバ、二人は囮。

逃ゲタ方を追っテ他の兵達と共二殲滅スルのガ正しイ選択肢。アノ女モコこで殺さネばナラない。


ダガ囮なラ負傷した女ダけでイイ。

なラバ男の狙イは何だ? マサかこチラを待チ伏せてイルノか?


わざワザ奴の作戦に乗ル必要は無イ。

まずは囮ト逃ゲタ集団の両方二、部下の兵士達をケシかケる。割合は...二対八クライか。

消耗戦ノ後疲弊した集団カラ先に仕留メルのがべすト。


いヤ、兵士程度では先程ノ戦いヲ見た限リ薙刀男を止めラレナい。

兵士達に紛レ、素早く討ツ。

ナいふニは毒も仕込ンデある。一度刺セバ私の勝ちダ。


奴ラヲ絶対に逃シハしナい。

全テはアノ方の為ニ...。



☆☆☆



「ゾンビが来ました! 全方向から合計八体!」


菊池の言葉通り、物陰に隠れてたであろうゾンビ達がわらわら湧いてきた。

しかも普通のゾンビと違い、手には刃物が一つずつ。毒が塗ってあるのかは分からないが、どちらにせよ当たらないに越したことは無い。


「ウ"ウ"ウ"ウウ"ウア"ア!!」


「邪魔だっての」


意気揚々と飛び掛かってきたゾンビの突きをステップで躱し、ガラ空きの首に薙刀を振るう。

汚い断末魔と一瞬上げ、ゾンビの首があっけなく落ちた。


「グギャア"ア"ア!!」


「(忍者ゾンビは多分藤堂さん達の方に行くはず...このゾンビ達は彼らを仕留める為だろな)」


先程のゾンビが落としたナイフを蹴り上げ、一番遠くからこちらを伺っていたゾンビの首へブッ刺す。

動きが緩んだ所を透かさず斬り裂き、落ちた頭を別のゾンビに投げつける。


「ギイ"イ"ッ!?」


「(こいつらはブルーを狙っているはずからこっちには雑魚しか寄越さない。その雑魚共を処理してあっちの忍者ゾンビをブッ叩く)」


同胞の頭を投げられて驚くゾンビに、落ちてたナイフを頭ごと貫く。

透かさず菊池が銃撃で首を落とし切った。いい反応速度だ。


ブルーは研究所から逃げたことにより、黒幕から追手を出されている。

多分この忍者ゾンビもその一人。つまり奴の目的は俺達でなくブルー。

この場面では間違いなくブルー達を追うはず。


こちらが分散した以上はあちらも戦力を分けてくる。

だがゾンビ同士での通信手段は存在しない(と思われる)以上、ブルー達を追っている間は俺と菊池の動きを把握できない。

俺達の役目は寄ってくる雑魚共を蹴散らし、忍者ゾンビ攻略の糸口を掴む事だ。


「菊池、まだやれるか?」


「勿論です。止血もしたし解毒剤も効いてきました」


ゾンビの体液は言うまでもなく猛毒成分が含まれている。

その成分は今なお正体不明で、計測する機材も不十分。だが一度侵されれば絶命は必至。

だがそれを早川含むかつてのエンジニアチームは『対処のみ』に絞って解毒剤を作成した。


浮力や推進力などの緻密な計算をせずとも船を造ったように、人間は原理がわからなくても対処ができる。

成分を摂取したらどのような症状が起きるのか。それに対応する薬はどれか。

配合、量、素材。そして何人もの犠牲を払った上で、それは完成した。


当然数は少ない上、基地が破壊された今増産はできない。

だが命の危機に瀕すれば、迷わず使わなければ——————


「ッぶねぇ!!」


死角からの斬撃が空を斬る。

さっきの忍者ゾンビが、雑魚共に紛れて不意を突こうとしているのだ。


「テメェがこっちかよ。当てが外れたぜ」


ほぼ間違いなく藤堂さん達の方に行くと思ってたから、先程考えてた作戦が一気に瓦解する。

何故こちらを狙ってきた? 忍者ゾンビは複数体いるのか、それとも別の突然変異体と協力関係にでもあるのか。

今は考えててもしょうがない。この状態を突破できる方法を探らねば。


残っているゾンビは四体。多分他にもいるだろうが、目に見えてる範囲では四体。

まずこいつらをまとめて処理したいところだが、死角から忍者ゾンビが攻撃してくる可能性も大いにありうる。というかそれが奴の本懐だろう。

さっきはたまたま避けられただけで、次も回避できるとは限らない。

せめて奴が消えるトリックを暴かねば。


「黒金先輩、コイツら打って変わって攻撃してきませんね」


「怖気づいてる、という訳ではなさそうだな。多分忍者ゾンビの指示だ」


ただ、そうだとするとゾンビは種族同士で意思疎通が取れることになる。

恐らく突然変異体(忍者ゾンビ)が司令塔となって簡易的な軍隊を作れるようになっているのだと思われる。

知性を持つゾンビというのがここまで厄介に感じるとは思わなかった。


「...忍者ゾンビ、来ませんね」


「機会を伺ってるんだろ。つか他人事だな、お前が殺されるかもしれないんだぞ」


「それならいいんですけど、もしかしたら『この状況』が奴の狙いなのでは...?」


「......」


一度だけ姿を見せたことにより、『忍者ゾンビはこの近くにいる』と俺達に思わせる。

俺達がその情報に釘付けになっているうちに、離脱組のもとへ行き大量のゾンビに紛れて一人づつ殺していく。

最後にここへ戻り、消耗した俺達を屠って終わり。


確かに、思ったよりかは理に適っている。

少なくとも奴の気配は今感じない。離脱組の方に向かっている可能性は高い。


「もしそうなら、先輩は離脱組の方に向かうべきでは?」


菊池は脇腹を刺されており、応急処置したとはいえ闇雲に動くと出血過多で死ぬ可能性がある。

なので彼女はここから動かせない。背負うようなマネをすると忍者ゾンビどころか雑魚ゾンビにも後れを取る。

せめてもう一人いれば何か変わったのだろうか。


「...それだとお前が孤立する。あの忍者ゾンビに一対一(タイマン)で勝てるのか?」


「無理ですね。ですが離脱組が全滅する方がマズいと思いますが?」


「あっちにはサラやブルーがいるから、少なくとも負けることは無いだろ」


「それ以外の誰かが狙われたらどうするんです?」


武器屋、早川、古村の非戦闘員組は護身術だけは学んでいるものの、その実力は俺達調達者(プロキュラー)とは程遠い。

かといってこの三人を失うのは後々絶対困る。


「...いや、それでもお前を置いていくのはできねぇよ」


もう、誰かを目の前で失うのは御免だ。


「それじゃみんなが」


「要はこっちに奴をおびき寄せればいいんだよ。知性勝負で屍如きに負ける訳にゃいかねぇな」

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