87.来客
翌朝、メタルゴーレムと契約したハルト達がランフォード邸に帰って来た。当然ながらその変わり果てた姿に驚く一行。ランフォードは笑顔で迎えてくれたが、疲労の色がありありと見えた。
「ありがとう、ハルト。まさか仲間にしてしまうとは。あはははっ、まあいいだろう」
ハルトは採石場での事をランフォードに報告した。今後は闇雲に採石を行わないよう指導すると約束してくれた。ハルトが聞く。
「で、これは一体どういう事なんだ? 詳しく教えてくれ」
ランフォードは悲しい表情をしてハルトにすべてを話した。
「……何てことを、ココは大丈夫なのか?」
ランフォードは下を向いて首を横に振る。ルルとクレアはまだ怪我に苦しむ人達の治療を始めた。そこに守備兵からランフォードの元に連絡が入った。
「王都の使いの方々がお見えです」
「王都の使い?」
ハルト達はその言葉に何か嫌な感じを覚えた。
ハルトと共に王都の使いを迎えランフォードは、軽く会釈をしてからその後ろにある荷車に目をやった。
「王都からの伝令ご苦労様です」
ランフォードは締まった顔で使いの者に言った。それに答える使者。
「この度は大変な目に遭われ、亡くなられた方もいたようでお悔やみ申し上げます」
使者の者達は軽く頭を下げた。そして続ける。
「今回のベラス団の襲撃、王都では大変重く見ておりますが争うつもりはありません。そこで王都はベラス団と不戦調停を行いたく、その使者としてランフォード卿が任命されました」
「なっ!?」
突然の話に驚くランフォード。使者は更に続ける。
「まやかしの歌を歌う少女の救助も兼ねております。お疲れとは存じますが、これより向かわれたいとのことです」
「これから、すぐに行けと言うか?」
ランフォードが驚いた口調で尋ねる。黙って頷く使者達。
聡明なランフォードは今起きていることを瞬時に頭で整理する。魔物の襲撃は間違いないが、それがまだベラス団の仕業だとは分からない。そんな相手に不戦調停だと? ココの居場所も分からないのに救助? そして彼らの後ろにある荷車に目が行った。
「その荷車は何ですか?」
ランフォードの質問に使者が答える。
「贈り物です。不戦調停に向かうのに手ぶらと言う訳にはいかないでしょう」
ランフォードは荷車に近付くと荷物を覆っていた布を少しずらした。中には金や装飾品、そして名産の果物などが積まれている。使者が言う。
「我々は常にベラス団を脅威と感じていました。今回、これは丁度いい機会です。これを機に友好関係を結べたらと国王はお考えです」
――いい機会だと?
ランフォードは殺された自分の配下の者のことを思うと、とてもそんな風には考えられなかった。納得いかない点は幾つかあるが、国王からの命だとすると断る訳にはいかない。使者から渡された手紙には確かに国王の印が押されている。
「俺も行くぜ、ランフォード」
その話を聞いていたハルトがランフォードに言った。使者の目線がハルトに集まる。
「こちらは?」
使者の質問にランフォードが答える。
「私の客人です。魔物討伐を手伝ってくれました」
「そうですか」
使者は興味なさそうに答えた。そしてランフォードに言う。
「それでは我々はここで待ちますので、どうぞご準備をお願いします」
「お前達も行くのか?」
使者は無表情で答える。
「ええ、ランフォード様の護衛です。あと、誰がこの荷車を押しますか?」
「……分かった。ちょっと失礼するよ」
ランフォードはそう言うと、ハルトを邸宅の中へ連れて行った。
「ハルト、一緒に来てくれれば心強いのだが、それよりもお前にお願いしたいことがある」
頷くハルト。
「ハルトにはここに残って息子のランベルを守って貰いたい。親バカと言われそうだが、ランベルの事が気になる。何卒お願いしたい」
ランフォードはハルトに深々と頭を下げた。
「いいわよ、ここまで来たら何でも。美味しいご飯頂いたし。ね、ハルト」
気付くとハルトの後ろにルルとクレアが立っている。ルルが笑顔でランフォードに言った。
「ランフォードさん、ここは私達に任せて行って来てください」
「ルル……」
ハルトはルルの顔を見て言った。ランフォードが言う。
「ありがとう。ハルト、それでいいかな?」
ハルトが頷いて言う。
「ああ。ルル達がここに残るなら俺も行けないしな。護衛士だし」
ハルトは苦笑いして言う。
「そうだな、ちなみに私も護衛士だが、知っていたか?」
ランフォードがハルトに笑顔で言った。
「そうだったんだ、大先輩だな」
「はははっ、年寄りなだけだよ」
ランフォードは笑って答えた。ハルトが真顔になって言う。
「気をつけて。何か嫌な予感がする」
ランフォードも同じく真剣な顔になって答える。
「ああ、それは私も感じている。おかしな点が多過ぎる。十分気をつけるよ」
ランフォードはハルトに手を差し出す。それをしっかり握るハルト。
「では、行って来る」
ランフォードはそう言うと少しだけランベルのところに寄り、そして王都の使者の者達と一緒にベラス団の拠点へ向かった。
ハルト達は去り行く使者達の顔の不気味な笑みを見逃さなかった。クレアが言う。
「ねえ、ハルト。本当に行かなくて良かったの」
ハルトが答える。
「ああ、ランベルやここにいる人達の護衛を託された。少なくともそれを果さないと動けない」
「うん……」
クレアは少し不安そうな表情を浮かべた。
「あら~」
ルルが嬉しそうな顔をする。
その夜、ランフォード邸の寝室に通されたハルト達は、そのベッドを見て驚いた。
「えっ、このひとつのベッドで三人一緒に寝るのか!?」
驚いたハルトが言う。メイドが答える。
「申し訳ございません。部屋の多くが破壊されて、使えるのがここぐらいしかなくて……、それでは……」
そう言うとメイドは部屋を出て行った。
少しだけ嬉しそうにベッドを見つめるルル。対照的に顔を赤くするクレア。
「あ、あなたと一緒に寝るだなんて!! い、いやらしい!!! こ、こ、子供ができちゃう!!!!」
両手を顔に当てて言うクレア。ハルトが溜息をついて言う。
「そんなで子供ができるか。馬鹿なのか、お前は」
それを聞いていたルルが言う。
「それじゃあクレアはそこのソファーで寝れば? 私はハルトと一緒でも構わないよ」
ルルが頬を赤くしてクレアに言う。それに気付いたハルトが言う。
「ああ、それだったら俺がそのソファーに……」
そこまで言いかけたところでクレアが大声で言う。
「ダメ、ダメ、ダメーーー!!! それはダメ!!!! いいの、一緒に寝るわ。三人一緒よ!!!」
クレアは頭をくらくらさせながら言う。クスクスと笑うルル。しかしハルトは急に真剣な表情になって言った。
「心配するな。多分寝させて貰えないから」
それに反応するクレア。半分白目になって言う。
「ね、寝させないって、どどど、どういう意味なのお。い、いやらしいっーーー!!!!」
クレアは顔から湯気を出して言う。ハルトは窓際に立って外を見ながら言った。
「お前、相変わらず何考えてんだよ。外見ろよ、お客さんだ」
ハルトの視線の先には邸宅を囲む複数の兵と、魔物の群れがあった。




