90.護衛士ランフォード
国王の策略によってベラス団拠点にて窮地に落ちたランフォード。そしてその国王自らの号令により、無数の弓矢がランフォードに向けて放たれた。
「シールド・多連!!!!!」
ランフォードは出血が激しい体に鞭打ち、渾身の力を振り絞って自分とココの前にシールドを張る。そしてココの前に立ち両手を広げる。
カンカンカンカン!!! バリン!!!
雨の様に降り注ぐ弓矢。
最初のうちは弾いていたその矢も、次第にシールドが割れランフォードに体に突き刺さる。交渉用の礼服に矢を弾く力はなかった。
「シ、シールドおおぉぉ!!!」
弓矢が体に突き刺さりながらも割れたシールドを張り直すランフォード。矢を受けようが、両手を広げ頑として動こうとはしない。後ろにいたココが涙を流しながら言う。
「もう、もういいです。ランフォード様。もう……」
ランフォードは前を向いたままココに言う。
「私は護衛士。お前を守るのが仕事、心配しなくていい……」
目の前で壁となってくれるランフォード。
シールドが割れる度に気合を入れ張り直すランフォード。
「守る!! お前は私が守る!!!!」
必死に食いしばるランフォード。それでも彼の身体には次々と矢が突き刺さって行く。
――もういい、もういいよ。こんなの……
ココは涙を流しながら頭を抱えて蹲った。
「こ、これは一体? あの男は仲間ではなかったのか?」
ひたすら矢の攻撃を耐えるランフォードを見てダべラスが言う。
仲間割れ? 裏切り? その理由は分からなかったが、それと同時に自身の同胞達も次々と討ち取られて行く。ダべラスは立ち上がり皆を鼓舞する。
「迎撃だ!! 迎撃せよ!!!」
そう言うと自らも大きな槍を持ち敵陣へと駆け出した。
「いつまで、いつまで掛かっておる!!!」
一向に倒れないランフォードに苛立ちを隠せない国王。側近が言う。
「しかしながらランフォード卿は国でも屈指の護衛士。易々と討ち取ることは困難かと……」
バン!!
「ひいっ!!」
進言をした側近を平手打ちで殴る国王。
「うるさいっ!! 分かっておる!! 全員だ、全弓隊の矢をランフォードに向けよ!!!」
国王の指示の下、その場にいたすべての弓隊の照準がランフォードに向けられた。ランフォードはぼんやりとその光景を眺めた。
「それは間違っているぞ、ランフォード!!」
少しずつ薄れゆく意識の中で、ランフォードは亡き父と稽古をしていた昔の会話を思い出していた。
「しかし、領民を救うのが領主の務めでは?」
若きランフォードは領主である父に言った。
「その通りだ。ただ、だからと言って領民ひとりの命を救うために、領主が死ぬことは許されない。良識ある領主が居なくなると、何千、何万もの民が不幸になる」
まだ納得いかないランフォードは父に食い掛かる。
「それは分かっております。が、しかし、目の前で領民が死ぬのをむざむざと……」
父はそれを遮るようにランフォードに言った。
「辛い判断をしなければならないこともあるが、いずれ分かるだろう……」
ランフォードは自分の横で涙を流しながら震えるココを見る。
――父上、やはり私は愚か者でした。貴方の戒めを守れそうにないです……
涙を流し見上げるココに優しい笑顔で応えるランフォード。しかしもう限界は近かった。
「くたばれ!! 目障りな奴らよ!!! 撃て、撃てええええ!!!!」
国王の品のない号令が辺り一面に響き渡る。そしてそれと同時に放たれる数多の矢。その数はこれまでとは比べ物にならないものであった。
――ランベル……
ランフォードは領地に残してきたひとり息子のことをぼんやりと思い出した。
(父上!!! 父上ーーーー!!!)
幻聴か。
ランフォードには居るはずのない息子の声が聞こえ始めた。
(父上!! 父上ええええーーーー!!!!!)
「!?」
「父上ーーーー!!! 今、参ります!!!!!」
今度は居るはずのないランベルの声がはっきりとその耳に届いた。
「召喚!! 【メタルゴーレム】!!!!」
ドーーーン!!!
カンカンカンカンカンカーーン!!!!!
ランフォードは目を疑った。
突如目の前に現れた巨大なゴーレム。そのゴーレムが自分の前に立ち、降り注ぐすべての矢を弾き返した。
「シールド・多連!!!!」
そして横から放たれる矢は、自分じゃない誰かが張ったシールドが防いでいく。
――温かい。何て温かいシールドなんだ……
ランフォードはその張られたシールドから感じる温かさ、そして力強さに触れた。こんなシールドを張れるのはひとりしかいない。そう、
「ハルト!!!」
「すまん、ランフォード。遅くなって!!!」
ハルトはシールドを足場にランフォードの傍までやって来る。そして一緒にやって来たルルがすぐにヒールを掛ける。
「父上!!!」
ランベルは泣きながら傷ついた父に抱き着いた。
「ランベル……」
ランフォードも自然と涙が出た。最後に、最後に愛する息子に会うことができた。これでここで倒れようがもう思い残すことはない。ハルトが指示を出す。
「ルル、全力でランフォードの回復を頼む。ココはランフォードから離れるな! クレアと俺、それにランベルはこれから国王軍を蹴散らす!!!」
「了解!!!」
ハルトが続ける。
「いいか、それでも兵士を殺さないように!! 奴らに罪はない!!!」
そう言うと皆がそれぞれ国王軍の相手へと向かって行った。
ハルトはメタルゴーレムとシールド、そして剣で応戦。クレアも素早い動きで兵を気絶させていく。ランベルも必死に戦う。突如現れた援軍に驚く国王軍。
しかし、数が多過ぎた。
ハルト達の加勢で一時的に状況が変化したものの、やはり多勢に無勢。我を見失った魔物達も暴れ始める。これだけの数の相手に対して抑え込める見込みなどはほぼなかった。
罪のない兵達を黒炎で吹き飛ばすこともできない。だからハルト達はひたすら剣を振った。ランフォードが回復して脱出できるぐらいまで。
「はあ、はあ……」
目を閉じ横たわるランフォード。全身から流れる鮮血が痛々しい。必死に回復魔法を唱え続けるルルにも疲労の色が見え始めている。
「ランフォード様、ううっ……」
ココは自分を救ってくれた英雄の傍でひたすら涙を流した。すると大きな手が自分の頭に乗せられ、優しく撫でた。
「ココ……、無事で良かった……」
優しい声。
優しい眼差し。
そして温かくて大きな手。
――失いたくない。失ってはいけない。
ココは、歌わなければと思った。
今この窮地を救えるのは自分だけ。
震える足に無理やり力を入れ立ち上がる。
だけど、声が、声が出ない……
震える体に震える口。
――勝たなきゃ。昔の自分に打ち勝たなきゃ……
ココはそう心でつぶやくと、しっかりと立ち上がり周りを見つめた。




