77.ローブの少女と美神ピュリア
エクセル王子に一方的に押されていたクレア。その危機に突如現れた真っ白なローブの少女。ハルトも、そしてクレアもその少女を覚えていた。
「あ、あなたは、確かグラリスに襲われていた時に助けてくれた……」
ローブの少女は笑顔でクレアに言う。
「ああ、ボクのことを覚えていてくれたんだね。ありがと」
高台でもハルトが突如現れたローブの少女を見つめ、驚きの表情を浮かべている。ローブの少女がクレアに言う。
「来るわよ」
ドーーーン!!!
「きゃああ!!!」
ローブの少女がそう言うと、広場中央にあった美神ピュリアの石像に巨大な落雷が落ちた。
突然の雷鳴。激しい衝撃音。そして一帯を包む砂埃。落雷を受けたピュリア像は半分に割れ、床に落ちた。
「ああ、ああ……、ピュリア様が……」
それを見たエクセルが両膝を付いて嘆く。
「!? ……あ、あれは!!」
エクセル同様嘆く群衆。
しかし砂埃が徐々に薄くなり、その割れ落ちたピュリアの石像があった場所に、全く同じ形のピュリアが現れていた。しかもそれは色の付いた、生気のある美神。そしてその新しいピュリアは、豊潤なブロンズの髪を手で一度かき上げると言った。
「我こそはこの国を守護する美神ピュリア」
エクセルを含め静まり返る群衆。しかしその美しいブロンズの髪、純白の天衣。神々しいいその御姿は、エルフネル王国の至る所で祀られているまさに美神そのものであった。
「うおおおおお!!! 美神ピュリア様ああああ!!!!!」
群衆から割れんばかりの歓声が上がる。狂喜乱舞する民。中には涙を流して喜ぶ者もいる。
「おお、び、美神ピュリア様……、なんと美しく神々しい……」
エクセルはその姿を見て半分呆けたような顔で跪いた。ピュリアが言う。
「エクセル、その者を片付けなさい」
ピュリアはローブの女を指差し、そうエクセルに命じた。
「はい……」
エクセルの目はうっとりし、意志を持たぬ人形のように乾いた返事をした。そして剣を持ちローブの少女に対峙する。
「下がってて、ボクが相手をする」
ローブの少女はクレアのそう言うとエクセルの前に立った。
「意識あるかい? キミ」
ローブの少女の呼び掛けに反応しないエクセル。ううっと呻きながら剣を振り上げて斬り込んできた。
ドンドン!!
ローブの少女はその攻撃を右手一本で防いだ。それ見て驚くクレア。
彼女は武器を一切持っていない。しかしエクセルの剣撃を片手で防ぎ続ける。よく見れば手に当たる寸前で、剣が魔法か何かによって止められているようだ。
一切表情を変えないローブの少女。クレアは身震いをした。
「……意識はないようだね。じゃあ仕方ない」
ローブの少女は小さく何かを詠唱すると、エクセルの剣撃をかわしてその懐に入った。
「はい」
ドン!!!
ローブの少女はエクセルの胸に片手を当てると、何かの衝撃をその体に与えた。それにより大きく振動し、少し後退するエクセル。そしてそのまま白目を剥いて床に倒れた。
「大丈夫かい?」
ローブの少女は宙に浮きながらクレアの元まで戻って来た。
「あ、ありがとう。あなたは?」
クレアのその問いかけにローブの少女は微笑むだけで答えようとはしなかった。手を取って起き上がるクレア。
「うごおおお!!! 美神ピュリア!!! ピュリア!!!」
自国の王子が倒されたのにそれにすら気付かない群衆達。その眼は美しき神、ピュリアに釘づけであった。ピュリアを称える歓声が広場中に広がる。
しかしクレアの耳にはそんな大きな歓声も聞こえなかった。
――何もできなかった、私……
クレアは自分の力不足を心より恥じた。
「あら、どちらへ行くのかしら」
一方ピュリアは、再び塔へと向かおうとしたハルトの前に降り立った。
「お前は美神ピュリア……、本物なのか?」
ピュリアは美しい顔で上品な笑みを浮かべてハルトを見つめる。そして優しく言った。
「我は美神ピュリア。我を拝めよ、ヒトの子よ」
ハルトは気付いた。
ピュリアがそう言った瞬間に、彼女から放たれた目に見えぬが感覚で分かる『ピンクの波動』。それが高速でハルトに発せられた。ピュリアが続ける。
「ヒトの子よ、美しき我を崇めよ」
「……」
「…………断る」
「えっ!?」
ピュリアの顔に焦りの色が見える。明らかにこれまでの余裕とは別の何か経験のないような焦りが出始める。
(はあっ!)
ハルトは再び発せられたそのピンクの波動に気付いた。ピュリアが言う。
「我の命を……」
「効かないよ、そんなもん」
「!!!」
今度は明らかに驚きの表情を露呈したピュリア。少しだがその体が小刻みに震えているのが分かる。
――私の魅了が、効かない?
ピュリアの顔はそれまでの余裕から焦り、そして今は引きつった恐怖の顔へと変化している。ハナが小声で言う。
「気を付けて、ハルト。こいつからは魔族臭がする」
「魔族臭? ってことはこいつ、魔族か?」
ハルトは目の前にいる美しきピュリアを見て言った。
「わ、我こそは【美の畏敬】美神ピュリア!!! 我に楯突いたことをあの世で後悔させてやる!!!」
そう言うとピュリアは両手から光の矢を撃ち放ってきた。
「シールド!!!」
カンカンカン!!!
その光の矢はハルトのシールドに当たると、あっけなく消え去る。
「行くぞ、ハナちゃん!!! はあああああ!!!」
防御の術を知らないピュリアは、素早いハナの突進とハルトの連撃をかわしきれずその攻撃を体に受ける。
「ぎゃあああ!!!」
ハルトの剣撃が深く当たる。間入れず左手を前に突き出す。
「シールド!!!」
ピュリアの後ろにシールドが出現。
ドン!!
「えっ!? ぎゃああああ!!!!」
ハルトはピュリアの退路に大きなシールドを張り動きを止めて、思いきり斬り込んだ。袈裟懸けの様に斬られるピュリア。その体からは緑色の血が噴き出す。
「なぜ、効かないの……」
ピュリアは倒れ行く中で小さくそうつぶやいた。




