89.和平交渉
スタン王国僻地。この国の魔物を取り仕切るベラス団。
その拠点に王都の使いとしてやって来たランフォードは、対峙した魔物の主ダべラスの迫力を全身で感じていた。
整然とした造りの拠点。
まるで要塞の様な姿のこの拠点は、外部からの攻撃にも耐えられるよう設計されていた。その中庭。四方を建物で囲まれた場所にランフォード達は通さる。
よく見ると中庭の隅には鎖につながれたココの姿がある。口を布で縛られ必死にランフォードに助けを求めているのが分かる。ランフォードはぐっと拳に力を入れた。
「和平交渉、だと?」
ダべラスは大きな玉座のような椅子に座りながら言った。ランフォードが答える。
「その通りだ。そちらが行った破壊や虐殺行為、そして拉致など決して許されるものではないが、平和を望む国王よりお前達と和平を結びたいとの命を受け、我はここに参った次第だ」
暫くの静寂。
やがて周りにいる魔物達からがやがやと騒ぐ声が聞こえ始めた。ダべラスは少し溜息をついて言った。
「お前、それを本気で言っているのか」
ダべラスは玉座の肘掛けに肘を乗せ、やや呆れた顔で言った。
「本気? どういうことだ?」
ランフォードは真剣な顔で尋ねる。ダべラスが言う。
「和平交渉? そちらから仕掛けておいて、何を言っているんだ?」
「こちらから?」
ランフォードの顔が曇る。ダべラスが続ける。
「その娘を我らが拠点の前に置き去りにしたのもお前ら。まあ、あの娘にはいつも戦意を削がれていたのでちょうど良かったが、これを交戦の理由にでもしようと思っているのか?」
「わ、我らが置いて行った!?」
話の状況が理解できないランフォード。額に流れる汗が増える。
「それを今さら和平交渉とは笑止」
「待て、言っている意味が全く分からないぞ。お前達は我らを襲い、ココを攫って……」
「ふざけるな!!!!」
そこまで話したランフォードの言葉を退けるようにダべラスが怒鳴った。驚くランフォードが王の使いの者達に尋ねる。
「これはどういう事なんだ?」
使いの者達はニヤッと笑うと大声で答えた。
「こういう事です!!!」
そして全員が一斉に荷車にかかっていた白い布を外す。そして装飾品や果物の下に隠してあった、『時限式魔法爆弾』を取り出す。そしてその爆弾に魔力を少し流し込み、発動させた。ランフォードに向けて言う。
「それでは、ご武運を」
そう言うと使いの者達は全て転移魔法で消えて行った。
「待てーーーーーーっ!!!!」
大声で叫ぶランフォードだったが、それと同時に魔法爆弾が爆音を立てて爆ぜた。
ドーーーーーーーーーーン!!!
ドーーーン!!
ドーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
魔法爆弾は鼓膜を打ち破るような爆音と、周囲の者を吹き飛ばすような爆風を起こし爆ぜた。破壊される要塞の建物。吹き飛ぶ木々。中庭にいた多くの魔物もその爆風と熱によって吹き飛ばされたりして倒れた。
激しく舞い上がった砂埃がひと段落すると、そこに生き残った数名の者達が怒りの表情を浮かべて立ち尽くしていた。
「これが、これが貴様らの回答か!!!!!」
激怒するダべラス。自身は周りにいた護衛の魔法障壁によって守られたが、防ぎきれずその場に倒れている側近も多い。
ランフォードは素早くココの前まで行きシールドを張ってこれを防御。そして激昂するダべラスに向かって言った。
「待ってくれ、知らない。私は何も知らないんだ!!!」
その言葉と同時に魔物の伝令がダべラスの元まで走って来る。そして慌てて告げる。
「大変です!! 拠点が国王軍に囲まれています!!!」
小刻みに体を揺らしていたダべラスが鬼の形相をしてランフォードに言う。
「ゆ、ゆるさんぞおおお!!!!」
ウゴオオオオオ!!!!
その騒音に気が付いた一同は空を見上げた。
「なっ!?」
驚くべきことに見上げた空一面を小型の飛竜に乗った王国飛竜隊が埋め尽くしていた。無数の数の飛竜にプレートの鎧を着こんで剣や槍を持つ兵士達。その隊長が号令をかけると、一斉に急降下して集合していた魔物達に向かって攻撃を開始した。
「行け、行け!!! 魔物を討ち取れ!!!!」
飛竜隊の空からの攻撃に戸惑い討ち取られていく魔物達。そして更に地上からは国軍の衛兵隊や弓隊が現れた。
「討て! 魔物を全て討ち取れ!!!!」
各団長の号令の下、剣や弓、槍などを振り回し次々と魔物を惨殺していく兵士達。魔物達も応戦するが完全武装した国王軍に徐々に追い詰められていく。
そしてひと際大きな飛竜に乗り分厚い鎧を着た国王が、中庭の大きな建物の上に降り立った。続いて同じく完全武装したゼラルド将軍が降り立つ。それに気付いたランフォードが大声で叫ぶ。
「何を、何をする気ですか!! 国王よ!!!」
魔法爆弾の爆発によって既にボロボロになっていたランフォードの目からは血の涙が流れる。国王はランフォードを見下した目で言う。
「まだ気づかぬか、愚か者よ。邪魔なお前達や気持ちの悪い娘、そしてここの外道共を掃除してやろうとワシが考えてやったことよ」
国王は爆発や攻撃を受け死に絶えた魔物の亡骸を踏みつけ言った。
「なんと、なんと卑劣な……」
ランフォードは下を向き涙を流しながら言った。国王が言う。
「何だ? ランフォード、聞こえんぞ?」
薄気味悪い笑みを浮かべながら国王が言う。ランフォードは顔を上げガッと国王を睨むと大声で言った。
「どっちが外道だああああああ!!!!」
それを聞いた国王の眉間に皺が寄る。
国王はゆっくりと右手を挙げて、そして振り下ろした。その合図を受けた国王直属の弓部隊が一斉にランフォードに向けて弓矢を放った。




