83.ランフォード卿
スタン王国へ入ったハルト達。
その森の中でひとりの少女ココと出会う。彼女は歌で聴いた者の戦意を無くすことができる力を持ち、実際襲ってきた魔物達を森へと帰してしまった。
「戦意をなくす歌……」
クレアはそう小さくつぶやいた。ハルトは思う。
(凄い能力だ。でもこれは間違いなく狙われる……)
それだけの特殊能力があれば、色々な所から様々な理由で狙われそうだ。さっき「護衛の者」と言っていたが、何となくその意味が分かって来た気がする。
「そっか、すごい歌だね。だから森でひとりでも怖くないんだ」
クレアがココに言う。にっこり笑うココ。
「さあ、ランフォード領に急ごう」
皆はハルトの言葉に頷いた。
「ココ!! 心配したぞ!!!」
ランフォード領に入り、無事ランフォード宅へやって来たハルト達。
出迎えた領主ランフォードは全身で喜びと安堵を表し迎えた。領主と言えまだ若い青年の風貌。すらっとした長身に肩まで伸びた美しい髪。目もきりっとした大変美しい領主であった。
ランフォードはハルト達に気付いて声を掛ける。
「あなた方がルルを保護してくれた方ですか。失礼ですがどちらの……」
「旅の者だ」
ランフォードは安心した表情を浮かべて言った。
「そうでしたか。それはそれは。本当にありがとうございます。失礼ですが、もしよければ今夜は家に泊って行かれてはどうですか。日も暮れかけていますし」
ハルトはクレアとルルの顔を見る。頷く二人。
「いいのか? じゃあ、一晩だけ泊めさせてもらうかな。実はくたくたで……」
「はははっ、そうでしたか。では遠慮なく泊まって貰いたい」
「あははははっ、それは面白い!!」
夕食に招かれたハルト達。ランフォードやココと共に久しぶりのまともな食事を楽しんだ。
これまでの旅話をとても興味深く聞くランフォード。ずっとこの領地に居てほとんど他国へ行ったことがないそうで、ハルト達の話をとても面白そうに聞いた。
そしてクレアとルルの食事の様を見ていたランフォードが二人に言う。
「お二人ともとても品がある食べ方をされますね。もしかしたらどこかの御令嬢か何かでしょうか?」
顔を見合わせるクレアとルル。安全上、王女であることは話さないようにしている。ハルトは黙々と料理を食べる。クレアが言う。
「そ、そうですよね。分かります? 育ちがいいので分かっちゃいますよね! こいつとは違いますもの。おほほほっ」
そう言って隣で食べるハルトの背中をドンと叩く。
「ぶっ!!!」
「まあまあ、ハルトさん。そんなに口から吐き出して、なんて下品なのかしら」
そう言ってクレアは噴き出したハルトの口をナプキンで拭く。ハルトが言う。
「お、お前、ふざけるなよ!!」
「そんなこと気にしなくても大丈夫ですわ。おほほほほっ」
そう言ってハルトの背中をバンバン叩きながら再び食事に戻るクレア。それを見ていたココが言う。
「ふたりはハルトの事が好きなの?」
「えっ!?」
「ぶーーーっ!!!」
驚くルル。そしてハルト以上に噴き出すクレア。
「お、おい、汚いな!! お前!!!」
ハルトがナプキンを持って拭こうとする。
「えっ、えっ、いや、なに? えっ、な、何で私とハルトが!! ええっ!?」
そう言いながら顔を赤くするクレア。黙って微笑むルル。ランフォードが言う。
「これ、ココ。客人をからかってはダメだぞ」
「はーい」
「いや、だから私はそんなんじゃなくて……」
「もうその話、終わったぞ」
必死に言い訳をするクレアにハルトが小声でつぶやいた。
「父上、遅くなりました!」
食事を楽しんでいたハルト達の部屋に、ひとりの少年が入って来た。ランフォードが立ち上がってその少年の肩を持って言う。
「ハルト、紹介しよう。我が息子のランベルだ」
紹介されたランベルが頭を下げる。髪は父親と同じ金髪。だが少しカールを巻いている。背丈はハルトより少し大きいぐらい。年齢も少し上か。優しそうな少年であった。
「父上、この方達は……?」
ランフォードは手短にランベルにこれまでの経緯を話す。頷くランベル。そしてハルトに言った。
「これはハルトさん、大変ありがとうございました。ココは私達の大切な存在。心から感謝します」
ランベルは丁寧にお辞儀をした。ハルトも頭を下げてそれに応えて言う。
「ランフォードに子供が居たとは。若く見えるけど」
ランフォードが笑って言う。
「はははっ。こう見えても私は間もなく三十路。若作りをしていますよ。さあ、食事を続けましょう」
「えっ、意外!! オジ様なの?」
クレアは若々しいランフォードの顔を見て言った。
「そうですか、イリス王国って国へ行かれるんですか」
ハルト達はランフォードにイリス王国の事を聞くも、聞いた事はあるが残念ながらあまり知らないとのことであった。ランフォードがハルトに言う。
「ところでこれから北上するならば、船団王国やインフィニティタワーと言う塔を登らなければならないぞ」
「船団王国?」
「インフィニティタワー?」
ハルトはルル達と顔を見合わせて首をひねる。ふたりの姫は少し難しそうな顔をする。
「私も行ったことはないが、色々と大変な場所のようだ。無事帰れるといいな」
少しアルコールの入ったランフォードは、酩酊気味に言った。一同は久し振りの大勢での食事を楽しんだ。
翌朝、早速旅立とうとするハルト達。ランフォードやココ、ランベルが玄関まで見送りに来る。改めてハルト達にお礼を言い、そして続ける。
「もう少しゆっくりとして欲しかったのだが、急ぎの旅。どうぞお気をつけて」
ランフォードは丁重に言った。ハルトが言う。
「いや、お礼はこちらの方だ。食事にベッドにと本当に久しぶりによく眠れた。ありがとう」
「ハルト、気をつけて」
ココも寂しそうに言う。
「ああ」
ハルトがそう言った時、中庭の門を開けひとりの男が駆け足でやって来た。
「ラ、ランフォード様、伝令でございます!!!」
その男は懐にしまってあった一通の手紙を取り出す。よく見るとスタン王国のものらしき封蝋がされている。ランフォードはその手紙を受け取ると、ゆっくりと開封し中の手紙を読んだ。
「なんだと……!!」
手紙を読むランフォードの顔色が一気に青ざめる。手紙を見つめる目がこれまでにないほど険しくなる。それに気付いた息子のランベルが言う。
「父上、どうされました……?」
ランフォードは一度目を閉じてから言った。
「今季より民の税を三倍に引き上げよ、と書かれている」
「そ、そんな……」
ランフォード同様、信じられないといった顔をするランベル。伝令がさらに続ける。
「ランフォード様、それから領地内の採石場で魔物が出現し、暴れております……」
「魔物だと!?」
ランフォードは今起きている事態を冷静に振り返る。
無謀な税の引き上げは絶対に受け入れられないとスタン王に直訴する必要がある。次に魔物。これは民の命が掛かっているので一刻の猶予もない。そして今はハルトの見送りを……
そう思ってハルトを見ると、逆に向こうから声を掛けて来た。
「魔物の退治なら、俺が行こうか?」
ランフォードの身を考え、先にハルトが提案した。
「いいのか、お願いしても?」
「ああ、それぐらいのお手伝い、どんと任せてくれ」
「ありがとう、本当にありがとう。では……」
ランフォードは声高々に言う。
「採石場の魔物はハルト達に一任する。そして私はこれよりすぐにスタン王城へと向かい国王に直訴する!!」
ハルトとランフォードはお互い手をがしっと握った。




