78.エルフの国の王子様
美神ピュリアを打ち破ったハルト。ピュリアは倒れながらその本性が露わになる。
薄汚い毛の生えた黒い肌。牙を出し目や口が吊り上った顔。手には長い尖った爪を生やし、臀部にはこれまた黒く醜い尻尾が垂れ下がっている。
ピュリアは魔族であった。
しかしそのおぞましい姿とは逆に、人々を誘惑して操ることができる「魅了」を得意とした。ピュリアはエルフネル王国のほぼ全ての民に魅了を掛け、国中に石像を置き崇拝させる事によってその効果を維持させていた。
「無念、無念、無念ンンンンッ……、エクセル、その娘をやってしまいなさい!!!」
倒れて絶命寸前のピュリアは、まだ魅了に掛かっているエクセルに向けて最後の命令を出した。
「はい……、処刑開始」
エクセルは言われるがままに、塔の上で待機している執行兵に向けて合図を送った。塔の上の執行兵は、下で起きている事に驚きながらもエクセルの指示に従う。
「粛清、始め!!!」
執行兵はそう叫ぶと、手にした『昇華のナイフ』でルルを斬ろうと準備を始める。それに気付いたハルトが叫ぶ。
「くそっ、やめろおおお!!!」
急いで塔に登ろうとするが、とても間に合わない。全力で走るハルトにハナが言う。
「背に乗りな、ハルト!!!」
訳が分からぬまま縋る思いで背に乗るハルト。ハナはハルトが背に乗ったことを確認すると、天に向けて大きく咆哮した。するとその身体が突如白く光り始める。
眩しい白い光に包まれてハルトが目を開けると、ハナは背に翼の生えた真っ白いペガサスに変化していた。
「こ、これは!?」
「落ちないように掴まりな!!」
そう言うとハナは大きく前足を上げて、勢いよく空を駆け始めた。驚いたハルトが言う。
「お前、ペガサスだったのか!? 等級は?」
天に向けて駆け上がるハナが答える。
「あんた達の基準で言うなら、四等級」
「すげええ!! ……って言うか、お前やっぱウマじゃん!」
「ウマじゃない、ペガサスよ!!!」
空を駆け上るハナに落ちないように掴まるハルト。ピュリアが絶命し、魅了が解けた群衆がその美しき姿に気付き始める。
「あれ、なんだ?」
「綺麗……」
真っ黒な夜空に駆ける真っ白な白馬。その白き光がどんどんと夜空を駆け上る。
「ルル!!!!」
鎖に繋がれ少し意識を失いかけていたルル。ハルトは素早くルルの隣に居た二人の執行兵を斬り倒すと、ルルを繋いでいた鎖を断ち切った。
「ごめん、遅くなって。助けに来たぞ!!」
ハルトはそう言うとルルを片手で抱き、真っ白なハナの上に乗せた。意識が戻るルル。横向きに白馬に乗せられ、そして隣に座るハルトを見て思った。
「王子様……、夢と同じだ……」
ルルは目に涙を浮かべながら小さくつぶやく。気付いたハルトが言う。
「王子様? 違うぞ、俺は護衛士だ」
そう返すハルトにしっかりと抱きつくルル。
真っ暗な夜空に輝く星。心地良い夜の風。眼下には広場を埋め尽くす観衆。そして夢で何度も見た私を助けてくれる王子様。
ハルトの顔を見ながら言う。
「ハルト……、私はここに居てもいいの?」
ちょっと不思議な顔をしてハルトが答える。
「なに言ってるんだ、当たり前だろ。そんで俺が守ってやる!」
「うん」
目を閉じ、嬉しそうに答えるルル。ルルは心の中でハルトに言った。
――ありがと、私の王子様
ルルの全身をとても暖かな幸福感が包んだ。
真っ黒な夜空。美しく輝く駆ける白馬。そしてそれに乗った王子様が姫を助ける。
それはまさにお伽噺のような美しい光景。それはそこに集まった群衆を始めすべての者を魅了した。
そしてその輝ける姿は、後世このエルフネル王国に延々と語り継がれる美しき物語となる。
ルルを助け出し、空を駆けるハルトが大声で群衆に向かって言った。
「聞け、お前達!! お前らが混血を差別しようが構わない。だが覚えておけ! 混血だろうが純血だろうが、大切な者に涙を流させる奴は必ずその報いを受ける。そして俺の大切な者を傷つける奴は、王族だろうが神だろうが……」
そう言うとハルトは手にした剣を天に振り上げる。
「この俺が叩き斬る!!!!」
その言葉に静まり返る群衆。しかし一人の少女が拍手を始めた。
パチパチ、パチパチパチ!!!
その少女、リーズは立ち上がり両手を上にあげて大きく手を叩いた。やがてその拍手は周りの、特に女性のエルフに伝播し、やがてそこに居る者すべてを巻き込んだ大喝采となった。
「すごい、すごいよ、ハルト。本当に国を変えちゃうよ……」
混血のリーズは夜空に舞う白馬に乗ったハルトを見て涙を流しながら言った。
「我々は、大きな間違いをしていたのかもしれないな……」
その様子を別の高台から見ていたエクセルの父親、エルフネル13世がそれを見ながらつぶやいた。拍手喝采が鳴りやまない広場。国王はそれを頷きながら見つめた。




