母との再会
春の湖水地方は、色とりどりの花が咲く。
そしてそれが湖の水面にも鮮やかに映し出され、一層華やかな印象を受ける。
見慣れていたはずの景色は、久しぶりに帰ってきたのもありとても美しく見えた。
母が好んで決めた家は、この村の中のはずれにある薄青色の花が咲く木のそばだ。
色とりどりの草木が咲くこの地域で、地味な花色のその木は人気がない。しかし真っ白い絹に一滴だけ青を垂らしたような、儚げな薄青色を母は気に入ったようだ。
家が見えてきた瞬間のことだった。
「すまない」
団長がそう言うが早いか、気がつくと俺の首には剣があてられていた。
「はっ?えっ?団長??」
状況が飲み込めない。団長の剣にはまったく殺気もないし、首元に剣があるだけで拘束されたわけでもない。本気で俺の動きを止めようとしているわけではないのは明らかだった。
「君が無事そうだと、彼女はおそらく留守を装ったり逃げるだろう?協力してくれ」
「ああ、なるほど……」
お互いに苦笑しながら、そのままの姿勢で歩く。
端から見るとシュールだなこの画……
家が近づくと、団長は段々と真剣な表情に変わってきた。中にいるであろう母の状況を確かめようとしているらしい。
そんな団長の横顔は、氷みたいな青色の瞳は本当に美しくて、彫刻とか芸術品を眺めてる気持ちになってきた。
家まで後ちょっとのところで、ドアが内側から開いた。
中からは、ほぼ白と言えるくらいの薄桃色の髪と若草色の瞳をした瘦せぎすの女性が出てきた。
紛れもなく俺の母である。身なりは貧乏だし頬は軽くこけ不健康なまでに痩せているが、顔立ちはかなり美人だと思う。いつもは優しげな笑みを浮かべているので、とても可憐な印象を受ける。
行くところ行くところで「身なりさえ気をつければ玉の輿し放題」「もう少し健康そうなら口説いたのに」「あんな骨と皮じゃたつものもたたない、勿体ない」と息子の俺の耳にも入るくらい囁かれ続けてきたのだ。実際成金デブのおっさんから贅沢させるから!と口説かれてたのも見たことがある。夜逃げする羽目になったけど。
ちなみに俺が軍人を目指したのは、そんな母の今後を考えたのも理由の一つだ。
二十歳で俺を産んだ母はまだ三十代後半だ。キチンとした食事と身なりをできるようになれば再婚のチャンスはあるだろう。息子が軍人なら箔がつくし、基本的には帰ってこないので恋人が出来たら逢瀬もしやすいだろうと考えたのである。
その母が、息子の俺が見たこともないくらい険しい顔で団長を睨んでいた。