84.クレアの葛藤
突如王都より伝えられた増税の命。それと同時にランフォード領内で現れた魔物出現の報告。領主ランフォードは魔物への対処をハルトへ、そして自身は国王への直訴を行うと決めた。
「ハルト、本当に助かる」
ランフォードは魔物討伐の準備をするハルト達に向かって言った。
「気にするな。困った時はお互い様。こちらのことは気にせずに自分のことに集中してくれ」
ハルトは笑顔でランフォードに言った。
「ありがとう。今から発てば明日の昼には採石場へ到着するだろう。詳細は現地で聞いて欲しい」
「分かった。ルル、クレア、行くぞ」
ハルトはそう二人に言うと魔物退治に採石場へ向かって行った。
「さて……」
ランフォードはハルト達を見送った後、屋敷の中に戻り息子のランベルを呼んだ。
「ランベル、ここへ!!」
「はっ、父上!」
ランベルは返事をしてやって来ると軽く頭を下げてから父の顔を見つめた。ランフォードが言う。
「ランベル、私はこれより無謀な増税を考え直して頂く為に王都へ向かう。その間のここの留守、お前に任せる。よいな」
「はい、父上」
ランフォードはランベルの目を見て言う。
「ココの事も頼んだぞ」
「勿論です!」
ランフォードはその後、邸宅の守備兵にも何か指示を出し、急ぎ王都へと向かった。
ランフォード邸を見下ろせる少し高い丘の上。そこからその邸宅を見下ろす数名の男達。ランフォードが邸宅を出発するのを確認してから言う。
「出て行ったか、ランフォードは」
「そうですね。決行は?」
「もう少し待て。奴が完全にいなくなった後一気に叩く」
「御意。それまではこいつ等もしっかり休ませておきます」
「ああ、そうしてくれ」
男達の後ろには数十体の魔物が奇怪な音を立てて蠢く。しかしひとりの男が魔物達の前で何か合図をすると、不思議なことにその魔物達はすぐに静かになった。
ランフォード邸では息子のランベルが小さくなる父の背中を見つめていた。
一方ハルト達は、魔物が暴れているという採石場へ向けて歩いていた。
「ねえ、ハルト。あのお馬さんでシューって行けないの?」
朝から歩き続けているクレアが疲れた声で言った。同じく疲れた表情のハルトが言う。
「お間もさっき聞いただろ? 暑いからイヤだって」
採石場への道は木々などが少ない、岩だらけの荒野を進まなければならなかった。照り付ける太陽の日差しが強く、ハナを召喚したのだが暑いからイヤだと断られてしまった。
「あなた召喚士でしょ? もっと強く命令とかできないの?」
クレアが暑さで火照った顔に手を当て言う。
「前にも言ったが、召喚士と【ヒトナキモノ】は基本対等。仲間なんだ。無理強いはできない」
クレアが溜息をついて言う。
「分かってるわよ。じゃあハルト、あなたが負ぶって行ってよ……」
じっとクレアを見つめるハルト。そして言う。
「お前、体重何キロだ?」
火照ったクレアの顔が更に赤くなる。
「あ、あ、あなた、レディに対してなんて失礼なの!? 信じられないわ!!!!」
「ハルト、クレアは私と大体同じぐらいだよ」
それを聞いていたルルが答える。
「ルル!! 余計なことは言わないの!!」
ルルがペロっと小さな舌を出す。ハルトは身長ではクレアの方が高いのになあと、ぼんやり思いながら再び歩き出した。
その夜、採石場まで残り少しのところでハルト達は宿をとった。宿屋と数軒の店や民家が並ぶ程度の集落。辿り着いた頃にはすっかり日も暮れハルト達も疲れのピークに達していた。
食事を終えたハルトはひとり、宿の外にある椅子に座る。頭上には満天の星空。周りに明かりがないので数え切れないほどの星が瞬く。
ハルトは父の事を思い出していた。
――父さんが負けるはずがない
どんな時でも前に立ち、数多の攻撃を防いできた。憧れであり、優しくて強い父さん。絶対に、絶対に負けるはずが……
気付くとハルトの頬に一筋の涙が流れていた。
「隣、いいかしら」
ハルトが一人座っていると、後ろから声がした。
「クレア?」
ひとりやって来たクレアはハルトの横にある椅子に腰かける。ハルト気付かれぬよう頬の涙を拭った。
「ルルは?」
「水浴び。覗きたいの?」
「バ、バカ言うなよ!」
ハルトは直ぐに否定する。いつもならここで騒ぎ立てるクレアが静かにまっすぐ前を向いている。ハルトはその違いに気付いた。
「ねえ、私、役に立っているかな……」
「役に?」
「うん、この間ルルを助けた時に戦った王子、全然敵わなかった……」
「ああ」
ハルトはエルフネル王国でクレアが戦った変態王子の事を思い出した。ハルトが言う。
「あいつ変態だけど、剣の腕はそれなりだったぞ。俺だって純粋な剣では負けると思う」
「そうだよね」
クレアはハルトの話を聞いているか分からないような態度で返事をした。クレアが言う。
「ハルトには召喚、ルルには魔法や弓がある。でも私には剣だけ……」
ハルトはクレアの横顔を見た。クレアがハルトを見て言う。
「ねえ、ハルト。私も召喚士になれるかな」
「はっ!?」
突然の言葉に驚くハルト。
「【ヒトナキモノ】が使えればもっとみんなの役に立つと思うの!」
クレアの目は真剣である。それを聞いたハルトの顔がどんどん赤くなる。
「い、いや、そ、それはちょっとやめておけ。うん、やめておいた方が……」
クレアは不満そうな顔をして言う。
「何でよ! あなた知ってるんでしょ? どうやったらなれるのか」
ハルトが慌てて言い返す。
「い、いや、召喚士には適性もあるし、その、なんだ、クレアはもっと剣術を磨いた方がいいんじゃないか……」
更に不満そうな顔をするクレア。少し怒り気味に言う。
「ひとりだけずるいわ! 私にも教えなさいよ!!」
顔を赤くしたハルトは急に立ち上がるとクレアに言った。
「さーて、俺も水浴びでもしてくるかな!」
そう言い後ろを向き、立ち去ろうとする。クレアが慌てて言う。
「あ、あなた逃げるの!? 教えなさいよ! 卑怯者!!」
「何だ、一緒に水浴びしたいのか?」
今度はクレアが顔を赤くして言う。
「そ、そんな訳ないでしょ!!!! ど、どうしてあなたなんかと一緒に……」
そう言ってハルトを見ると、既にその場から居なくなっていた。
「もおー、ハルトったら!!」
クレアは星空の下ひとり大きな溜息をついた。
翌日、早朝から採石場へ向かうハルト達。急いだお陰で昼前には目的の採石場へ到着した。早速ハルトはそこで働く工夫に話を聞く。
「岩を掘っていたらよ、突然地面から出て来たんだ。吃驚しただー」
工夫達の話をまとめると、岩や鉱石を掘っていたら突然地面が揺れ出し、そこから光るゴーレムが現れたとのこと。とにかく見たことがない魔物だし、出てくるなり暴れだすので仕事ができず困っているそうだ。
今のところ人的被害はあまりないが、何とかして欲しいと思い領主に助けを求めたとのこと。
「じゃあ、ちょっと見に行くか」
ハルトはルルとクレアを連れて、採石場の奥へと進む。工夫の話では普段は眠っているそうだ。採石場の奥の間。岩に囲まれた広場のような場所に辿り着く一行。
その一番奥に横たわる銀色に光るゴーレムを発見。ハルトは直ぐにハナを召喚。そのゴーレムを見たハナが言う。
「メタルゴーレムね、珍しいわ」
「そうなのか?」
「そうよ、アタイも珍しい方だけど、あのゴーレムもかなりのレアよ。どうする? 戦うの?」
ハナはメタルゴーレムを見ながらハルトに聞いた。
「うーん、とりあえず討伐依頼が来ているからな」
「いいけど、剣とか魔法とかの攻撃、ほとんど効かないわよ」
「そうか……」
そう話していると今まで眠っていたメタルゴーレムがむくっと起き上がった。
「げっ、起きた!!」
それを見たクレアが小声で言う。ハナが言う。
「アタイの気を感じたんでしょ」
ハナが他人事のように言う。
「グオオオオオおおお!!!!」
メタルゴーレムは大きな咆哮を上げると、ドシンドシンとゆっくりハルト達の方へ近づいて来た。
「やっぱり望まなくてもやらなきゃならないのか……」
ハルトは渋々剣を抜いた。




