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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第六章「戦場に響く少女の歌編」
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82.少女の歌

「……と言う訳」


「『と言う訳』じゃないぞ。長いんだよ、話が!」


ハルトはシンフォニアの生い立ちを聞いて素直に言った。シンフォニアが笑顔で言う。


「そりゃ当然だよ。ボクの大切な生い立ちだぜ。適当に端折《はしょ》られては困るよ」


「なんか、すごいお話ね……。実感が沸かない……」


クレアが難しい顔をして言った。



「で、やっぱりこの俺がグラリスを倒すってことなのか?」


ハルトが真剣な顔をしてシンフォニアに尋ねる。


「うーん、そうなるのかな。でも良く分からない。ボクの見た世界では確かにハルトが中心だったけど、今のキミはそんな感じじゃないし、それに……」


ハルトは『じゃあどんな感じなんだ、今の俺?』と率直に思った。



「それに……、何?」


黙って聞いていたルルが尋ねる。


「うん、それに今この世界にはグラリスよりも強い力を持つ者が居るんだ。ボクは取りあえずそいつを探ろうと思う」


それを聞いた一同が驚く。


「え!? グラリスより強い奴だって?」


「ああ、何だか良く分からないよね。色々変わって来ちゃてると思う。ちなみにボクの世界ではグラリスは『魔王』だったけど、こちらでは『魔人』なんだよ。確実に変化は起きていると思う」


「うーん、よく分からんが、グラリスは強かったぞ。今言えることはそれぐらいかな」


ハルトの言葉にシンフォニアが答える。


「今はそれでいいよ。まだその時じゃない。と言うことで、一旦離れるね」


「えっ!? あ、おい待て、シンフォニア!!」


シンフォニアはそう言うと、すうっと転移魔法で姿を消した。



「本当の……、事なんだろうね。辻褄も合ってる」


ルルが小さくつぶやいた。ハルトが言う。


「ああ、そんであいつが来なきゃもしかしたら俺と父さんは殺されていた、お前達もな。その意味じゃみんなの恩人になるのかな」


ハルトは遠い空を見る。


――父さん……


ふたりの姫はハルトの悲しげな顔に気付いたが、何も声を掛けることができなかった。





エルフネル王国を発ったハルト達は順調に旅を続け、隣国である【スタン王国】の領地へ入った。エルフネルでは「あまりいい隣人ではないので気を付けて」と聞かされていたので警戒しつつ進む。

ハルト達は半日ほど森の中を歩いて美しい泉へ辿り着いた。


「あれ?」


湖底が見えるほど透き通った水。周りには鳥の鳴き声しかない静寂の空間。その泉の畔にひとりの少女が立っているのが見えた。


「女の子……、かな?」


美しい森ではあったが、魔物も出る森。こんなところに子供一人置いて行くことはできない。ハルトはその少女に声を掛けた。



「迷っちゃったのかな?」


その少女は白いワンピースに簡素な履物と、とても魔物が出る森には相応しくない格好であった。声を掛けたハルトを見て少し戸惑う少女。クレアが屈んで目線を合わせて言う。


「吃驚しちゃった? そうね、こいつ変態だから。心配しなくてもいいわよ、私達が街まで送ってくわ」


「おい! そんなこと言ったら本気にするだろ!!」


ハルトはクレアに向かって語気を強めて言った。



「ぷっ、大丈夫。私、怖がってないよ。護衛の人とはぐれちゃったの。家まで送って貰えると助かります」


少女はハルト達のやり取りに少し笑顔を作って言った。


(……護衛?)


ハルトはその言葉が少しだけ気になった。ルルが言う。


「いきなり会った私達を信じちゃって、大丈夫なの?」


ルルもクレアと同様に屈んで少女と目線を合わせる。少女は笑顔で答える。


「悪い人に見えないから大丈夫。私はココ。宜しくお願いします」


ココはそう言うと頭を下げて笑った。ハルトには不思議とその笑顔が何かぎこちないものに感じた。


ココは現在、ランフォード領にある領主の家で暮らしているとのことであった。両親が死去した後、そこに引き取られて暮らしているとのことらしい。まずはランフォード領に向かう為、この森を抜けることにした。



「ココちゃんはあんな所にひとりでいて怖くなかったの?」


クレアは一緒に歩くココに尋ねた。


「うーん、大丈夫かな。家に帰れなくなるのは困るけど」


ココは少し舌を出して言った。クレアはココをジロジロ見て言う。


「ココちゃんって、戦える訳じゃないよね? 剣とか持って……」


クレアは白く細いココの腕を、少しつつきながら言う。


「無理ですよ~。剣って重いですよね。持てないです」


「……だよね」


クレアも頷いて言う。その時ハルトが大声で言った。



「気をつけろ、魔物だ!!!」


クレアが前方を見ると、大きな猛牛の様な魔物が数匹こちらを睨んでいる。盛り上がった筋肉、荒ぶる息。負けることはないだろうが、ココを守りながらとなるので気を付けなければならない。


「下がってて、ココちゃん!!」


クレアはそう言いながら剣を抜こうとする。しかしココが言った。



「大丈夫、……ここは私に任せて」


「えっ?」


ココはそう言うと、クレアやハルトの前にひとり出た。白いワンピースの少女。風になびく髪が美しい。魔力も感じないし、魔物を相手にとても戦えるような雰囲気ではない。それでもココは全くおびえた様子がない。

魔物がゆっくりと近付いて来る。ココは小さく息を吐くと、美しい声で歌を歌い始めた。



♪

小さな優しさ

消えそうな優しさ

そんな優しさを見つけ私は歌う


小さな、小さな、小さな優しさ

私は集めて歌うよ

その優しさが集まって集まって

美しさを恥ずかしがらずに歌う花のように

私も歌うよ


小さな優しさ

消えそうな優しさ

そんな優しさを見つけ私は歌うよ




「きれいな歌……」


ルルがその歌を聴いて素直につぶやいた。美しい歌、聴いていると何だか力が抜けて行く様な優しい歌。そしてハルトは目の前で起こった異変に気付き始める。


「お、おい、見ろよ! 魔物達が……」


ココが歌い出すとそれを聞いた魔物達が大人しくなっていき、そして森の奥へと帰って行った。


「な、なに? どういうこと? 確かに心休まる歌だったけど……」


クレアが目の前で起きたことに驚きながら言う。



「私ね……」


歌を終えたココが言う。


「私ね、歌で争いを止めることができるの。私の歌を聴いた人はみんな、戦うことを止めちゃうんだ……」


ココは少し恥ずかしそうに、しかし少し悲しそうにハルト達に言った。

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